HiFiスピーカーの不要な共鳴を抑制する技術
HiFiスピーカー
ヤマハの多くの製品には、スピーカーが搭載されています。家庭で音楽を楽しむためのホームオーディオ用スピーカー、ライブやコンサートで多くの人に音楽を届けるプロオーディオ用スピーカー、音楽制作に使うモニタースピーカーはもちろん、電子ピアノやキーボード、ギターアンプ、カーオーディオ等、スピーカーが使われている製品は多岐にわたります。
とりわけ、ホームオーディオ製品の中でもHiFi(ハイファイ)スピーカーと呼ばれるものは、よりハイクオリティで上質なサウンドを提供することにより、贅沢なひとときを楽しめる特別な存在と言えます。HiFiとは、High Fidelity(高忠実度、高再現性)の略語であり、「原音に忠実な再生」という意味を持っており、そうしたスピーカーには、音源を再生する際のノイズや歪の発生を最小限に抑えるための様々な技術が盛り込まれています。
ここでは「HiFiスピーカーの不要な共鳴を抑制する技術」について紹介します。
スピーカーキャビネットの共鳴による不要な放射音
スピーカーシステムは、主にアンプ、スピーカーユニット、キャビネットで構成されます。音源ソースの信号を受け取ったアンプはスピーカーユニットを駆動する電気信号を出力し、スピーカーユニットが音に変換します。キャビネットは、スピーカーユニット背面から出る音を抑制します。
一方で、人間は空気圧の変動を耳で捉えることをとおして、音や音楽を知覚します。この大気圧からの変動分を音圧と呼びます。この音圧波形について、同じ波形が1秒間に繰り返す回数を周波数と呼び、音の高さ(ピッチ)に対応します。
スピーカーユニットが振動することによって発生するキャビネット内の音圧は、しばしば特定の周波数で非常に大きな値をとります。この現象は共鳴によるものです。これが原因となって不要な音が放射され、リスニング品質に悪影響を与える傾向があります。
共鳴器や吸音材による対策
不要な音の放射を最小限に抑えるためには、スピーカーキャビネットの不要な共鳴を抑制する必要があります。一般的には、吸音材や共鳴器などの音を吸収する部材を、スピーカーキャビネットの中に配置することで対策します。
吸音材の代表的なものとしては、グラスウールやウレタンスポンジ材、フェルトなどがあげられます。これらは高い音(高い周波数)を中心に音を吸収し、それほど細かな調整をしなくても共鳴を抑える効果が得られます。しかし、対策の必要な共鳴周波数以外への影響も大きく、スピーカーの音量低下や意図しない音質変化などの副作用が発生する場合もあります。
共鳴器の代表的なものとしては、フラスコやワインボトルのように、空洞部分にネックが接続された形をしたヘルムホルツ共鳴器が挙げられます。共鳴器は特定の音の高さ(周波数)で自身が共鳴し、その高さ(周波数)の音を吸収するため、ねらいを絞って対策できます。例えばキャビネットの共鳴周波数の音を吸収するように共鳴器を設計・調整することで、ねらった周波数帯域以外への影響を抑えることができます。しかし、対策が必要な共鳴周波数1つにつき共鳴器が1個必要です。したがって不要な共鳴が複数あるときには、基本的に共鳴器も複数必要となります。
吸音材:例)グラスウール・ウレタンスポンジ・フェルト
共鳴器:例)ヘルムホルツ共鳴器
ヤマハの「アコースティックアブソーバー」
これらの課題を解決し、さらに高音質なスピーカーシステムを実現するため、ヤマハは「アコースティックアブソーバー」を開発しました。アコースティックアブソーバーは、1個で複数の共鳴周波数に対応することが可能であり、さらに対策の必要のない周波数帯域への影響を抑えることも可能です。両端が開放された両開管という音響共鳴管がありますが、アコースティックアブソーバーはこの両開管を「J」の形に折り曲げた形をしています。
両開管は複数の音の高さ(周波数)で共鳴し、その高さ(周波数)の音を吸収します。最も低い共鳴周波数のn倍(nは自然数)の周波数で共鳴します。一方、スピーカーキャビネットの長手方向の共鳴が起こるとき、両端が閉じられた1次元音場とみなすことができ、こちらも両開管の音響共鳴管と同様に、最も低い共鳴周波数のn倍(nは自然数)の周波数で共鳴します。つまり、両開管とスピーカーキャビネット内の音場の1次(n=1、最も低い共鳴周波数)の共鳴周波数が一致するように設計すれば、自動的にn次の共鳴周波数も一致します。
しかし、上に述べたような調整をしたとしても、両開管の両端の配置によっては、キャビネットの共鳴を抑制できない場合があります。アコースティックアブソーバーが管を折り曲げた「J字型」となっているのは、より効果的な共鳴抑制効果が得られるよう、両端の配置を適切に設計した結果によるものです。
共鳴周波数と共鳴時の圧力分布
両開管の両端の位置・共鳴次数とキャビネットの共鳴を抑制する効果の有無