音楽とテクノロジーを活用し、
誰もが学べる社会に。
<前編>

Dania Murad/研究者

みんなとの音楽体験は、忘れられない記憶に。

歌うこと――。物心ついたときから声という楽器と戯れてきたDania Murad氏は、祖国パキスタンでの社会人経験を経て、現在は名門シンガポール国立大学で「音楽とテクノジーの融合」を追求する日々を送ります。歌とともに歩んできた氏の、活動の原点に迫ります。

親戚とともに歌う。祖国パキンスタンでは身近な光景です。

友人や親戚とともに歌う。それが私にとって最初の音楽体験です。両親や弟は、あまり歌には感心がありませんでしたが、幼い頃の私は、叔父や祖母の背中でともに伝統的な映画の曲を歌っていました。当時から同年代の友人とともに、大声で歌っていたこともよく覚えています。私の故郷であるパキスタンでは家族の絆が強いから、親戚同士がともに歌うのは、ごく自然なことでした。

伝統的な映画の大ファンだった父は、歌いはしませんでしたが、自宅のシアタールームでよく作品を観ていたから、私もその手の音楽をよく耳にしてきました。父と同じで、私が好きなのも伝統的な作品です。好きなシンガーをあげるなら「MUKESH(ムケイシュ)」とか。彼はどちらかというと伝統的な映画の中ではトラディショナルな分野を手がけていました。ほかだとパキスタンの「Noor Jehan(ヌールジハン)」も大好き。彼女も同じくトラディショナルな分野に位置します。

親戚とともに伝統的な映画の楽曲を歌っていた幼少期。

人と人とを繋げる。これも音楽の力です。

中学生や高校生になっても、親戚の結婚パーティなんかに集まり、みんなで歌うことは、私にとって楽しみのひとつでした。とはいえ、いくら身近だったとしても、音楽はあくまで趣味。特別熱中したわけでも特別な教育を受けていたわけでもありません。当時は普通のティーンと同じように、スポーツにも勉強にも打ち込みました。大学時代には、歌のコンテストを主催したこともありますが「音楽関係の仕事に就こう」などという思いはありませんでした。

私にとって「歌うこと」とは、周りの人たちと楽しい場を共有することです。歌はコミュニティを彩ります。親戚の結婚式での歌も然りですが、大学卒業後に勤めた大手通信会社でもそうでした。社員みんなでバスに乗って向かった合宿への道中でも、私は3時間ずっと歌いっぱなし。場の雰囲気が停滞してきたら、上司や同僚から「ねえ、Dania盛り上げてよ!」と歌をリクエストされたものです。

バスの中では全体を2チームに分けて、片方のチームが何かを歌ったら、その曲の最後の歌詞を受けてもう片方のチームが歌いだす、パキスタンのゲーム「antakshari(アンタクシャリ)」にも引っ張り出されました。これはたくさんの曲を知っているだけでなく、歌詞をすべて覚えていて、最後まで歌えなければ楽しめません。こういった大変なゲームでの出番は、ことさら多かったですね。

歌のコンテスト「Solo Singing」を、全国規模で開催。大学3年次の思い出のひとつ。

「音楽とテクノロジーとの融合」に興味がわいた。

得意な数学を生かせる上に、高い将来性を感じる分野として、私が大学で専攻したのはコンピュータエンジニアリングです。そして、就職した会社では、2年ほどテクニカルな仕事に携わりました。その後、いくつかの理由があってシンガポールにやってきます。

まず何年か働いたら、留学してPh.D(博士号)を取ろうと思っていたこと。留学先にシンガポールを選んだのは、教育に強い多国籍国家である上に、私の主人が同じくシンガポール国立大学(NUS)を卒業して現地で働いていたからです。NUSの中から「Sound & Music Computing Lab」を選んだのは「音楽とテクノロジーの融合」に興味があったからにほかなりません。より具体的には、このラボが掲げる「教育への音楽活用」が、自分の大切にする価値観にぴったりだと直感したからです。こうして私のシンガポール移住は進んでいきました。

同僚からのリクエストに応えて一曲披露。社員旅行からのワンシーン。

後編を見る

Dania Murad研究者
2014年、パキスタン国立科学技術大学でコンピューター工学の学士号を取得。通信業界に2年間在籍した後、シンガポール国立大学サウンド&ミュージックコンピューティングラボの博士課程へ。「音楽とテクノロジーとの融合」と「教育への音楽活用」を研究する。

おすすめのストーリー