余暇図鑑プロジェクト
人生を楽しむ力を育む余暇図鑑プロジェクト
余暇図鑑プロジェクトは、ヤマハ従業員の「余暇の過ごし方」を紹介するWebサイト「余暇図鑑」を中心に、静岡大学教育学部との共同研究により進めている取り組みです。
近年、AIやロボット産業がますます発展し、人が働く時間は短くなり「自分のための時間」が増えていくと考えられてきています。次世代を担う子どもたちがこうした変化に対応できるよう、私たちはキャリア教育を「仕事」だけでなく、「人生全体をどう豊かに生きるか」というライフ・キャリアの視点で捉え直す必要があると考えています。そこで、子どもたちが自分の興味や価値観を深く理解し、多面的に将来を考えられるようにするための教材の企画・開発を進めてきました。
その考えを具現化したのがWebサイト「余暇図鑑」です。多様な大人がどのような楽しみを持ち、どのような経緯でそれに出会い、どのように人生の豊かさとつながっているかを、読み物としてわかりやすく整理しています。スマートフォンやタブレットでも閲覧しやすい構成とし、キャリア教育の授業で活用できるワークシートも掲載しています。
Web上で多様な大人の余暇に触れることで、子どもたちは「知らなかった世界の楽しみ方」に出会うことができます。余暇図鑑は、大人が日々をどのように楽しんでいるかを知り、自身がこれから人生をどのように楽しむかを考える、その機会を提供しています。
「余暇図鑑」のサイトをみる
プロジェクトの背景
学校現場のキャリア教育は、「どのような仕事に就くか」に焦点が集まりやすい傾向にあります。しかし、人生は仕事だけで構成されているわけではありません。静岡大学・塩田研究室は、キャリアを「人生全体」として捉え、「余暇」にも光を当てる取り組みを継続してきました。動画視聴やSNS、ゲームなど、画面上で完結する楽しみが中心になりやすい現在において、子どもたちがより幅広い楽しみに出会える場を整えたいというのが、本プロジェクトの出発点です。
塩田研究室では、「お仕事図鑑」に相当する教材は多い一方、「余暇」を主題とした教材は少ない点に着目し、「余暇が並ぶ図鑑」の構想を立てました。ヤマハとの連携のきっかけは、社内に多様な趣味を持つ従業員が多いだろうという印象から、余暇に関するインタビューを行いたいという提案でした。その後、「図鑑そのものを共同で開発する」方針へと発展しました。
ヤマハは、音や楽器を通じて人々のこころ豊かな暮らしを支えることを大切にしてきた会社です。仕事時間に加えて、余暇の時間を大切にすることこそが未来の豊かさにつながるとの考えから、社内の余暇を収集し、子どもたちに「人生の楽しみ方」を伝える教材づくりに参画しました。社内にはものづくり、アウトドア、スポーツ、推し活など、音楽以外にも多様な趣味を持つ従業員が多数在籍しており、こうした実例が「生きた教材」としての価値を生み出しています。
一般に企業の研究・技術開発は、技術そのものの開発・応用に重心が置かれがちです。しかし私たちは、これからの社会における豊かさの実現には、特定の技術開発を前提としない探索的な活動が有効であると考えています。本プロジェクトは、技術そのものではなく「豊かさ」そのものを子どもたちとともに見つめ直すことを目的としています。
この取り組みは「価値」を探すプロジェクトでもあります。制作の過程で、メンバー自身が多様な観点に気づき、余暇の大切さを再認識しました。このプロジェクトは、子どもたちにとってだけでなく、私たち大人にとっても、豊かさを見つめ直す契機となっています。
開発への道のり
図鑑づくりは、まず「余暇とは何か」の定義から着手しました。
一般に人の活動は次の3つに分類できます。
- 1次活動:睡眠、食事、身の回りの用事など
- 2次活動:通学・通勤、仕事、学業、家事、育児、買い物など
- 3次活動:移動、休養、学習、趣味・娯楽、スポーツ、社会的活動など
