SPECIAL FEATURE 01
リモートによる新たなビジネスチャンスと社会課題解決への取り組み

ヤマハグループでは、中期経営計画の中でデジタルとリアルの両面でお客さまと直接つながり、ライフタイムバリュー(LTV)向上への貢献を目指しています。新型コロナウイルス感染症の拡大による環境の変化において、世の中のさまざまな課題解決に貢献するとともに、楽器・音楽を通じて人と人とがつながり続けることができるよう、新しい形のビジネス機会を探求しています。ここではその主な事例をご紹介します。

CASE STUDY 01
オンライン遠隔合奏サービス『SYNCROOM(シンクルーム)』

一般的なリモート会議システムやIP電話は、通話や会議を想定して設計されており、一定の音声の遅れが生じることから、高いリアルタイム性が要求される合奏には適していません。当社は、インターネット回線を介して、こうした「音の遅れ」ができるだけ小さくなるようデータを送受信することで、離れた場所にいる人たちがリアルタイムに音楽セッションを行うことができる独自技術『NETDUETTO』を活用したベータ版アプリケーションを2011年から提供してきました。2014年には、インターネット上に実験サイト「NETDUETTOラボ」を開設。ベータ版を公開してユーザーの意見を聞き、技術をブラッシュアップしながらアプリケーションの更新を続けてきました。そして、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年4月、この技術を用いて、離れていても自宅などから複数人でリモート合奏が楽しめるオンライン遠隔合奏サービス『SYNCROOM(シンクルーム)』として日本で発表したところ、大変な反響がありました。6月には、新たにリバーブ機能、メトロノーム機能、録音機能を追加した正式版のWindows/macOS版アプリケーションを公開しました。『SYNCROOM』は、最大5拠点*から複数のユーザー同士でリモート合奏が楽しめるサービスで、パソコンにアプリケーションをインストールし、アカウント登録を行うことで、無料でご利用いただけます。当社は、このサービスが離れた場所からでも複数の奏者で合奏を楽しむ一助となり、新しい日常を少しでも明るいものに変えるきっかけになればと考えています。

* 2つのルームを連結することで最大10拠点を接続することができます

SYNCROOM
SYNCROOM
デスクトップ版『SYNCROOM』

デスクトップ版『SYNCROOM』

モバイル版『SYNCROOMβ』

モバイル版『SYNCROOMβ』

CASE STUDY 02
ドイツ・フライブルク音楽大学の「リモート入試」への協力

わずかなタッチの違いや繊細なペダル操作を極めて正確に再現することができる自動演奏機能付きピアノ『Disklavier(ディスクラビア)™』を用いて、ドイツ・フライブルク音楽大学のリモート入学試験をサポートしました。同大学は、1946年の開校以来、著名な音楽家を数多く輩出する国際色豊かな名門音楽大学です。例年6月に行われる同校の入学試験には、世界各地から受験者が訪れ器楽演奏などの実技を含む試験に挑みますが、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、外国人が現地で受験することが難しく、当社が提供する楽器・技術を活用して、遠隔地からでもピアノ演奏の実技試験が可能になる「リモート入学試験」を初めて導入。ドイツと日本、中国をインターネットで接続し、ピアノ演奏の実技試験を行いました。日本と中国での受験者による演奏を、遠く離れたドイツのピアノが忠実に再現し、試験官も受験生も納得する大成功を収めました。将来的には一般的なレッスンの現場で活用することも視野に入れ、離れた場所でも同じ演奏体験を共有できる技術のさらなる活用を通じて、社会環境や地理的な制約による機会損失などの課題に対するソリューションを提案していきます。

CASE STUDY 03
音楽教室でのリモートレッスン

世界各地で音楽教室の休講を余儀なくされ、教室閉鎖が長期化する間、「生徒の学びを止めない」をテーマに、オンラインによるリモートレッスンに取り組みました。アメリカのボストン直営センターで、2020年3月にオンラインリモートサービスを使ってリモートグループレッスンの提供を開始したところ、9割の生徒が受講、確かなニーズがあることが判明しました。通信環境が不安定なインドネシアや中南米の国々では、リモートレッスンに切り替えるだけでなく、レッスン後に生徒から送られてくる家庭学習の様子を撮影した動画に対し、講師が評価を返すといった付加価値を提供するなど、顧客・地域ニーズに合わせてレッスンをカスタマイズしながら、有効なリモートレッスンのあるべき姿を探求しました。日本でも、緊急事態宣言下の4月に7都府県で無料のオンラインレッスンを試行し(6月から正式に有料リモートレッスンを導入)、通常のレッスンで使用する教材に加えてデジタル教材配信サービスを活用するなど、オンラインに適したレッスン内容と環境整備を進めています。

今後、通常の対面レッスンを再開した後も安心してレッスンを受けられる仕組みを構築し、リアルに加え、オンラインのレッスンを組み合わせた新たな価値を提供できるよう、新サービスの制度設計を進めていきます。

[ 画像 ] 音楽教室でのリモートレッスン
[ 画像 ] 音楽教室でのリモートレッスン

CASE STUDY 04
リモート応援システム『Remote Cheerer powered by SoundUD』

スマートフォンなどからボタンをタップするだけで、現場に声援を届けることができるリモート応援システム『Remote Cheerer powered by SoundUD』の開発・実証実験を進めています。さまざまな理由でスタジアムに足を運ぶことができないサポーターが、スタジアムにいるサポーターと一緒に応援できるよう、その声援を現場に届けたいとの想いから開発したこの技術は、新型コロナウイルス感染症の再拡大に備える状況下にあって、ソーシャルディスタンスを保ち、新しい生活様式に対応しながら応援を楽しめるソリューションとして高い注目を集めています。

リモート応援システム『Remote Cheerer powered by SoundUD』

新常態での新たな社会課題の解決が、ライフタイムバリューの向上に

新型コロナウイルス感染症は、当社の事業活動に大きな影響を及ぼしましたが、同時に加速化するリモート社会に新たな事業機会を見出すこともできました。

「ステイホーム」による行動の変化は人々の意識変容を促し、ユーザーが抱えている問題意識やニーズも変化しています。“仲間とバンド演奏ができない”“ライブ演奏やコンサートができない”“音楽のレッスンができない”“無観客試合でも声援がほしい”など新たに生じた課題の解決に向けて、当社は音に関する豊富な知見とネットワーク技術でさまざまなソリューションを提供できると考えています。そこで、新しい生活様式における課題を分析し、有効なソリューションの検討と具体化、そして事業化への道筋をつけていくため、部門横断のプロジェクトを発足しました。こうした取り組みは即座にビジネスには直結しないかもしれませんが、まずはより多くのお客さまに当社のサービスをご利用いただき、アフターコロナの新常態においてお客さまとのつながりを強め、LTVの向上に寄与するさまざまなソリューションを新たな事業へと発展させていきます。