研究者紹介:稲岡 紋子
| 所属 | 研究開発統括部 先進技術開発部 社会共創グループ |
|---|---|
| 業務内容 | 感性計測技術を用いた多様な感性の可視化、感性研究による社会課題解決・共創 |
| 学生時代の専攻 | 学部:心理学、社会人修士:芸術学 |
| 入社年度 | 2010年度 |
ヤマハの研究開発では、楽器をはじめとする「モノ」と、音・音楽にさまざまな形で関わる「ヒト」の両方を研究対象としています。
その中で私はヒトの感性に関する研究を担当しています。ヒトの「音・音楽に対する感じ方」やその背景にある「多様な価値観」などを明らかにするほか、研究手法を活用し、社外のさまざまな研究機関や企業との共創や、地域との社会課題解決に取り組んでいます。
研究テーマ
①多様な価値観の可視化をはじめとする感性研究と、②技術を社会課題の解決につなげる研究の、大きく2つを担当しています。
多様な価値観の可視化をはじめとする感性研究
①の例として、演奏者の心理的な動因(Emotional Drivers)のモデル化があります。楽器を楽しむ人々の多様なモチベーションを肌で感じているからこそ、どんな価値観があるのか、それぞれの関係性を客観的に示したい——そんな想いをきっかけに取り組んだこの研究は、私自身がヤマハで研究をする上での礎になりました。また感性技術を楽曲制作に応用して、ブランドショップの来店者・従業員の「多様な想い」を可視化し、そこで見えた要素や関係性を織り交ぜ、ブランドを体現する楽曲づくりにも取り組んでいます。作曲・音響の専門家とともに研究知見を体験価値として実装し、銀座店でお客様を出迎える音楽として形にしています。
技術を社会課題の解決につなげる研究
②では、沖縄三線文化継承プロジェクトにおいて「技術で文化に貢献する」ことを掲げ、楽器解析や感性計測の技術・知見を活用した研究を推進しています。職人や演奏家が長年育んできた「感覚的な知」と、計測・分析に基づく「科学的な知」の融合を軸に、数値化・可視化の先にある「受け継ぐべきもの」「沖縄らしさとは何か」に目を向けるきっかけづくりと、研究で得た知見を社会に開き未来へつないでいくことを目指しています。
共創による研究活動
社会との共創も、業務の軸となっています。
共創は、一緒に取り組んでくださるパートナーの方々がいてはじめて成り立つものです。新たな研究テーマに挑戦する際は、考えや仮説をもってスタートしますが、実際に動いてみると、自分たちの思い至らなさに気づくことがほとんどです。その中で、ヤマハとして何ができるのか、共創によって何を生み出すことができるのかを問い続けながら、ときに悩みながらも、その経験を成長・変化の原動力として日々研究に取り組んでいます。
これまでのキャリアと経験
ヤマハに入社してからは、人事・新規事業・マーケティング部門など、さまざまな業務を経験して今に至ります。一見すると脈絡のない仕事の積み重ねのようにも見えますが、大きくは「人に関すること」と「新しいこと」に、多様な角度から挑んできたように思っています。
またプライベートでは、産業カウンセラー・キャリアコンサルタントの講習に通って資格を取得したり、社会人大学院で学際デザイン領域の研究を行うなど、仕事に留まらず、自身の中にある興味や「こうありたい」というものを追究してきました。
研究開発部門に限らず、ヤマハ全体を見渡しても、かなり特殊なキャリアだと思いますが、それぞれの経験から得た視点や考え方は、研究に取り組む上で随所に役立っています。業務とは別に構築した自身の軸も含めて、結果的に今に生きている、自身の興味を起点にしたことが後になって想像しなかった形でつながり、研究テーマになっていくと感じています。
感性を扱うということ
私自身の研究における人間観は、心理学をベースとしています。
感性研究は「ヒトを研究対象にする」ものですが、単に「ヒトが感じているものを数値化する」「ヒトについて客観的な立場から研究する」ことだけではないと考えています。研究対象となる人々と「ともに」研究すること―そう言えるのかもしれません。
メーカーとしては、感性の一端を少しでも解明し、さらに技術を掛け合わせて新たなモノづくりを…という流れになるのですが、事業貢献は大前提としながらも、ひとりの研究者としてのモチベーションは、少し別のところにあります。
傾聴では、相手と「ともに」理解していくと言われています。相手がどう感じているのか、周りの世界をどのように見ているのかについて、内側から・その人の視点から理解したいと考えています。
人々と向き合う中で、研究者はその人からみた世界を「教えてもらう」ことになるのですが、その小さな関わりや研究の積み重ねが、いつかその人にとって「善く生きること」に少しでもつながってほしいという願いがあります。「こころ豊かなくらし」を掲げるヤマハで研究を続けることは、カウンセラーのような臨床分野とはまた別の形で「人々が善く生きること」に貢献できると考えています。
人文科学視点での感性研究
研究開発部門に在籍している文系出身者は、ごくわずかです。ヤマハにおける人文科学領域の研究は、まだまだこれからだと感じています。
一方で、機能的価値が飽和しつつある今、社会価値創出においては、独自の視点から人々の多様な価値観・感性を深く洞察することが不可欠です。こうした背景から、人文科学領域のヒト・感性研究はヤマハの新たな基盤になると考えています。さまざまな専門分野の研究者とともにこの研究領域を確立させ、「ヤマハの保有技術」の幅を拡げていくことを目指しています。
文化に生きる人々とともに
研究を通して人々と向き合うということは、ケースごとに異なる人々と対話を続けるということです。「この技術さえあればどこででも通用する」というものではなく、それぞれの人がもつ文化・文脈に向き合い、その中でできることを探索し続けることとも言えます。
一方で、「人を捉える」という強みを一研究者として発揮できるフィールドは、ヤマハの事業領域に留まりません。三線の共同研究に代表されるように、ヤマハの事業の外にも貢献できる場は拡がっていると感じています。
これからもヤマハらしい社会課題解決のあり方を探索し、研究を通じてヤマハという企業の社会的存在意義を拡張していきたいと考えています。
プライベートの過ごし方
趣味はバスケットボール観戦と、猫たちをもふることです。最近は猫のために長期旅行は控えていますが、バスケの試合にあわせた小旅行も楽しんでいます。音楽とは全然関係のない趣味ばかりですが、オンオフの切り替えにも一役買っています。