立体音響総合技術

ViReal®

立体音響の収音から再生まで

ヤマハでは、長年にわたって空間音響に関するさまざまな研究や、設計・実装に取り組んでいます。近年では360°の立体空間を楽しめる動画コンテンツやゲームの普及により、ますます立体音響の需要が高まってきています。

ヤマハでは、収音から編集、再生までの立体音響総合技術を、ViReal *1 と称して開発しています。立体音響を収音・再生する方式は3つあります。決められたチャンネル数に応じて収音・再生するチャンネルベース方式、音源に位置や速度などの情報を付加して表現するオブジェクトベース方式、音場全体を表現するシーンベース方式です。ViRealではさまざまな目的や環境に対応できるように、各方式に応じた収音・再生技術の開発に取り組んでいます。

*1:ViReal®(バイリアル)はヤマハ株式会社の登録商標です。

立体的な収音ができるViReal Mic、ヘッドフォン用立体音響再生技術ViReal for Headphones、スピーカー用立体音響再生技術ViReal for Speakers、そして大規模再生システムViReal Domeを紹介します。

収音:球状マイクアレイ [ ViReal Mic ]

ViReal Micは、高次アンビソニックス収音に対応した収音装置です。空間すべての方向から到来する音を収録できます。

高次アンビソニックスとはシーンベース方式による音場再現方法で、球面調和展開 *2 を利用して音場を分析し、再現します。球面調和展開の次数が一次のものをアンビソニックス、二次以上を高次アンビソニックス(HOA)と呼びます。

*2 球面調和展開:物体の形状や物体表面上の現象などを、球座標における単純な形状の組み合わせで説明する方法です。

ViReal Mic 1

HOA収音に対応するためには、複数のマイクユニットを球面上に均一に配置する必要があります。数学的に実現できるのは正多面体による配置で、正二十面体が最大となります。より多くのマイクを使用したい場合は、正二十面体を分割したジオデシック配置が一般的によく使われています。

ViReal Mic 1では、フィボナッチ螺旋配置を採用し、64個のマイクを配置しています。この配置は、ジオデシック配置に比べて、球面調和領域において誤差が少なくなることがわかっており、より正確に方向成分を取得することができます。

収音した64chのオーディオ信号は、Dante *3 によってLANケーブル1本で一斉に伝送できます。必要な機材はマイクとケーブルそれぞれ1本ずつのみで、従来の収音機材に比べ、コンパクトな収音環境とわずかな設置時間で、非常に高精度な収音が可能です。

*3 Dante:音響機器間の多チャンネル伝送を1本のLANケーブルのみで可能にする、Audinate社のオーディオネットワーク技術です

ViReal Mic 2

ViReal Mic 2ではより性能の向上と使い勝手の良さを目指すために、ViReal Mic 1で採用していたアナログマイクユニットとA/Dコンバータによる構成から、フルデジタル構成にバージョンアップしました。

マイクの配置は、ViReal Mic 1よりも球面調和領域における誤差が少ない、Spherical t-designを採用しています。検証の結果、5次アンビソニックスにおいてマイクの数が60個と64個で性能が同等であることを確認したため、60個を採用しました。

フルデジタル構成の採用により、球体とDanteインターフェース部が分離でき、非常にすっきりとしたデザインとなっています。また、ViReal Mic 1より、性能のばらつきを抑えて製作することができるため、複数台のViReal Micにてさまざまな立体音響測定が可能となります。これらの特徴を活かし、立体音響測定ソリューションの拡大や、より情報量の多い立体音響収録を実現していきたいと考えています。

初期試作モデルから性能改善された新試作モデル「ViReal Mic 2」
初期試作モデル「ViReal Mic 1」
フィールドレコーディングでの使用
楽器音の感性評価実験での活用

再生:ヘッドフォン用立体音響再生技術 [ ViReal for Headphones ]

ヘッドフォンでの立体音響再生では、バイノーラル技術を用いることが一般的です。2本のマイクやダミーヘッドなどを使って録音したり、音源から人の両耳までの音響特性を表す頭部伝達関数(HRTF)を適用した音を再生したりします。

