音楽によってアフリカの女性に希望を。
〈後編〉

Islam Elbeiti/ベーシスト、起業家サポーター

スーダンと音楽の未来のために。

ベーシストとして演奏を続けるかたわら、起業家支援のプロジェクトに取り組んだり、ラジオ番組「Capital 91.6 FM」のDJとしてジャズを紹介したりと、幅広く活動するIslam Elbeiti氏。24歳にしてスーダンの将来を見据える彼女が語るのは「音楽を通じてアフリカの女性に希望を与える」という大きな夢です。

異文化を知っているからこそ担える役目がある。

音楽は不良のもの。残念ながら、今のスーダンにはそんな偏見が根強く残っています。同じバンドにいる女性メンバーのひとりは、コンサートのときに身体のラインが目立つ衣装を着ていただけで「公序良俗に反する」と非難されたほどです。スーダンでは、音楽を演奏する人たちは、絶えず社会からの圧力に晒されているため、ミュージシャンとして生きることは想像以上に大変です。その上、多くの先進国に比べて女性の自由が制限されています。私自身、母国しか知らずに育ってきたら、こうした状況に何の疑問も抱かなかったでしょう。ここで起きていることが世界の常識ではないとわかるのは、幼いころから異文化に揉まれてきたおかげです。

そんな私だからこそ、この国のために担える役割があります。実際、音楽活動を続けるうちに「音楽を通じて、社会にはびこる理不尽な慣習を一掃したい」といった思いが芽生えてきました。また「スーダン社会における音楽の地位向上」という課題に対し、私はミュージシャンとしてだけでなくビジネスパーソンとしても取り組んでいます。スーダンにおいては、音楽ビジネスはまだまだ発展途上ですが、大学で学んだ経営学とミュージシャンとしての視点を活かしながら、音楽ビジネスに携わる若い人をサポートしていきたい。スーダンで起業する人たちを支援するプロジェクト「Impact Hub Khartoum」での取り組みはその一環です。

Impact Hub Khartoumで毎週開催されるコミュニティランチイベントにて、ジェネラルマネージャーのWaleed Babikerと。

スーダンの音楽文化は変わりつつある。

2017年には、カルマコル砂漠で催されたカルチャーフェスの運営にも携わりました。120名以上のアーティストが集結し、映像や演劇、音楽、ビジュアルアーツ、ゲームなどのプログラムを3週間に渡って開催するユニークなフェスです。私は音楽部門のディレクターとして、イベントの企画・進行や、出場者の選考を担ったのですが、こういったフェスはスーダンでは大変珍しい試みです。開催直前にスポンサーが降りてしまったほか、政府とのやりとりではトラブル続きだったため、私にとっては人生で最も大変なひとときでした。けれども規制でがんじがらめのこの国でだって、やろうと思えば音楽フェスぐらいは開催できるというメッセージを発信できたことには、大きな意義があったはずです。

今思えば、就職活動のために滞在していたコンゴから、スーダンに引き返したことは、人生で最良の決断でした。自らを世界市民であると感じる一方、さまざまな国を飛び回るなかで自分が何者だかわからなくなることもあった私にとって、スーダンに帰ってからの取り組みは、自らのアイデンティティを再確認するという意味でも有意義でした。今、スーダンでは「この国をより良くしていきたい」「社会を変えていきたい」という高い志を持った人たちが声を上げ始めています。私はそんなスーダン人のひとりに過ぎません。スーダンは変化の一途にあります。いまだ女性ミュージシャンは少ないものの、楽器を手にする女の子だって少しずつ増えています。

カムマコム砂漠で催されたカルチャーフェスで繰り広げられたジャムセッション。エチオピアの著名バンド、Addis Acoustic Projectも参加した。

スーダンの音楽史を変えた存在として歴史に名を残したい。

私自身もまだ24歳。母国に尽くしたい一方で、ひとりのベーシストとしても実績を重ねたい。海外の音楽学校で腕を磨く。世界各地をツアーして回る。ほかにも夢は山積みです。究極の目標は、自分の音楽を通じて世界に大きなインパクトを与えること。私が華々しいステージに立つことで「スーダンの女性でも自由に生きられる」という希望を与えたい。結果、スーダンの音楽史を変えた存在として永遠に語り継がれたら最高です。ほかにも、スーダンにおける音楽の見方をポジティブなものにも変えていきたいですし、スーダンという国の素晴らしさを、もっと世界に伝えていきたいとも思っています。

ちなみに、私にとって音楽とは、人種や国籍、宗教が異なる人との間にも絆をつくれる万国共通語です。そういった意味では、この世で最もパワフルなコミュニケーション手段のひとつだと思います。みんなで何かに立ち向かう際、音楽はみんなの気持ちをひとつにするツールにもなるでしょう。音楽は偉大です。音楽に対するそんな思いを胸に、私はこれからもベースと真剣に向き合っていきたいと思っています。

ハルツームで行われた乳がん啓発ライブイベントで演奏するIslam

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Islam Elbeitiベーシスト、起業家サポーター
スーダン出身のベーシスト。幼少期からエチオピアや中国、コンゴを転々とし、現在はスーダンに戻り複数のバンドに所属。起業家支援プロジェクトのサポーターとして音楽ビジネスにも携わる。24歳ながら、女性ミュージシャンへの風当たりが強い母国の現状を変えるべく精力的に活動。

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