• 地域社会とともに育む、豊かな森林と音色のハーモニー

地域社会とともに育む、
豊かな森林と音色のハーモニー
-おとの森活動と木材資源への取り組み-

2022年6月更新

国際連合食糧農業機関(FAO)※1の「世界森林資源評価2020 :Global Forest Resources Assessment2020(FRA2020)」によると、2020年の世界の森林面積は、世界の陸地面積の約3割に当たる約40.6億ヘクタールでした。

毎年780万ヘクタールの森林が失われていた1990年代に比べれば、2010年代の森林減少速度は年470万ヘクタールと改善されつつあるものの、依然として減少傾向には歯止めがかかっていない現実があります。

楽器からスピーカー、防音室に至るまで、多種多様な木材を使用しているヤマハにとって、自然環境や生物多様性に配慮した持続可能な木材調達の仕組みづくりは使命ともいえます。

ここでは、当社が地域社会や学術機関とともに木材資源のサステナビリティ実現に向けて展開している「おとの森活動」を中心とした取り組みを紹介します。

  • ※1 国際連合食糧農業機関(FAO):Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO)
[アイコン]12:つくる責任 つかう責任、13:気候変動に具体的な対策を、15:陸の豊かさも守ろう、17:パートナーシップで目標を達成しよう

おとの森活動概要

原産地コミュニティーと連携して、循環型の森林づくりを推進 - おとの森活動 -

ピアノや弦打楽器、木管楽器をはじめ、電子楽器やスピーカー、防音室などにも木材が多く使われています。木材にはそれぞれ異なる音響特性があり、それによって生み出される独特な音色や響きは、ヤマハ製品の魅力の源泉ともいえます。木材特有の割れや節などの欠点が少なく外観や加工性に優れた木材、音響特性に優れた木材は楽器に好んで使われます。こういった木材は楽器づくりに適した「楽器適材」であり、用途に適したさまざまな樹種を選択します。その中には希少木材と呼ばれる、資源量の少ない品種が選ばれることも少なくありません。

近年、資源量の減少や品質の低下からこれらの木材資源の持続性が懸念されており、「森をつくる」「森を守る」といった発想から一歩踏み込んだ、経済的発展性のある取り組みが不可欠となっています。

そこで、ヤマハは楽器適材を生み出すサステナブルな森を「おとの森」と定義し、森林保全や木材資源量への配慮に加えて、地域の雇用創出や社会的発展を包括的に盛り込んだ地域社会と一体となった循環型の森林づくりを「おとの森活動」と名付けました。おとの森活動では、「森林」「木材」「社会」の3つの視点で、行政や学術機関と連携した活動を展開しています。

タンザニアでのおとの森活動 - アフリカン・ブラックウッド -

木管楽器の重要な材料である「アフリカン・ブラックウッド」。その黒紫色の心材は、非常に緻密な外観と優れた物理特性により管楽器の材料として重用されています。一方で、伐採可能な大きさに育つまでに70年を超える成育期間や、東アフリカを中心とした限定的な分布域、楽器完成に至るまでの利用効率の低さから、資源量の減少が危惧されていました。

ヤマハは2016年3月期より現地でその生態や資源量、森林管理状況などの調査を始め、国際協力機構(JICA)の民間連携事業として、森林保全と楽器生産、地域コミュニティー活動を循環的に進めるバリューチェーンを構築。2018年3月期には現地NGOや地域住民と連携した植林活動を開始しました。本プロジェクトでは5年間で累計約12,000本(植栽地総面積約6.5ヘクタール)の苗木を植栽した他、地域住民の手による苗木育成・植林活動の定着を支援。さらに同種をモデル事業としてより成長の早い早生材の生産~資源利用の研究を進め、地域の課題を早期に解決する新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいます。

アフリカン・ブラックウッド(左:苗木、右:成木)
地域コミュニティーと協働で行っている生態調査
農村での苗木育成(写真:MCDI提供)
地域の小学生への環境教育(写真:MCDI提供)

北海道でのおとの森活動 - アカエゾマツ -

グランドピアノの豊かな音色を支える心臓部、響板。その原材料としてヤマハは北海道原産のアカエゾマツを使っていました。しかし近年、天然林材の減少により、ピアノ響板用の木材のほとんどを輸入材に頼っている状況です。北海道を代表する樹木種の一つであるアカエゾマツは、環境適応性、病害抵抗性が高く、北海道では広く植栽されてきました。

