アップサイクリングギター
楽器にはさまざまな木材が使われています。ヤマハは楽器づくりに必要な木材を世界各地から調達・活用しているほか、自然環境を保全しながら高品質な楽器を持続可能な仕組みの中で提供し続けるために、日々調査や研究を続けています。
アップサイクリングギターとは
ヤマハでは高品質な楽器を作るために木材を厳選し、加工しますが、その過程で当初の目的には使われなかった材料や端材が発生します。ヤマハではこれらを「未利用材」と呼んで、資源として有効活用する取り組みを進めています。
なかでも「アップサイクリングギター」の取り組みは、これまでギターには使われてこなかった木材を含めて多種多様な木材を活用しつつ、ギターの新しいあり方を探索することを目的としています。この取り組みを通じて、木材の可能性を見つめ直し、単なる材料のアップサイクルに留まらずにユニークな特徴を持つギター材料として活かすことで、ギターの新しい魅力を具現化しています。
3本のプロトタイプ
さまざまな未利用材の特徴を活かして新しい価値や魅力を創り出すために、2021年から2023年にかけて、3本のプロトタイプを製作しました。
第1世代 (2021年)
まずは社内にどのような未利用材があるのか、各工場を見て回るところから始まりました。ヤマハが扱う木材には本当に多種多様な種類があり、それぞれが固有の魅力を持っていることに改めて気付かされました。これらの木材を組み合わせ、樹種の個性を際立たせることで、インパクトを持ちつつ魅力的なギターを作れるのではないかというアイディアが生まれたのです。社内のギタールシアー(製作職人)と協力しながら製作を進め、木材の加工や接着などで難題もありましたが、「まずは形にすること」を目標に1stプロトタイプを完成させました。10種類以上の未利用材をパッチワーク状に配し、見た目のインパクトはさることながら、複数の木の音色が感じられる、ほかにはない音を奏でるギターとなりました。実際に形にしたことで、未利用材を使って魅力あるギターを製作できる可能性を示すことができ、社内外からも取り組みに対してポジティブな反応をもらうことができました。
第2世代 (2023年)
ギターにおいて個性が際立っていることは重要な要素です。第1世代では「未利用材を使って何ができるか」に主眼を置いていましたが、第2世代では、これまでにないギターのデザインや音を追い求め、未利用材が他の楽器に由来することに着目し、その特徴を活かして個性をより高めたギターを製作することにしました。
モデル「マリンバ」
このモデルでは、マリンバ音板の未利用材を採用しました。樹種であるローズウッドは密度が高く硬質で重量があり、特にマリンバの音板のために選定された素材は、音の伸びが良く余韻が長いことが特徴です。ネックからボディまでをマリンバ音板の未利用材で仕上げ、ボディは内部に空洞のないソリッドボディ構造にし、音板のブロックを並べることでマリンバらしさを表現しました。また、木目を60度傾けることで、剛性の高い木材でも自然な響きを実現しました。材料の持つサステインの長さがサウンドの特徴となっています。
モデル「ピアノ」
このモデルはピアノに使われている二種類の未利用材を使って製作しました。ボディのトップに使用したスプルースはピアノ響板のものです。響板はピアノの弦の振動を増幅させ、空間全体に美しく響かせる役割があり、ピアノの心臓部とも言われます。その響板材の響きを活かすために、ボディを部分的に空洞にしたセミホロウボディを採用しました。ピアノ響板材の特性とセミホロウボディによって生まれる、響きと歯切れのよさがサウンドの特徴です。また、指板には黒鍵に使用される黒檀材を用い、ピアノの鍵盤らしいメリハリをもたらしています。
いずれのモデルでも未利用材の特徴を最大限に活かし、それぞれの個性を具現化することができました。
ヤマハならではのものづくり
さまざまな木材を組み上げるには、加工、接着、塗装などの広範にわたる知識や技術が必要ですが、ヤマハには木材に関するプロフェッショナルが多数在籍しており、これまで積み上げてきた豊富な経験と専門技術を活かして、今回の組み上げを実現することができました。また、モデル「マリンバ」の真鍮製のバインディングは、金管楽器職人による手作業で仕上げられており、モデル「マリンバ」とモデル「ピアノ」におけるめっきの色合いの調整には、金管楽器の技術が生かされています。このように私たちが培ってきた多様な技術の組み合わせよって、ヤマハならではの新しい魅力を持つギターを生み出すことができました。
国際的なデザイン賞を受賞
2024年、モデル「マリンバ」とモデル「ピアノ」は「iFデザインアワード プロフェッショナルコンセプト」、「Red Dotデザイン賞デザインコンセプト」の2つの国際的なデザイン賞を受賞しました。ギターづくりやサステナビリティに関する我々のコンセプトが、海外でも賛同されたことを実感しています。
ニュースリリース
・コンセプトモデル『アップサイクリングギター』と『e-plegona』が「Red Dotデザイン賞」デザインコンセプト部門で受賞
サステナブルな楽器づくりに向けて
ヤマハはこれまで、長年にわたって様々な木材と向き合って楽器づくりを続けてきました。これまでと同じように伝統的な材料を用いるだけではなく、さまざまな材料の特徴を理解して楽器づくりに活かせるようになることが、未来におけるサステナブルな社会にふさわしい楽器づくりだと言えるのではないでしょうか。木材や楽器の本質を深く知り、どんな材料でも魅力的な楽器を作れる技術を磨く――その挑戦は、次の時代の楽器づくりへとつながっています。ヤマハはこれからも、木材資源の有効利用およびサステナブルな楽器づくりに取り組み、その中で生まれた新しい価値を提示していくことで、世界中の人々とともに未来の楽器のあり方、そのつくり方について考えていきたいと思っています。