音楽によってアフリカの女性に希望を。
〈前編〉

Islam Elbeiti/ベーシスト、起業家サポーター

女性ミュージシャンへの偏見をなくしたい。

スーダンでは数少ない女性ベーシスト、Islam Elbeiti氏。幼少期からさまざまな国に移り住んできた彼女の目に映るのは、女性ミュージシャンに対する偏見が根強く残る母国の状況です。「この国で女性ミュージシャンとして生きていくことは大きなチャレンジ」と明るく言い放つ彼女の活動の源に迫ります。

世界市民としてのアイデンティティを育んだ10代。

音楽を好きに聴く自由はない──。それが私の生まれ育った90年代のスーダンの常識です。70年代まではラジオやお店でも大衆音楽が流れ、音楽を楽しむ自由はあったものの、国の情勢不安から徐々に規制が厳しくなっていき、音楽などの文化全般が衰退したといわれています。それを思うと、私は恵まれた環境で育ちました。家族はみんな音楽好き。アメリカに住む叔父からは、よくCDやカセットが送られてくる。音楽に触れる機会を奪われずにすんだわけです。

スーダンの常識にとらわれず、私の家族が音楽にオープンでいられたのは、父の仕事の都合で世界各地を転々としてきたこととも無関係ではありません。私自身も小学生時代をエチオピアで、中学・高校時代を中国の北京で過ごしました。45ヵ国もの生徒が集まる北京のハイスクールは、さまざまな文化が入り混じる人種のるつぼ。さながら毎日が異文化交流でした。文化が多様であることや、異文化を受け入れることの大切さを心から理解できたのは、10代の多感な時期に母国を離れて過ごしたからでしょう。こういったバックグラウンドがあるせいか、私自身は特定の国に帰属しているというよりも「世界市民」であるという感覚が強い。あらゆる文化に対してオープンでいることで、常にハッピーな気持ちを保てたらと思っています。

エチオピアにいた頃、9歳の誕生日プレゼントにもらったおもちゃのギターを手にするIslam。ベースをプレイするときのポーズはこの頃から変わらない。

手にする楽器に、男女の区別はない。

流行の音楽をまわりと一緒になって聴いていただけの私が一変し、片時もヘッドホンを手放さなくなったのは、スーダンで過ごした大学時代です。「ズッシリ重たく響く低音が好き」と、はっきり自覚したのもこの時期です。どんな音楽を聴いても耳が追っているのはベースの音。自分がベースを演奏するなんて、かつては想像もしませんでしたが、とうとう大学3年次にベースを手に入れます。

現在までベースを続けてきた動機のひとつには、女性ベーシストに対する偏見を覆したいという気持ちがあります。私がベースを始めた当時は「女性は、ピアノやバイオリンを弾くものだ」と揶揄されたものです。しかし、楽器に性別は関係ありません。そうと証明するためにも「絶対に女性ミュージシャンとして活躍する」と思うようになっていきました。趣味のひとつとして始めたベースが、一生もののチャレンジへと変化していった背景には、こういった思いもあったのです。

北京での高校時代のIslam。試験が終わりクラスメイトと盛り上がっている場面。

スーダンの音楽シーンを、若い力で盛り上げていきたい。

現在はスーダンを拠点として、2つのバンドでジャズやスーダンの伝統音楽などを演奏しています。週に2回、レストランで演奏するメインのバンド以外に、もうひとつかけ持ちしているバンドはスーダンの女性ミュージシャンの祖とも言えるZakia Abulqasimさん率いる「Sawa Sawa」です。Zakiaさんは80歳にしていまだ現役。ベースを本格的にスタートして数年の私が、こんな偉大な存在と定期的に演奏できるなんて本当に恵まれています。

演奏以外の音楽活動としては、ジャズの文化を紹介するラジオ番組でDJも務めています。スーダンでは「ジャズは古臭くて、退屈なもの」と誤解されていますが、その偏見を取り払うのがDJとしての私の役割です。昔のジャズから近年のジャズまで、バラエティに富んだジャズの世界をスーダンの人たちに紹介することで、まだまだ発展途上のスーダンの音楽文化を盛り上げていきたい。こういった地道な活動も、スーダンの未来を担う私たち若手ミュージシャンの責務だと感じています。

(左)Islamがパーソナリティを務めるラジオショーでのワンシーン。(右)国際女性デーにアファド女子大学でSawa Sawaと共演。

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Islam Elbeitiベーシスト、起業家サポーター
スーダン出身のベーシスト。幼少期からエチオピアや中国、コンゴを転々とし、現在はスーダンに戻り複数のバンドに所属。起業家支援プロジェクトのサポーターとして音楽ビジネスにも携わる。24歳ながら、女性ミュージシャンへの風当たりが強い母国の現状を変えるべく精力的に活動。

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