そこで2016年、循環型の森林づくりとアカエゾマツの人工林材の需要拡大を目指して、響板の生産を担う北海道に拠点を置く北見木材(株)とオホーツク総合振興局、北海道紋別郡遠軽町の三者協定に調印(「オホーツクおとの森」の設置に関する協定)。道有林や町有林、北見木材社有林を活用したアカエゾマツ人工林の適切な管理や植樹など、森づくりの活動を研究から地域との協働イベントまで幅広く展開しています。2021年には、北海道と包括連携協定を締結。研究機関との共同研究などを通じてサステナブルな森林の育成と利活用を全道規模で展開する他、次世代人材の育成や音楽文化の普及、環境保全への取り組みを進めています。ヤマハは、地域社会とともにアカエゾマツの安定供給を再び実現し、オホーツクの木の文化を次世代に引継ぐことで、新たな感動と豊かな文化を創り続けます。

アカエゾマツ人工林調査の様子
北見木材の従業員とその家族とで行った植樹祭(2021年)

京都大学と連携し、アカデミックな視点から活動を推進

国立大学法人京都大学と3年間の包括的研究連携協定を締結時の写真

おとの森活動の中核である「森林資源の持続可能性」の追求には、ヤマハが培ってきた木材に関する技術・知見に加えて、森林科学分野における幅広い見識が不可欠です。

ヤマハは、2018年より国立大学法人京都大学と3年間の包括的研究連携協定を締結しました。希少木材の利用効率向上や体系的森林育成技術の構築、地域の雇用創出など、楽器に使用する多様な木材種が原産国の地域社会の中で持続的に生産される社会-自然生態系システムの構築を目指し、タンザニアのアフリカン・ブラックウッドを中心とした研究を進めてきました。2021年には同協定を更新し、2027年までの6年間に延長。過去3年間を連携基盤構築のためのフェーズ1、新たな6年間を研究の深化と領域拡大のためのフェーズ2とし、アカエゾマツやローズウッドを対象に加えて、より高度な先端研究および成果の社会実装に向けた取り組みを強化していきます。

[図]包括的研究連携協定

ヤマハグループの木材資源への取り組み

おとの森活動の他にも、ヤマハグループは将来にわたって貴重な木材資源を維持し持続的に活用していけるよう、木材の調達から製造工程での資源の有効活用に至る包括的な取り組みを行っています。

木材デューディリジェンスの推進 - 持続可能性に配慮した木材利用 -

森林減少の要因の一つとして挙げられる違法伐採の背景には、無計画な乱伐に頼らなければならない現地コミュニティーの事情と、そこにつけ込む違法業者の存在があります。ヤマハは、そうした違法に伐採された木材を調達してしまうことがないよう、デューディリジェンスの仕組みを構築し、調達先への書類調査や訪問調査を通じた伐採時合法性の厳格な確認を行っています。加えて、違法伐採の遠因となる現地の社会・経済課題の解決を支援する、持続可能な森林から産出される認証木材の利用拡大を促進しています。

これらの取り組みにより、2022年3月期に購入した木材の99.4%(体積比率)について低リスクであることを確認するとともに、認証材の使用率を52%(同)まで高め、2019年4月に発表した中期経営計画での目標を達成しました。2022年4月からの新中期経営計画「Make Waves 2.0」では、持続可能性に配慮した木材使用率75%を目標に掲げ、さらに取り組み姿勢を強化していきます。

[グラフ]低リスクを確認した、購入木材の体積比率の推移(%)
[グラフ]認証木材採用率(%)

今後の方針・展開について

サステナビリティへの意識がますます高まる中、地球と社会の未来を支えるバリューチェーンを築くことは、企業としての重要な経営課題です。

ヤマハは引き続き持続可能な木材の利用を事業活動の中核に据え、貴重な木材を使い続ける仕組みを構築し、豊かな森林と魅力的な楽器を未来に繋いでいきます。

持続可能な木材の利用(新中期経営計画「Make Waves2.0」重点テーマ)