Design Insights
YH-C3000
2025 / HEADPHONE
木製ハウジングが醸す楽器のような佇まいの
密閉型ハイエンドヘッドホン。
ヤマハのグランドピアノにも使われているビーチ材の木製ハウジングと独自のアルモダイナミックドライバー™が、
密閉型ハイエンドヘッドホンというかたちで結実しました。
楽器の性能的特性を抽出し、木製ハウジングに楽器同様の「ハリ」を。
深みのある音色を生み出すと同時に、光の反射を演出する美的な観点からも重要な役割を担っています。
ビーチ材をはじめ、使用されている多様な素材がもっとも引き立ち、また引き立て合う造形を目指しました。
楽器を彷彿とさせる滑らかな黒鏡面は、職人の手仕事で丁寧に磨かれています。
楽器のように愛着を持って長く使い続ける相棒でありたい。
そんな想いを込め、ヘッドホンと人との関係を意識してデザインしました。
- Masafumi Futo
- Designer
- Yamaha Design Laboratory
道具を超え、
長く寄り添う相棒に。
YH-C3000は、楽器メーカーでもあるヤマハならではの密閉型ハイエンドヘッドホンを目指して開発されました。その心臓部には、10年以上の歳月をかけて開発したアルモダイナミックドライバー™が搭載されています。ヤマハの独自技術を表現するにふさわしい造形であること、そして楽器ブランドとしてのアイデンティティが感じられること。それが、デザインに求められていました。
掲げたデザインコンセプトは、ヤマハの楽器を想起させる佇まい。ただし、既存の楽器のフォルムをなぞるのではなく、楽器がもつ音を良くするための構造や機能特性を抽出し、ヘッドホンというプロダクトに落とし込むことを目指しました。そのためには、楽器がなぜその形をしているのかを深く理解し、本製品にふさわしい要素を探り出す必要がありました。
YH-C3000の大きな特徴は、ヤマハのグランドピアノにも使用される高品質なビーチ材を用いたハウジングです。クセの少ない自然な響きを持つこの素材は、アルモダイナミックドライバー™の特性を最大限に引き出します。この木製ハウジングに、バイオリンやアコースティックギターなどの楽器に見られる「ハリ」を意図的にもたせました。楽器の「ハリ」は、振動に複雑さをもたらし、音の共鳴を豊かにする重要な要素です。木製ハウジングでは、そうした響きのデザインを意識しました。
ビーチ材の美しさや上質感を活かすため、かすかに木目が透ける黒鏡面仕上げにもこだわりました。塗装は、熟練の職人が塗りと磨きを幾度も重ねることで完成しますが、この黒鏡面に光の流れをもたらすのもまた「ハリ」の役目。ハイライトが、黒鏡面の上質な輝きと深みを際立させています。
本体にはビーチ材のほか金属・革・樹脂などさまざまな素材が用いられていますが、それぞれの素材が活きるよう、造形だけでなく表面の質感や色に至るまで気を配りました。イヤーパッドのインナーメッシュには深みのあるエンジ色を採用し、装着時にふと目に入るその色で楽器的な奥行きと所有する歓びを演出しています。黒に囲まれているからこそエンジ色が映え、またエンジ色があることで黒鏡面の美しさも一層引き立ちます。
ゴールまではトライ&エラーの繰り返しでしたが、YH-C3000のデザインは設計者と職人の情熱がなければ実現しませんでした。特徴的なハウジング形状は一般的なNC加工では時間がかかりすぎ、量産が不可能であることが開発途中で判明しました。あきらめかけて他の造形を模索していたところ、ミルを楕円軌道で動かすという設計者の発想によって量産が可能になりました。また、しっとりと優雅な黒鏡面は、国内工場の熟練職人による手磨きの証です。一つひとつ妥協なく、丁寧に仕上げられています。
単に音を聴くための道具ではなく、楽器に抱くような愛着や信頼感を感じられる存在に。電子機器はどうしても買い替えのサイクルが早くなりがちですが、このヘッドホンはゆっくりとした時間のなかで使う人に寄り添い続ける相棒であってほしいと願っています。