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音楽ライター記事

ライター: 長谷川│配信日:2012年9月27日│配信テーマ:ジャズ  Jポップ  

<レポート> 東京JAZZ


 今年で11年目を迎えた日本を代表するジャズ・フェスティバル、《東京JAZZ》の9月7日のthe PLAZA、9月9日の国際フォーラム・ホールAのステージを観た。《東京JAZZ》は国境や世代の垣根を越えたジャズの夢の共演を東京から発信という主旨のもとで行われているのだが、今年のステージでも様々な“障壁”を軽やかに乗り越えていくアーティストたちの演奏に胸が熱くなった。

 9月7日のthe PLAZAのトップバッターとして登場した大江千里は日本のポップ・ミュージックのフィールドで活躍してきたアーティストである。1983年にデビューし、約26年に渡る濃密な音楽活動を展開した後、2008年にジャズ・ピアニストを目指して渡米し、ニューヨークのジャズの名門校ニュー・スクールで学び、今年5月に卒業。ジャズ・ピアニストとしての初のアルバム『Boys Mature Slow』発表直後のライヴとのなるのがこの《東京JAZZ》だった。シンガーソングライターからジャズ・ピアニストへ。20数年間のキャリアをリセットしての勇気ある挑戦はジャズへの強い思いがあったからこそ実現したのだろう。この日はベースに河上修、ドラムにマイケル河合というスリーピース編成で、『Boys Mature Slow』からの楽曲はもちろん、日本盤のボーナストラックとしても収録されているシンガーソングライター時代の代表曲のジャズ・バージョンである「十人十色」、「格好悪いふられ方」も披露。丹念かつ丁寧に音を紡ぎ出していく彼のピアノからは彼の歌声に通じるような体温と人間味が感じ取れた。ピアノが歌い、豊かなエモーションが伝わってくる。こんなMCが今の彼の音楽を的確に表していた。

「僕のジャズは早弾きをするわけではないし、自分の背丈にあった低い跳び箱かもしれないけれど、その跳び箱を世界一きれいに跳べるピアニストを目指して、心に届く音を作りたいと思います」

 バップやモードなど、モダンジャズを基盤とした演奏ではあるのだけれど、やはり長年培ってきた歌心、ポップスセンスがその音色の中にしっかり根付いている。ジャンルの垣根を越えた豊かなメロディーを備えたふくよかな音楽というのがジャズ・ピアニストとしての大江千里の魅力だろう。アルバムタイトル『Boys Mature Slow』の本人による日本語訳は「男子、成熟するには時間を要す」。52才で再デビューした彼にぴったりなタイトルだ。これは多くの人々に勇気を与える作品でもあるだろう。挑戦し、成長していくことに年齢制限はない。彼の演奏を観ていて、『Boys Mature Slow』というタイトルを“大器晩成”と意訳したくなった。

 the PLAZAで続いて行われたレバノン出身でパリ育ちのトランペッター、イブラヒム・マーロフのステージも素晴らしかった。ジャズ、アラブ音楽、ロックなど多彩な音楽を融合して、大胆かつ繊細なイマジネイティヴな音の世界を作り出していた。

 9月9日の国際フォーラム・ホールAでも充実したステージが続いた。アップライトベースを自在に演奏しながら歌う姿が印象的だった女性ベーシスト&シンガーのエスペランサ・スポルディング。キーボードで大高清美が参加し、今後の新たな展開の予感を感じさせるステージを展開したカシオペア3rd。スティーヴ・ガット、ウィル・リーという世界屈指のリズム隊が加わったボブ・ジェームス・クインテットのステージは見事の一言。超グルーヴィーだった。《東京JAZZ》のラストを飾ったのはそのボブ・ジェームスのピアノとスペシャル・ゲストの松田聖子のボーカルの共演。ボブが東北大震災の復興のために作った曲「PUT OUR HEARTS TOGETHER」が演奏されたのだが、ボブの温かくて純粋な思いが詰まったピアノに対して、松田聖子も真摯に応えていくような歌を披露した。《東京JAZZ》という名前がついているが、“東京”は国や地域を越えて世界と繋がっていること、“JAZZ”はジャンルの枠組みを越えてすべての音楽とともにあることを再確認させてくれるフェスだった。


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2012年9月27日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:長谷川誠

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