エンタテインメントには
世界をつなげる力がある。
<前編>

近藤 祐希/社会起業家

音楽は僕を育ててくれた恩人。

幼少期はピアノ、中学ではサクソフォン、高校からはドラムに熱中してきた近藤祐希氏にとっての音楽は、文化や人種の違いを超えたつながりを生み、さまざまな社会問題を解決する大きな力となってきました。「人生=音楽」と言い切る氏にとっての音楽に迫ります。

異国における文化や人種の違いを、音楽で乗り越えた。

僕が初めて触れた楽器は、自宅にあったピアノです。小学1年生の頃から始めたクラシックピアノのレッスンは、小学4年生のときに父の仕事の都合でアメリカに引っ越した後も続けました。僕がいたオレゴン州は西海岸にある田舎町で、今から20年ほど前だと僕ら日本人はマイノリティーだったから、人種を理由に笑われたり、のけ者にされたりすることもありました。そんなアメリカで、僕に対する周りの見方がガラッと変わったのは中学校でサクソフォン(以下サックス)を始めてからです。

楽譜通りではなくアドリブが望まれるジャズの自由さに魅せられた僕は、ジャズサックスにどっぷりはまります。おかげでジャズバンドでは、みんなの前でソロを吹くソリストという大役を与えられました。さらに、ジャズフェスティバルでベスト・ソリスト賞なんかを受賞するようになった頃には「ユウキはサックスが得意なやつ」と周囲からも認められ、通学で乗るスクールバスでも人気者しか座らせてもらえない席に「ユウキ、こっちに座れよ」と呼ばれるようになりました。要は音楽のおかげで自分の存在を肯定され、周りとのつながりが増え、自信が育まれたのです。

ピアノ、サックス、ドラムと手にする楽器は変われども、常に音楽とともに歩んできた。左は小学3年生のときのピアノ発表会。右はオレゴン在住だった中学時代に参加していたビックバンドでの演奏シーン。

音楽をジャンル分けしないのは、差別された経験と無関係ではない。

当時は、プロのサックス奏者になるつもりでした。しかし残念ながらニューヨークで通った高校には、サックスに打ち込める場が見つからず、代わりに目を向けたのはロックバンド部です。ここでは以前から惹かれていたドラムに夢中になり、いろんな種類のロックに染まります。振り返ってみるとクラシック、ジャズ、ロックと、プレイする音楽は変遷してきましたが、音楽をあまりジャンル分けしないどころか、いろんなジャンルが融合した音楽を好むのは、差別を受けた経験と無関係ではない気がします。その経験があるからものごとを区別することに敏感になり、それぞれの良さを認め、生かし合うことを好むようになったのだと思います。

高校卒業後は日本に帰国し、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)で環境問題について学びます。僕がいたオレゴンって8割ぐらいは森林で、誰もが自然と共生していた州でしたから、僕も環境問題には強い関心があったのです。その一方で、大学の友人に環境問題の話をしても「自分には関係ない」という態度をとられることが多かったのが疑問でした。そんな僕にとって転機となったのは、種子島で環境問題をテーマにした音楽フェスを先輩とともに主催したことです。音楽がある楽しいお祭り空間であれば、環境問題のような真面目なテーマも受け入れられやすいはず。そう思った僕たちは、東京などの都市から海流に乗って漂着したゴミが、種子島の生態系に悪影響を及ぼしていることを説いた展示ブースを会場内に設けます。

大学時代には、環境保護への意識を高めることを目的とした音楽フェスを、種子島で開催。子どもたちとともにビーチに漂流するゴミの清掃や分別などを行った。

音楽などのエンタテインメントを、社会問題を解決する力に。

ここで小さな子どもを連れたママが「見てごらん。地球のことを考えながら生きていこうね」と語りかけているのを目にして「これだ!」と思いました。「自分には関係ない」という意識をなくすのに、エンタテインメントは本当に有効だと肌で感じた瞬間です。エンタテインメントを使えば、難しい言葉を使わずとも、諸問題をわかりやすく伝えられる。幼い頃の体験は人格形成に大きな影響を及ぼすから、子どもたちにアプローチすることで彼らの未来を良くしていける。そんな風に確信しました。

その直後にたまたま観た映画「スラムドッグ$ミリオネア」で、インドのスラム街に生きる子どもの貧困や児童売買などの問題を知ります。ここでも映画というエンタテインメントを通じて、これら社会問題が初めて自分ごとになりました。環境問題も根っこは同じです。「自分には関係ない」と思った瞬間に他人事になりますが、音楽、写真、映像、お祭りなどのエンタテインメントには社会問題を自分事に変え、世界を変えていく力が秘められている。そんな気づきを得た結果「エンタテインメントの力で社会問題を解決したい」という想いをかなえるために、僕は東京にある大手レコード会社を就職先に選びました。

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近藤 祐希/社会起業家
株式会社WORLD FESTIVAL代表取締役。「世の中から“関係ない”をなくす」をミッションに掲げ、音楽や映像などのエンタテインメントを活用した社会問題の解決を実践。国際的な教育事業や交流事業にも取り組む。2017年からはレーベル事業を始め、世界に眠る才能の発掘にも挑む。

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