HRTFは、特定の人の両耳に小型マイクを設置して測定する、もしくはその人の頭部形状から計算することができます。求めた関数をその人が使用するヘッドフォン再生に適用することで、最も理想的な立体音響効果をもたらします。実際には一人ひとりのHRTF測定が難しいため、ダミーヘッドから求められた標準的なHRTFを利用することがほとんどです。しかし、HRTFは人の耳や頭部などの形状でそれぞれ性質が異なるため、ダミーヘッドのHRTFでは立体感の効果が非常に小さくなってしまう人がいます。

そこで我々は多くの人の耳と頭部の形状を収集し、それらを解析・合成することにより、独自のHRTFデータベースを開発しました。ViReal for Headphonesではこのデータベースを元にしたHRTFを適用しており、ユーザー一人ひとりがHRTFを測定しなくても、十分な立体音響効果を得ることができます。また、2,000方向以上という高い分解能より、音源を正確な位置で表現したり、なめらかに移動させたりすることが可能です。この技術だけで、ユーザーはどんなヘッドフォン・イヤフォンでも、手軽に立体音響を楽しむことができます。

多くの人の耳・頭部形状データを元に最適なHRTFデータを合成
合成されたHRTFデータによって正確な音源定位と音源移動を再現

再生:スピーカー用立体音響再生技術 [ ViReal for Speakers ]

立体音響を再生する際は、目的や要求に応じてその方法を決定します。どのような場所で、どのような人々に、どのような音を届けたいかによって、チャンネルベース/オブジェクトベース/シーンベース方式の選択や、選択した方式における使用機材、収音方法、再生方法が変わってきます。

ViReal for Speakersはさまざまな要求に応えられるように、各種の再生処理技術を実装しています。例えば、三次元パンニング(音のボリュームやタイミングの調整)よって音像を目的の位置で表現する方法や、HOA処理によって全方位を表現する方法などがあります。

企業ミュージアム内の立体音響体験施設「スーパーサラウンドシアター」
マルチチャンネル再生用立体音響実験室

再生:122ch球状再生システム [ ViReal Dome ]

ヤマハには、実験用設備として122個のスピーカーによる大規模な球状再生システムを設置してあります。このシステムを使用して、開発中のさまざまな技術を検証しています。

スピーカーは、正二十面体を細分化して生成した122個の頂点をもとに、91個は空間に、残りの31個は床面に設置してあります。構造上は完全な球体ではありませんが、各スピーカー出力をキャリブレーション(ボリュームやタイミングを相対的に調整)することにより、仮想的な球体として取り扱うことができます。スピーカーは全てDanteに接続されており、LANケーブル1本で122chのオーディオ信号を一斉に送信することにより、忠実に音像・音場を再現できます。HOAなどさまざまな再生方法に対応することができ、各種収音・再生技術の検証に使用しています。

ここまでの大規模なシステムは、世界でも類を見ないほどです。このシステムを活用して新たな技術を開発したり、技術の精度をさらに高めたりできることが、我々の大きな強みです。

ViReal Dome

当社/他社製品への技術提供

ViRealの技術はヤマハ製品に採用されているほか、他社製品にも搭載されています。

AFC Image(アクティブフィールドコントロールイメージ)
ヤマハが提供する音像制御システムです。ViReal for Speakersのオブジェクトベース処理技術、およびViReal for Headphonesの技術が搭載されています。

スーパーサラウンドシアター
ヤマハ本社敷地内の企業ミュージアム「イノベーションロード」に108.6chシアターを構築し、ViRealシリーズによって制作したさまざまな立体音響コンテンツを提供しています。例えばヤマハ吹奏楽団によるコンサートのコンテンツは、ViReal Micと複数のマイクで収録した音を、ViReal for SpeakersのHOA処理と三次元パンニング処理を組み合わせて制作しています。

・カプコン 「バイオハザード」「モンスターハンター」
2018年に発売された株式会社カプコンのゲームソフト「バイオハザード7 レジデントイービルゴールドエディション」、「モンスターハンター:ワールド」に、ViReal for Headphoneの技術が採用されています。

Sound xR Core
ヘッドフォン/イヤフォン向けのヤマハの仮想立体音響ソリューションです。ViReal for Headphonesの技術が搭載されています。