本プロジェクトでは、3次活動に該当する部分を「余暇」と定義し、仕事や学校の外側にある時間の過ごし方を広げていくための図鑑を制作することにしました。
掲載内容の検討にあたり、子どもたちが社会人の余暇に対してどんなイメージを持っているのかを知るために、高校生6名へのインタビューを実施しました。「満員電車に乗る社会人50人のうち、何人が余暇を楽しんでいると思うか」という問いに対し、「4〜5人」と答えた生徒が複数名いたことは示唆的でした。社会人になると趣味の時間は減る、あるいは無くなるというイメージが少なからず存在しそうだという一方で、ヤマハには多彩な趣味を楽しむ従業員が多く在籍しています。したがって、「大人も余暇を楽しんでいる」という姿を具体的に伝える必要性を強く認識しました。 また、インタビューでは余暇の中身だけでなく、「余暇を楽しむ人そのもの」への関心が高いこともわかりました。そこで、読み手がその人の歩みや価値観にも触れられるよう、人物像が浮かび上がるような項目を掲載する方針としました。実際に従業員へ行ったアンケートでは、はじめたきっかけ、続けている理由、辞めてしまった余暇、子どもの頃のエピソード、これから挑戦したいこと、子どもたちへのメッセージなど20項目以上を自由記述で回答してもらい、図鑑へ掲載する際は読みやすく、子どもたちにも身近に感じられるストーリーとなるように仕立てました。
公開後の取り組み
余暇図鑑が実際に子どもたちにどのように届くかを確かめるため、Web公開にとどまらず、学校での実証授業も実施しています。子どもたちに気になる記事を選んでもらう、授業に参加したヤマハ従業員の余暇を直接紹介するなどの活動を通じ、「大人はいつも仕事が忙しいイメージだった」「大人になっても、その人だからこそ楽しめる(余暇の)過ごし方があるのだなと思った」「自分が大人になったら(余暇を)どう過ごそうかと楽しみになった」など、余暇に対するイメージの変化や新たな気づきが生まれる場面に立ち会うことができました。
余暇図鑑の公開をきっかけに活動の場も広がり、教育CSRシンポジウムや日本キャリア教育学会など、これまでヤマハとしては関わることの少なかった場での発信にも取り組んでいます。図鑑のねらいや背景に共感する声が寄せられ、これまで接点のなかった企業との交流も生まれたことで、相互の強みを生かした価値探索につながっています。さらに、より豊かな内容へ向けて他社にも参画を呼びかけ、子どもたちが触れられる「人生の楽しみ方」の幅を拡張していきたいと考えています。
今後の展望
余暇図鑑は「作って終わり」ではなく、継続的に育てていく試みです。私たちは、図鑑を「答えを並べる場」ではなく、子どもたちが自分の楽しみ方を探しはじめる入口として磨き続けます。 本プロジェクトは、企業・学校・地域の人々がゆるやかにつながる場づくりにもつながっています。SNSの普及により人と人との関わり方が多様化するなか、「肩書の外側」での関わりが生み出す気づきや、「たまに会う」「ゆるく知っている」といういわゆる弱いつながりが生み出す安心感がより求められるようになっています。多様な余暇のストーリーが交差することで、つながりが生まれ、新たな価値観に出会い、人生を楽しむ視点が自然に広がる。その流れの中で、余暇図鑑は人や組織をつなぐハブとしての役割を担っていきます。
社内においても活用が進みつつあります。当社の採用ページに余暇図鑑へのリンクを掲載して学生さんにヤマハの魅力をアピールするほか、部署を越えた交流のきっかけとして活用されることもあります。「あの人、こんな趣味があったんだ」という新しい発見が生まれるなど、社内のつながりを緩やかに広げる役割も少しずつ持ちはじめています。こうした交流の中に、新しい価値の芽が隠れていると感じています。
ヤマハは、こうした価値探索活動をこれからも大切にし、ますます広げていける会社でありたい――それが私たちの願いです。製品や技術だけでなく、人の暮らしの質や毎日の楽しみ方に寄り添う挑戦を、今後も続けていきます。