音楽の持つ可能性を、もっと世の中に。
<後編>

Kate Eberstadt/アーティスト・コミュニティ支援者

音楽を共通言語として。

恩師から学んだ音楽の力を、難民生活を送る子どもたちに伝えていきたい。そんな思いから支援プロジェクトを立ち上げたKate Eberstadt氏。音楽は、子どもたちにどんな変化をもたらしたのか。この活動を通じて氏が確信した「音楽の可能性」に迫ります。

人生にもポジティブな影響を与えるのが音楽。

ドイツにやって来た私たちプロジェクトメンバーが、最初に取り組んだことは、難民キャンプを回ってプロジェクトへの賛同を呼びかけることでした。そんな最中、40人の子どもを含む170人ほどが居住するキャンプから「一度話をしてみないか」との打診があります。そこで精一杯説明したところ、説明を聞く人たちがどんどん笑顔になっていったのです。すぐに「Kateはギターを教えられるの?」「ピアノはどう?」「歌は?」と、矢継ぎ早に質問が寄せられました。あの日の嬉しさは一生忘れられません。

私たちは赤十字が提供してくれたスペースで、週に3回、音楽やダンスの教室を開くことになりました。最初のクラスに集まったのは3歳から14歳、シリア、アフガニスタン、イラク、パレスチナ、モルドバの子どもたち25人。このクラスで重視したことは、話したことのない子ども同士がペアを組むことでコミュニケーションをすることと、私が一方的に教えるのではなく、子ども同士が学んだことを教え合う機会を設けたことです。子どもたちは一度教えることを覚えると、日常においても学んだことを人に教えたがるようになります。教室の外にいた警備員さんに、習ったばかりの「全音とは何か」を教えている声が聞こえてきたこともありました(笑)。Hutto氏から学んだ、「音楽だけに留まらず、私たちの人生に影響を与える音楽の力」を実感した瞬間です。

プロのチェリスト、Lucy Railton氏。The Hutto Projectの趣旨に賛同して、子どもたちに音楽の魅力を伝えてくれたなかのひとりだ。

心を閉ざしていた少女が、笑顔を取り戻した。

私たちのクラスにはシリア出身の6歳の女の子がいました。紛争時の爆発による外傷の痕が残る彼女は、我々には想像もつかないほどひどい目に合ってきたのでしょう。私が初めて会ったとき、彼女は何ひとつ言葉を発しないほど塞ぎ込んでいました。何度も誘ううちにやっとクラスに顔を出すようになりましたが、顔を出すだけ。それでもほかの子どもたちと教室内で過ごすうちに、彼女は少しずつ音楽に興味を持ち始めたのです。

そしてついにある日、彼女は自分から手を上げ、年上の子とペアを組んでレッスンに参加しました。その日を境に、彼女はありとあらゆることに能動的に取り組むようになります。初めはひっそりと囁くようにしか声を出さなかった歌のレッスンでも、次第に大きな声を出すようになり、ついには笑顔で歌うようなっていきました。音楽がこんなにも人を変えるなんて驚きです。私たちプロジェクトメンバーでさえ想像していませんでした。

子どもたちが、音楽やダンスを親の前で披露する「Family Day」。これに限らずThe Hutto Projectでは、家族が参加するイベントがいろいろと開催された。音楽は人と人とを結びつけ、コミュニティを生み出す。

約6カ月に及んだプロジェクトには、世界各国から80名のボランティアが参加し、ダンス、作曲、劇などのレッスンを行いました。子どもたちの家族を交えて、彼らの故郷の料理をみんなで囲んだパーティーもいい思い出のひとつです。2016年7月には、プロジェクトの締めくくりとなる発表会を催し、その年の冬に難民キャンプは解散。私もアメリカに帰国しましたが、子どもたちのことは今でもよく思い出します。

やはり音楽は自己表現の手段であり、人と人とを結びつける力、そしてコミュニティを生み出す力です。プロジェクトを始めた当初は、異なる文化や言語を持つ子どもたちは、互いにコミュニケーションができませんでした。ボランティアで参加したミュージシャンやダンサーも然りです。ここで共通言語になったのは、間違いなく音楽です。音楽は文化や言語の壁を超えたコミュニケーションの手段になります。私はこれらも音楽の力を手に、音楽の持つ可能性を広めていきたい。心からそう願っています。

音楽やダンスを通じて形作られたコミュニティの主役はアフガニスタン、イラク、イラン、パレスチナ、モルドバ、シリアの子どもたち。彼らはさまざまなアクティビティを通じて、音楽やアートに対する個人的な関心を深めていった。

前編を見る

Kate Eberstadtアーティスト・コミュニティ支援者
ニューヨーク在住のアーティスト。子どもの頃から歌、ピアノ、作曲、賛美歌などに携わる。Robert Wilsonの音楽教育プログラムを経て、ベルリンに住む多くの難民の子どもに、音楽やパフォーマンスの力によって希望を与える「The Hutto Project」を創設。

おすすめのストーリー