作成中:スピーカー非線形制御技術
タイトル
スピーカーやヘッドホンなどの音響機器では、入力信号に対して再生音が理想通りに追従しないことで、音に濁りや不自然さとして現れる「歪み」が生じることがあります。当社の非線形制御技術は、こうした歪みを材料、電気回路、信号処理の各技術面から抑えることで、音源に込められた表現をより正確に、自然に届けることを目指す技術です。
音響機器における歪み
音響機器の歪みは、振動板や磁気回路、電気的な応答などの複数の要因によって発生し、音の濁り、定位の不明瞭さ、低音の輪郭の甘さなど、再生品質に直接的な影響を与えます。
スピーカーにおいては、振動板を支えるバネのような部品の特性や、振動板を動かす磁気回路の力の変化、さらに電流によって金属部品内に生じる不要な電磁的な影響などが重なることで、理想通りに音を再現しきれないことがあります。このような動きのずれや応答の乱れが歪みとして現れ、音の明瞭さや自然さを損なうことに繋がります。
このようなさまざまな要因で発生する歪みに対し、当社では以下の3つのアプローチで技術開発を進めています。
電気・磁気起因の歪み
1. 磁性材・磁気回路でのアプローチ
2. 電気回路によるアプローチ
振動板の動きに伴う歪み
3. 信号処理によるアプローチ
1. 磁性材・磁気回路による歪み低減技術
この技術は、スピーカーやヘッドホンの中で振動板を動かす磁気回路に着目し、材料とシミュレーションの両面から歪みを低減する技術です。磁気回路には磁石や鉄などの磁性材が使われており、ボイスコイルに流れる電流と磁界の相互作用によって音を生み出します。
この磁性材の内部に発生する渦電流は、磁気回路の非線形な応答を引き起こし、聴感への影響が大きい三次歪み(元の音に対して3倍の周波数成分として現れる歪み)の発生につながります。
当社では、この歪みを抑えるため、渦電流を低減できる軟磁性複合材料(SMC)の活用に取り組んでいます。材料特性に加え、表面保護や形状安定性など実用化に向けた信頼性も評価しています。また、磁気回路シミュレーションを用いて磁界や渦電流の分布を可視化し、磁性材の種類や磁気回路構造が歪みに与える影響を評価しています。このように、材料評価とシミュレーションを組み合わせることで、より歪みの少ない磁気回路設計を目指しています。
2.電気回路による歪み低減技術
この技術は、スピーカーとパワーアンプを一体のシステムとして捉え、両者を協調動作させることでスピーカーの音響歪みを低減する技術です。従来のオーディオシステムでは、アンプはフラットな電圧を出力し、スピーカーはその出力を受けて設計されるのが一般的でした。しかし、この方式では、スピーカーユニット内部の磁気材料に起因する非線形なインピーダンスの影響により、ボイスコイルに流れる電流が歪んでしまい、結果として音響出力にも歪みが生じてしまいます。
そこで、既存のスピーカーユニットをアンプ回路の一部として扱い、電流を正確に制御する回路技術を開発しました。スピーカーの駆動力に直結する電流波形を理想に近づけることで、磁気回路由来の電流性歪みを広帯域で低減します。特殊な材料を使わずに、数点の電気部品の追加で最大約20dBの歪み低減効果を実現しています。この技術によって、音源に忠実でクリアな再生音を実現するとともに、音像の定位(ボーカルや楽器などの方向や位置、距離感)や空間表現、残響質感の向上にも貢献します。
この技術はSynagistic Driveという名称で、以下の製品に搭載されています。
- ワイヤレスHiFiスピーカー「NX-70A」
3.信号処理による歪み制御技術
この技術は、スピーカーの非線形な動きに起因する歪みを、DSPによる信号処理で補正する技術です。特に低音域では、振動板が大きく動くことで本来の理想的な動作からずれが生じやすくなり、入力信号に対する正確な再現が難しくなります。この結果、波形の乱れや立ち上がりの遅れが生じ、音の輪郭や明瞭さが損なわれる原因となります。
こうしたスピーカーの動きを適切に補正することで、入力信号に対する追従性を高めます。これにより、低音域における歪みを低減し、より自然で明瞭な音の再現を実現します。さらに、低音の輪郭やアタックの表現が向上することで、細部まで聞き取りやすい再生音を提供します。また、スピーカーの動作が安定することで、大きな音量で使用する場合でも音質が崩れにくくなり、プロフェッショナルな現場において求められる信頼性と音響性能の向上にも貢献する技術です。
この技術はDrive Motion Calibrationという名称で、以下の製品に搭載されています。
- パワードラウドスピーカー「DXR mk3 Series」
今後の展開
スピーカーやヘッドホンにおける歪みは、音の明瞭さや自然さ、空間表現に大きく関わる重要な課題です。今後は各技術をさらに進化させるとともに、スピーカーやヘッドホンに共通する非線形性の低減に関する技術や知見を、製品形態に応じて相互に展開していきながら、より忠実で豊かな音の再現を目指していきます。