アフリカン・ブラックウッドの主な用途である管楽器には、その特性上、割れ・腐れ・節などのない高水準の材料しか使うことができません。そのため、実際には伐採材積の5~10%程度しか材料として利用されていません。その上、資源量そのものが減少している近年では、限られた良質材を求めて過剰伐採されるケースが多く見られます。アフリカン・ブラックウッドは、伐採するまでに約70~100年と長い期間を要することから、資源の持続性が懸念されています。また、地域社会が慢性的に抱えている貧困状況により、生活に直結する農業や畜産業に比べ林業のインセンティブが十分に得られておらず、森林の体系的な管理を地域社会で自立して行うことが難しい現状となっています。
次代も変わらぬ音色を響かせるために
-持続可能な木材調達と地域共生の森林経営-
ピアノや管弦打楽器など、多くの楽器が主に「木」でつくられています。
ヤマハグループでは、楽器をはじめとする事業活動において多種多様な木材を使用していることから、その貴重な木材資源を管理・維持し、10年、50年、100年先も持続的に活用していくために、新たな取り組みを進めています。
![[ アイコン ]12 つくる責任つかう責任/15 陸の豊かさも守ろう/17 パートナーシップで目標を達成しよう](images/pict_01.jpg)
木管楽器に欠かせない「アフリカン・ブラックウッド」
クラリネットやオーボエ、ピッコロなどの木管楽器の材料である「アフリカン・ブラックウッド(通称グラナディラ)」。タンザニアやモザンビークを中心とした東アフリカを主要産地とし、高密度で硬く、音響的にも優れた特性を持つことから、古くから木管楽器の材料として使用されています。その独特な外観と特徴的な性質を他の木材で代替することは難しく、楽器業界では重要な木材として重宝されています。近年、その資源量が減少しており、IUCNレッドリストで「Near Threatened(準絶滅危惧)」に分類されるなど、その持続性が懸念されています。
![[ 図 ]タンザニア](images/pict_02.jpg)
アフリカン・ブラックウッドを取り巻く課題
![[ 写真 ]伐採され、放置されたままのアフリカン・ブラックウッド](images/pict_03.jpg)
アフリカン・ブラックウッドを持続可能な材料に
こうした課題解決にアプローチするため、ヤマハはアフリカン・ブラックウッドの種の保全と安定調達の実現に向けて、タンザニアで同種の資源量や森林管理状態などの調査に着手しました。
2015年度には、林野庁補助事業「途上国持続可能な森林経営推進事業」(2015年9月~2016年3月)の一環で、タンザニアでFSC認証森林を管理運営している現地NGO(MCDI※)の協力のもと、アフリカン・ブラックウッドの分布、生育、天然更新などの生態に関する状況や、現地の森林管理状態の調査を実施。これまでは、現地の正確な情報を入手するのが困難な状況でしたが、調査の結果、適切な管理を行えば、今後も持続的な資源の調達が見込める可能性があることがわかりました(1)(2)。
これを基に、2016年度からは国際協力機構(JICA)のBOPビジネス連携事業(2016年12月~2019年11月)として本格的に活動を開始。現地での森林調査により、アフリカン・ブラックウッドを取り巻く立地環境と形質・物性との関係性を明らかにし、「現存する資源の有効活用」と「計画的な森林管理・植林による将来の資源量確保」を目的に、同種を楽器素材として持続的に利用できるビジネスモデルの構築を目指して、調査の継続と対策を進めています。
- ※ MCDI(Mpingo Conservation Development Initiative):タンザニア南部リンディ州で住民参加型森林経営(コミュニティフォレストリー)と国際的な森林認証(FSC認証)による持続的森林管理に取り組むNGO。活動に参画する各森林コミュニティの自発的な森林経営を促し、各コミュニティが木材伐採によって得られる収入をコミュニティ公共資金として配賦
森林調査結果と課題
調査内容 | 調査結果 | 考察 |
---|---|---|
立地環境と生育条件 |
|
土壌を選ばず、比較的育成しやすい |
立地環境と形質の関係 |
|
適切な森林管理により環境を整えることで、継続的な良質材生産が可能 |
立地環境と木材物性の関係 |
|
木材物性は立地環境によらず安定的 |
課題
- 調査等で得た知見の体系化、良質材(楽器用材)生産のための管理
- 森林を持続的に管理していくための現地主導の体制・仕組みの確立
- FSC認証材を安定供給する仕組みの構築
- 伐採した樹木の歩留まり向上、有効利用
![[ 写真 ]タンザニアでの森林調査](images/pict_04.jpg)
出典
- (1) タンザニア森林におけるアフリカン・ブラックウッドの現状と持続可能な材料利用の可能性. 第67回日本木材学会, 福岡, 2017.
