[ 写真 ] 「器楽教育」を通じて、楽器を演奏する喜びをインドの子どもたちに

「器楽教育」を通じて、楽器を演奏する喜びをインドの子どもたちに
-インドにおける器楽教育導入の取り組み-

2020年の推定人口約13億人。そして2030年までに中国を抜き、世界最大人口の国家となることが予想されているインド。国内総生産(GDP)成長率などからも、無限の可能性を秘めたインド市場に世界の国々が注目し、日本企業も多く進出しています。ヤマハ(株)は、2008年に現地法人「ヤマハ・ミュージック・インディア(以下、YMIN)」を設立、2019年にはインド初の生産工場をチェンナイで稼働し、製販一体でのオペレーションで、拡大するインド国内市場をはじめ新興国市場向けの普及価格帯ポータブルキーボード(以下、PK)やアコースティックギター、PA機器などを生産・販売しています。

また、2018年からは独自の器楽演奏体験をサポートする「スクールプロジェクト」を通じて、インドの子どもたちに器楽演奏の楽しさを伝え、子どもの豊かな成長を促す支援を行っています。

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5カ国で展開している「スクールプロジェクト」

ヤマハでは、「ヤマハ音楽教室」をはじめとする音楽教育プログラムをグローバルに展開し、老若男女に楽器を演奏する楽しさや、音楽を学ぶ喜びに触れる機会を提供してきました。2015年より新興国を中心に展開している「スクールプロジェクト」は、楽器に触れる機会に恵まれなかった子どもたちにも演奏する楽しさを知ってもらえるよう、支援する取り組みです。ヤマハと現地法人が一体となり、社会のさまざまな場所において子どもたちに楽器に触れる機会を提供しています。

スクールプロジェクトの特徴は、これまで音楽の授業はあっても楽器を演奏することはなく座学が中心だった地域に向けて、楽器・教材・指導ノウハウをパッケージにした独自プログラム「Music Time」を提供するところにあります。学校の音楽教師でも、ほとんど楽器に触れたことがないという状況が珍しくない中で、リコーダーやPKなどの楽器を楽しく学べる学習コンテンツを提案。2020年3月末現在、計5カ国にて展開しており、現地の民族音楽を採り入れたり、学習成果を発表するイベントを設けたりとその地域に合わせた取り組みを通じて、各国の文化に調和した器楽演奏体験の活性化に寄与しています。

スクールプロジェクトでは、世界の子どもたちが質の高い器楽演奏体験の機会に等しく恵まれることを最終目標に掲げています。2020年9月には、ベトナム教育訓練省と連携して進めてきた小中学校への器楽演奏の導入・定着化への取り組みの成果として、同国の学習指導要領にリコーダーによる器楽演奏が加えられ、子どもたちに等しく器楽演奏体験の機会が届けられる予定です。

[ 写真 ]インドネシアでの音楽授業
インドネシアでの音楽授業
[ 写真 ]ベトナムでのリコーダー授業
ベトナムでのリコーダー授業
[ 図 ]新中期経営計画目標

リコーダー演奏を軸とする「Music Time」を提供

2018年からスクールプロジェクトを展開しているインドでは、公教育のカリキュラムに音楽教育が未導入であり、一部の私立小学校で座学中心の音楽教育が採り入れられているのみという現状があります。

インドでは、音楽鑑賞の人気は高いものの、伝統的に一般の人々が楽器を演奏する風習がなく、かつては楽器に触れられるのは一部の音楽家に限られていました。輸入文化である西洋楽器についてはその限りではありませんが、それでも富裕層の子どもが教養や資格取得※1のためにピアノを習うといったケースが見られるくらいで、現在でも多くの子どもたちにとって楽器がなじみの薄い存在であることに変わりありません。

このようなインドの状況に鑑みた最適な導入手法を確立するため、まず私立小学校を中心に「Music Time」の提案を進めています。2018年度に44校、翌2019年度は81校を加え、2020年4月現在では、合計125校に展開しています。

インドのスクールプロジェクトでは、小学校3年生以上を対象に、リコーダーを使った器楽教育の機会を提供しています。リコーダーは手軽でなじみやすく、また運指と吹奏の二つの要素を備えるため、初めての器楽教育に最適な楽器の一つです。子どもたちからは「音楽の授業があるから学校に行くのが楽しい」といううれしい声が届いているほか、学校音楽教師からは一方的になりがちな座学に対して、器楽教育の持つインタラクティブ性が高く評価されています。

今後、4年生以上に向けた「Music Time Recorder Advance」を追加するなど、希望者には引き続き楽器を学べる環境を用意しています。同時に、私立小学校だけでも8万校を数えるという広大なインドでの器楽教育普及を進めるため、学校訪問専門のリージョナルセールスオフィサーの育成も進めています。

