社外取締役座談会

[画像] 左上より、1.中田 卓也 取締役会長、2.藤塚 主夫 独立社外取締役(2025年6月20日付で退任)、3.ポール・キャンドランド 独立社外取締役、4.篠原 弘道 独立社外取締役、5.吉澤 尚子 独立社外取締役、6.江幡 奈歩 独立社外取締役

適切なリスクテイクと 迅速なアクションを促す ガバナンスを通じ、 経営のレベルアップと 企業価値向上を目指す

2025年5月に発表された新中期経営計画「Rebuild & Evolve」(以下、新中計)。5名の社外取締役(当時)と取締役会議長の取締役会長が、策定過程で交わされた議論を振り返り、執行フェーズにおける監督・助言の方向性を確認しました。(2025年6月取材)

  • [1] 中田 卓也 取締役会長
  • [2] 藤塚 主夫 独立社外取締役(2025年6月20日付で退任)
  • [3] ポール・キャンドランド 独立社外取締役
  • [4] 篠原 弘道 独立社外取締役
  • [5] 吉澤 尚子 独立社外取締役
  • [6] 江幡 奈歩 独立社外取締役

スピードとイノベーションが戦略的な課題

中田: 新中計の策定に向けた議論が始まる段階で、当社にどのような経営課題があると皆さんが認識されていたのか、あらためてお聞かせください。

キャンドランド: 急速に変化する顧客ニーズや技術革新に応じて、いかにスピーディーに当社の製品・サービスのイノベーションを実現するか、いかにイノベーションを将来につないでいくかが最大の課題だと見ていました。

藤塚: スピードとイノベーションが中長期的な課題だと考えていたのは、私も同じです。2、3年前から売上が伸び悩むようになり、執行側は新しいテーマの設定やM&Aの実施など、成長に向けた「種」になりそうな施策を模索し実行してきました。しかし、それがなかなか成果につながっていない。監査委員会メンバーとして執行側の皆さんと定期的に議論する中でも、意思決定と実行をもっと早くしなければならないと感じてきました。

吉澤: 当社の競争優位性であるブランドは、135年以上にわたる歴史を通じて蓄積してきた音・音楽に関わる幅広い技術と、音・音楽に対する情熱とこだわりを持つ多くの人材に支えられています。しかしそうした長年にわたる積み重ねが保守的な傾向として表れて、もっと素早いインプットとアクションを求めたくなる場面がみられます。

篠原: イノベーションのスピードアップのためには、これまで当社が重視していた「100点満点のものを丁寧につくる」というアプローチを、状況に合わせて改める必要があるのではないかと私は思います。これまで楽器や音響機器などハードウェアの製造で培ってきたプロセスも当然重要です。しかし場合によっては、7、8割仕上がった段階で製品・サービスを市場に出してマーケットの反応を問い、フィードバックを取り入れてつくり直す、といったアジャイルなアプローチも必要でしょう。グローバルなオープンイノベーションを加速させるため、2024年4月に米国シリコンバレーに設立した事業開発拠点Yamaha Music Innovationsを2025年1月に法人化し、またコーポレートベンチャーキャピタルを設立してさまざまなスタートアップ企業との協業案件をスタートさせるなど、執行側にもそこを変える意識があるのは歓迎すべきことです。

中田: 成長軌道への回帰に向けさまざまなことに取り組む中で、経営のスピードを上げなければならないということは執行側も強く認識していました。

藤塚: ちょうど2024年4月の山浦さんの社長就任のタイミングで新中計の議論が本格化しました。組織体制の変更や、市場の変化に対応するためのピアノの生産体制など、大きな意思決定をしたことは、今話に出たスピードという課題を本気で解決しようという意識があったからだと思います。そうした決断をした上で新中計が策定されたことは非常に良かったです。

キャンドランド: 前中期経営計画「Make Waves 2.0」期間中にコロナ禍、サプライチェーンの混乱に起因する部材不足、中国市場の縮小といった急速かつ大きな変化に直面する中で、フレッシュな視点を持つ新社長とともにスピード感を持ってオープンな議論ができたことを評価しています。

[画像] 篠原弘道 独立社外取締役、6.江幡奈歩 独立社外取締役

戦略を具体化することで得られるステークホルダーの納得

中田: スピードとイノベーション、そして成長という戦略的テーマが取締役会での議論を通じて明確になりました。そうしたテーマに照らして、執行側が策定した計画案について集中討議した際の取締役会での論点を振り返ってみたいと思います。

江幡: 過去数年の当社は、期中に業績予想を下方修正することが何度かあり、市場や投資家の皆さまからの信頼が損なわれているのではないかと感じていました。信頼を取り戻すためには、数字に対する強いコミットメントが必要であることを強調しました。

篠原: 成長に関しては、トップラインだけでなくボトムラインの重要性も指摘しました。ボトムを上げるために重要なのは、何もかも同列に取り組むのではなく、戦略的に注力すべき分野とそうでない分野を分け、メリハリをつけていくことです。

江幡: どこに注力して資本や人材を投入するのか、攻めるべきところと守るべきところを見極めることが、より重要になると私も考えています。総合楽器メーカーとして多岐にわたる製品・サービスを持つからこそ、当社は教育分野を含めた多様なニーズに応えられるという強みがあります。しかしその反面、これまでは投資する対象が広範囲にわたり、分散してしまっていたとも言えます。

