エレクトレットシートセンサー技術

エレクトレットシートセンサー

ヤマハでは、よりよい音を求めて、楽器の音や、その音のもととなる振動を感知するセンシングデバイスの研究開発に長年取り組んでいます。その一環として、一般財団法人小林理学研究所、株式会社ユポ・コーポレーションと組み、素材に合成紙ユポを使ったセンサー「BeatSticker™」の開発に成功しました。
BeatStickerは、合成紙「ユポ」に電荷を閉じ込めて、厚みの変化で電気を起こすセンシングデバイスです。

合成紙「ユポ」

シートセンサーの仕組み

合成紙ユポは、選挙ポスターや選挙の投票用紙などにも使われており、耐久性、柔軟性に優れています。ミクロ的にみると、まるでパイ生地のような多層構造になっていて、その層間には多くの空間が存在している多孔性シートです。この合成紙ユポにコロナ放電を照射し、電荷を閉じ込めると、分極されたエレクトレットシートができあがります。

厚みの変化に比例した電圧を発生する素子

エレクトレットシートの厚さが変わると分極の大きさも変わります。それを電気信号として取り出すことにより、センシングデバイスとして機能します。

このシートの特徴として、シート自体はたいへん柔らかいバネのようなものであり、発生する電気信号はシートの厚さの変化量に比例します。またシートと電気信号の検出器の接続を入れ替えれば、電気信号の極性は切り替え可能です。シートの厚さに変化がなければ出力はありませんので、静止荷重は検出しません。

デバイス設計

このようなシートがあったとして、どのように使いこなせば、便利なデバイスをつくることができるでしょうか?
まず、シートの厚みを変える要素(力)にどんなものがあるかを考えてみます。

1. 音圧

音圧は気圧の振動です。両面が自由な状態のシートは、通過する気圧の粗密に従い、シート自らがつぶれたり膨らんだりする事で音圧を検出する事が出来ます。

2. 直接荷重

片面を固定された状態のシートは、自由な面に掛かる力の押し引きでシートがつぶれたり膨らんだりします。それにより力の大きさ、変位量を検出する事が出来ます。

3. 加速度荷重

片面に錘を付けた状態のシートは、マスばねの機構を備えます。この状態のシートを振動させると、加速度に応じて錘に掛かる力で、シートが潰れたり膨らんだりするため、加速度を検出する事が出来ます。

合成紙ユポのような多孔性シートは極めて軽く、さらに低弾性のため、わずかな圧力や荷重に反応する一方、合成紙ユポが持つ耐久性で、強いバネや錘とも組み合わせることが可能です。とりたい音や振動、とりたい場所に合わせて、検出機構と形状、感度と帯域を自在に設計することができます。

ギターピックアップシステム Atmosfeel™ での実用化

エレクトリックアコースティックギター「FG / FS Red Labelシリーズ」で展開するAtmosfeelピックアップシステムは、弦の振動、響板の振動、ボディの音をそれぞれのセンサーで拾うことで、演奏者の好みに合わせた音作りを楽しめます。

Atmosfeel ピックアップシステム

BeatStickerは、響板の振動を拾うコンタクトセンサーとしてAtmosfeelピックアップシステムに搭載されています。

・Microphone (胴体内の共鳴音)
・UnderSaddle PickUp (サドル下の弦の振動)
・Contact Sensor (響板の振動:BeatSticker)

響板の振動を拾うコンタクトセンサーはこれまでにも存在しましたが、高域で安定した特性を得ることができませんでした。BeatStickerを用いたコンタクトセンサーは、響板、素子、錘の順に積み上げてシート自体をばねとして構成することで、振動加速度を検出するマスばね機構としてパッケージ化しています。

多孔性シートの特徴である軽さ、低弾性を生かし、さらに錘を適切に設定することにより、響板本来の振動特性を損なうことなく、高域特性のよいコンタクトセンサーとして、Atmosfeel独特の生音らしさに、貢献しています。

今後の展開

ここでは、エレクトレットシートセンサーの活用事例として、Atmosfeelピックアップシステムをご紹介しましたが、ヤマハが手掛ける楽器はギターだけに止まりません。弦楽器だけでもいろいろな種類がありますし、鍵盤楽器、打楽器、吹奏楽器、さらにはヤマハが誇るサイレントシリーズもあります。

また、楽器一つをとってみても、センサーが拾える振動は楽器の場所毎に異なります。音圧、荷重、加速度から最適なものを選んで、それぞれの楽器から最高の音を引き出す楽器用センサーシリーズを展開するべく、研究開発に取り組んでいます。