楽譜AI技術

楽譜AI技術は、複雑な構造を持つ楽譜をAIで理解・処理するための技術です。楽譜の難易度の調整、別の楽器用へのアレンジ、音源からの採譜などを自動で行えるようにし、用途や演奏者に合わせた楽譜つくりを可能にします。AIによって楽譜を思い通りに扱えるようにすることで、音楽をより身近に、より自由に楽しめる世界を目指しています。

楽譜難易度変換技術

演奏者一人ひとりに最適な楽譜を届ける

音楽を学ぶ多くの人が抱える悩みのひとつに、「自分のレベルにちょうど合う楽譜が見つからない」という問題があります。初心者には難しすぎる、上級者には簡単すぎる、といった状況は珍しくありません。もちろん既存の楽譜を演奏者の習熟度に合わせて書き換えることは可能ですが、その作業には高度な音楽スキルが求められ、相応の時間もかかります。指導現場や制作現場では非常に負担の大きい作業となります。

こうした課題に対して、ヤマハは「楽譜そのものを AI が理解し、難易度に応じて適切に変換する」という新しいアプローチの研究に取り組んでいます。楽譜をAI が理解できるデジタル表現にすることで、同じ曲から複数レベルの楽譜を自動生成することが可能になります。演奏者の習熟度や学習目的に合わせて、入門から上級まで自在に調整された楽譜を提供できるこの技術は、音楽学習や演奏体験の価値向上に大きく貢献できると考えています。

楽譜を理解し変換するAIモデル

楽譜には、音高やリズムだけでなく、拍子・調号・声部・アーティキュレーションなど多層的な音楽情報が織り込まれており、その構造は非常に複雑です。こうした情報を単純なデータとして処理するだけでは、音楽的な意味や意図を保ったまま変換することは困難です。

本技術では、まず楽譜に含まれる要素を丁寧に分解し、AIが処理できる形へと整理した「楽譜トークン表現」を用いることで、この課題を解決しています。対象の楽譜をこのトークン列に変換して入力することで、最先端の深層学習モデルが楽譜の構造や音楽的文脈を理解し、指定された難易度に応じた新たなトークン列を生成します。生成されたトークン列を再び人が演奏できる形式の楽譜に変換することで、音楽性を損なうことなく、意図した難易度に調整された自然な楽譜への変換を実現しています。

学習データと変換プロセス

本技術の実現には、同じ曲について難易度の異なる複数の楽譜を揃え、その対応関係をモデルに学習させることが重要となります。こうした楽譜ペアデータを大量に用意し深層学習モデルに与えることで、和音構成やリズムの細かさ、音域の広さなど、難易度の違いを生み出す要素をモデル自身がデータから捉えられるようになります。また、初級向けに多く用いられる表現や、上級向けで特徴的な構造といった統計的な傾向も学習していきます。本技術では、「入門」「初級」「中級」「上級」の4段階の難易度を指定することができ、学習済みモデルは入力された楽譜を指定された難易度に変換することが可能です。

今後の展開

現在ピアノ楽譜を主な対象とした技術ですが、今後は対象楽器を拡大していきたいと考えています。様々な楽器の楽譜を学習に取り込むことで、それぞれの楽器に特有の奏法や表現を踏まえた難易度変換を実現でき、さらにはピアノ譜からギター譜へといった楽器間の楽譜変換にも発展させることが可能になります。これにより、多様な演奏者・多様な楽器に適応した柔軟な楽譜生成の実現が期待されます。

また、演奏者それぞれのスキルや目的に合わせて楽譜を調整する、パーソナライズへの展開も重要な方向性です。個々の学習段階、得意な奏法、練習意図などに応じて、より細やかに最適化された楽譜を提供できるようになることで、これまでにない学習体験や演奏体験が生まれます。

こうした取り組みを通じて、より多くの人が楽譜を身近に楽しめる技術開発を進めていきたいと考えています。