篠原: ポートフォリオやメリハリをつけた投資について、一般論ではなくて具体論を新中計の中で提示することを執行側に求めましたね。それは当社が音楽を通じて提供する新しい価値についても同じで、具体的にそれが何を意味するのかを議論しました。

吉澤:新中計で掲げた長期ビジョンについても、具体的なKPIを設定するなど、数値に基づいた実効性のある目標を立てるよう促しました。同様にサステナビリティを価値の源泉にするという前中計から続く重点戦略に関しても、目標が妥当なのか、社内外のステークホルダーに納得してもらえるものなのかといった多くの指摘が取締役会でありました。

中田: ステークホルダーの納得感を得るためには伝え方も重要だというご指摘を受けて、執行側も意識を改めました。株主・投資家はもちろん、従業員が腹落ちするかも相当意識したはずです。

リスクテイクと挑戦を促す制度設計の変更

中田: 株主や投資家の方から「PDCAは本当に回っているのか」というご質問もいただきます。新中計の執行のモニタリングで押さえるべきポイントについて、どのようにお考えでしょうか。

キャンドランド: 情報を全てオープンにし、透明化を図ることが当社の信頼につながると考えます。社内でも情報をオープンにすることは大切で、それが意思決定と執行のスピードアップにもつながるでしょう。

吉澤: 監査委員会でも、取締役会でも、課題を指摘するだけではなく、その課題に対する執行側の迅速なアクションとフィードバックをこれまで以上に厳しく求めていきたいと思っています。

江幡: 現場で変化の芽をできるだけ早く察知し、素早く手を打っているかに注目します。社会が急速に変わる現在、それができないと本当に乗り遅れるという危機感があります。リスクを過度に恐れるより、リスクテイクしないことが中長期のリスクになると思うので、適切なリスクテイクを求めていきたいですし、変化の芽を察知した現場が声を上げやすいような環境づくりも支援したいですね。

キャンドランド: リスクテイクと挑戦を促すために、2025年に役員報酬制度を見直しました。これまでは目標が未達だと報酬が減る、反対に言えば目標達成に対するインセンティブがなかったのですが、新報酬体系では成果に対する報酬を拡大しました。従業員、管理職、そして特に執行側の経営層の皆さんには、設定された目標を達成することにのみ満足するのではなく、さらにそれを大きく超えていこうという意識を持ってもらいたいです。

中田: 「出すぎた釘は打たれない」というのが若い頃からの私の信条です。今お伺いした皆さんからの後押しを受け止めて、経営層には山浦さんの足を踏んでしまうくらいのつもりでどんどん前に進んで挑戦してほしいですね。

[画像] 吉澤尚子 独立社外取締役、藤塚主夫 独立社外取締役(2025年6月20日付で退任)

多様な意見を生かしてさらなる経営のレベルアップを図る

中田: 最後に、取締役としてのご自身の役割をどのようにお考えか、あらためてお聞かせください。

篠原:成長軌道への回復というこの難しい時期を乗り越えるためには、時には厳しいことや刺激が強いことも言わなければならないと思っています。当社の経営陣は今も高い意識を持っていらっしゃいますが、もっと高い意識を持っていただけるように働きかけていきます。改革を進めるにはさまざまなアプローチが必要ですが、当社が持つ楽器、音に関する総合楽器メーカーとしての絶対的な強さ、この部分は揺るがず、さらに筋肉質な会社になるよう貢献していきます。

江幡: 当社は管理職女性比率の向上に取り組んでいますが、それでもまだ20%に届きません。その中で私は女性取締役であり、取締役会の中では比較的年齢が低いことから、取締役会の議論に多様性を確保することが期待されていると思っています。自分の専門性を生かして監査委員としての役割を果たすだけでなく、異なる価値観や近年大きく変化している消費者の嗜好を踏まえた視点での経営の議論でも、新たな価値創造に貢献したいと思っています。

キャンドランド: 私も外国人の視点を持って、皆さんが時には言いづらいことをストレートに指摘するのが役割だと自認しています。企業経営者としての経験で得た知見をもとに、優先順位を判断すること、伸ばすべき領域にフォーカスすること、そしてテクノロジーをうまく取り込んでいくことを求めていきます。

吉澤: 常に変化に目を配って、予兆を捉え、早め早めのアクションを取っているかを問い続けていこうと思っています。監査委員として監査に同行すると、経営と現場では認識の違いを感じる機会があります。現場での監査で感知した違和感を経営にインプットするのが私の役割だと思っていますし、それに対してできるだけ早くアクションを取ることが、私たちの責任でもあります。

藤塚: まず財務目標をしっかりと達成すること。その上で、新中計の進捗状況を定期的にモニタリングし、何か課題があればすぐ修正して、現場における各種目標の達成をサポートしていかなければなりません。私は2025年6月で取締役を退任しますが、今後もヤマハに注目していきます。

中田: 当社は多様なバックグラウンドと専門性を持つ方々を取締役会のメンバーとしています。その皆さんからいただくアドバイスやご指摘を、広く経営に生かしていかなければならないと、あらためて決意しました。取締役会における議論に対する執行側からのフィードバックが徹底されるよう、確実にチェックして経営のレベルアップにつなげていきたいと思います。