  • 1 インドでは、トリニティーグレードやABRSM(英国王立音楽検定)が資格として認められており、進学の際に評価される
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インド初の生産工場と、インド音楽を再現する「インドモデル」

インド市場におけるヤマハの楽器売上のうち、約7割をPKが占めています。西洋楽器の普及が進む同国において、特にPKは子どもから大人まで幅広い層に親しまれている楽器です。

そのような背景には、ヤマハが1986年より中国・中東・インドなど民族音楽の人気が根強い国々向けに展開している「ローカルモデル(地域専用モデル)」の存在が大きな意味をなしています。多種多様な伝統音楽が入り混じるここインドでも、2007年からシタールなどの民族楽器の音色を再現したローカルモデルのPKを販売し、多くの方に手に取っていただいています。

その最新モデル「PSR-I500/I400」は、インドの新工場で生産されている地産地消のオールインドモデル。従来モデルよりも伝統楽器の音色をさらに増やし、伝統音楽やインドポップスなど自国音楽の再現に適した自動伴奏スタイルを追加搭載するなど、より幅広い音楽の演奏を楽しむことができるとともに、インドの文化に寄り添ったスタイルを提案しています。そして将来的には、リコーダーに続く「Music Time」用の教育楽器としての活用も期待されています。

[ 写真 ]インド工場
インド工場
[ 写真 ]インドモデル「PSR-I500」
インドモデル「PSR-I500」

― ポータブルキーボード PSR-I500/I400(インド専用モデル)

[ 写真 ]PSR-I500 JOY OF INDIAN MUSIC

インドの各地方で親しまれているポップス/伝統音楽をこれまで以上に楽しめる楽器を目指したPK。搭載される音色の拡充や自動伴奏機能の強化を図った他、メニューやコンテンツリストを地域の音楽主体に並べ替えるなど、細かい工夫を盛り込んだ。クイックサンプリング機能で独自の音作りを楽しんだり、USBメモリを介して気に入った演奏をSNSでシェアするなど、新たな音楽の楽しみ方も提案している。

音楽や楽器を学ぶ喜びを、すべての人々へ。半世紀以上変わらないヤマハの願い

ヤマハが音楽文化の普及活動の一環として音楽教育事業を展開してから、約半世紀。音楽や楽器を通じた生涯にわたって続けられる学習機会を世界の人々とともに創出してきました。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)目標4「すべての人々に質の高い教育を」の達成に向け、ヤマハはこれからも現地の音楽文化に寄り添いながら、独自の教育メソッドと組み合わせて、世界の子どもたちに音楽・楽器演奏の喜びを伝え続けていきます。

Comments

器楽教育は、子どもたちの心身両面を育む重要な存在

ヤマハのリコーダープログラムによって、子どもたちは楽器の演奏方法や音楽の基礎知識を学ぶ機会を得ることができ、心身共に成長しました。楽器を演奏することは、心肺機能が強化され、運動能力の発達が期待できるだけでなく、集中力を高め、ストレスと不安を和らげるなど精神面にも効果的で、器楽演奏は子どもの成長にとても重要なことだと考えます。

中には、リコーダーでABRSM(英国王立音楽検定)※2の受検を始めた子どももいます。

今後、子どもたちに大きな舞台で演奏する機会を提供したり、リコーダー以外のプログラムの展開などにより、子どもたちの成長をサポートしていけたらと思っています。

[ 写真 ] Kunwar’s Global School 音楽教師:Vardan Lee Gray 様
Kunwar’s Global School 音楽教師
Vardan Lee Gray 様

インドの音楽教育全体のレベルアップに貢献するために

YMINでは、学校教育での器楽教育の推進に全力で取り組んでいます。

公教育で楽器演奏の機会がなく、また音楽教師も不足しているインドでは、器楽教育に関心はあるものの多くの学校で導入をためらってしまう現状があります。

私たちYMINは、すべての子どもたちが少なくとも一生に一度は楽器を学ぶことができるように、器楽教育の重要性を社会に訴求していきたいと思っています。楽器を演奏する喜びを広めるために、音楽教師のスキルアップのための研修や、教育関係者などに必要なガイドラインを提供するなど、インドの音楽教育全体のレベルアップのために全力で取り組んでいきます。

[ 写真 ] ヤマハ・ミュージック・インディア スクールプロジェクト担当:Sharad Banerjee
ヤマハ・ミュージック・インディア スクールプロジェクト担当
Sharad Banerjee
  • 2 ABRSM/1889年に設立された英国王立音楽検定協会が実施する世界最大規模の音楽検定。120年以上の歴史と伝統を誇るこの検定は、約90カ国で実施され、毎年約63万人以上が受検している