- (2) 平成27年度林野庁補助金「途上国における持続可能な森林経営推進事業」報告書, 2016.
- (3) タンザニア天然林におけるアフリカン・ブラックウッドの立地環境と個体分布・形質の関係. 第68回日本木材学会, 京都, 2018.
- (4) 楽器と共に創る持続可能な森林: タンザニアのアフリカン・ブラックウッド(小特集 地球規模の持続可能な森林利用を目指して). 海外の森林と林業(Japanese journal of international forest and forestry), (101), 9-13, 2018.
地域社会との共生で自発的な森林に
現存の資源・将来の資源
ヤマハは、現地製材業者とパートナーシップを組み、FSC認証森林からの認証木材の調達や材料の利用効率向上など、現存資源の有効活用に向けた取り組みを進めていきます。また、将来の資源量を確保するために、計画的な植林を行います。2017年度には、1.5haに約1500本の植林を実施し、2018年度にも1.0haに約3,000本の植林を行う計画です。
地域社会との共生で目指すもの
持続的な森林経営を実現するためには、森林を有する地域社会と連携し、自発的な森林を目指すことも不可欠です。
ヤマハは、森林の資源保全と地域住民のインセンティブ向上を目的に、MCDIや住民と協力してアフリカン・ブラックウッドの植林事業を立ち上げました。苗木の植栽に留まらず、計画的に森林管理を続けるために、育苗、下刈り、植栽、枝打ち、間伐などの一連の管理作業を通じて、地域住民に木材資源保護の大切さや良質材育成のノウハウを伝えることで、付加価値の高い材料を継続的に生産することができます。さらに、現地での雇用創出、地域社会の利益向上が期待されます。ヤマハは、MCDIの活動に参画する地域農村の一角に、井戸、給水タンク、ポンプなどの育苗施設を建設し、パイロット事業としての可能性を検証しています。
苗木が大きく成長し、楽器となって人々の手に渡るまでには、長い期間を要し、幾多もの試練があることでしょう。次代も変わらぬ音色を世界中に響かせたい。そのために、資源を持続可能な形で管理・利用することは楽器メーカーとしての責務です。
これからもヤマハは、持続可能な木材調達を目指し、地域社会とともに歩んでまいります。
![[ 写真 ]村内に設置した貯水タンクと子どもたち](images/pict_05.jpg)
![[ 写真 ]アフリカン・ブラックウッドの苗](images/pict_06.jpg)
![[ 写真 ]植栽エリアで苗木を植える様子](images/pict_07.jpg)
![[ 写真 ]苗木を植える植栽エリア](images/pict_08.jpg)
ビジネスモデル実現のための三本柱
現存の資源を有効的に使う(森林管理)
- 適切な森林管理による形質改善
- 材料利用率向上による資源の効率的利用
将来のために資源を作る(計画的な植林)
- 計画的植林による資源量の管理
- 植林材の利用による資源化サイクルの促進
自発的な森林を目指す(インセンティブ向上)
- 森林の主体となるコミュニティとの連携
- 楽器と森林をつなぐ(先進国と途上国)
Comment
今回の私たち森林コミュニティへの経済的支援や森林管理の仕方など、ヤマハが行っている森林保全のためのさまざまなサポートに、皆大変感謝しています。
ヤマハは実際に現地に足を運んで、その森や村で何が起きているかを調査し、使用責任を果たしてくれています。また、単に植林をして森に木を増やすだけでなく、私たちに植林をすることの重要性について再認識する大切な機会をくれました。次世代にこの森林を継承していきたいと思います。
![[ 写真 ]Mpingo Conservation & Development Initiative(MCDI)現地NGO代表:Makala Jasper 様](images/pict_comment_01.jpg)
Mpingo Conservation & Development Initiative(MCDI)
現地NGO代表
Makala Jasper 様