音楽を楽しむ。これはすべての人間の資質です。
<後編>

Kevin Zakresky/指揮者

音楽には計り知れない力が秘められている

前編では「みんなで音楽を形にし、みんなで魂を共有する」という指揮の魅力を心から味わいながらキャリアを積み重ねてきたと語ったKevin Zakresky氏。クラシックに限らずあらゆる音楽ジャンルにオープンな氏は「すべての人に音楽を楽しむ機会が開かれている社会が理想」と主張します。

終わりなき探求であることも、音楽の魅力です。

僕がピアノと歌で学位をひとつずつ取得した後に、イェール大学でも指揮者として修士号と博士号を取得したのは、常に学び続けたかったからです。指揮者によっては実践で学び続ける人もいますが、僕は実践だけでは学べないこともあると思うから大学に籍を置き指導者からも学びました。これは自らのキャリアのためである一方、音楽家としての自然な欲求だとも感じています。

なぜなら音楽には「ここまでやったら終わり」というゴール地点がありません。常に探求し続けるものです。そしてその過程にこそ歓びがある。つまり終着点がないことも、僕にとっては魅力なわけです。

ジャズもフォークもゴスペルも。あらゆる音楽にオープンでありたい。

これまでの僕は本当にラッキーでした。「何か新たに始めたい」と思うと、いつも魅力的な仕事が巡ってくるのです。本当に恵まれています。キャリアにおいてひとつを極めることを好む人もいますが、僕はいろんなジャンル、いろんな時代の音楽に携わりたい。たとえばバロックが好きでチェンバロを弾くこともあれば、テレビゲームの「ゼルダの伝説」の音楽をフルオーケストラで再現する「ゼルダシンフォニー」で指揮をすることもあります。

最初は「ゲーム音楽!?」と少し戸惑いましたが「来るものは拒まず」のマインドでいると、思いもよらぬチャンスが舞い込んでくるから面白い。ほかにも、いろんな世界の人とともに音楽を創りあげるのも楽しいから、アマチュアや子どもとの音楽的な関わりも大切にしています。

ちなみに僕は、ジャズもフォークもゴスペルも、レデイ・ガガだって聴きます。僕はジャズミュージシャンでもフォークミュージシャンでもありませんが、いろんなジャンルの音楽を楽しむのは自由でしょう?世の中には素晴らしい音楽が溢れているのですから、ひとつに縛られるのはもったいないし、どんな音楽にもオープンでありたい。異なるジャンルから学ぶことも大切で、ゼルダシンフォニーの指揮者としてオーディエンスに語りかけるときには、コンサバティブな指揮者の自分は捨てて、情熱的なロックスターになりきって話しかけます(笑)。

ゼルダシンフォニーでは、いつもより情熱的に。

すべての人に音楽が開かれている社会が理想です。

僕には音楽のない人生は考えられません。僕に限らず、音楽から得られる歓びを感じたことのない人は地球上にいないはずで、これは人間という種の資質だと信じています。だからこそ、指揮者は自らが属しているコミュニティに「人生に音楽は欠かせない」と伝えていくアンバサダーを担うべきではないでしょうか。現代の指揮者はコンサートホールを出たら等身大の人間として、音楽の素晴らしさを広く伝えていくことで「音楽の民主化」に貢献するべきです。なぜなら僕にとっては、すべての人に音楽を楽しむ機会が開かれている社会が理想だからです。

音楽にはいろんな人をつなぐ力があります。音楽という共通言語があるだけで、人は年齢や国籍を越えて仲良くなれますよね。こういった音楽の価値を広く伝えていく必要があります。僕は月に一回のペースで老人ホームを訪れ、戦前の音楽を演奏するボランティアを続けているのですが、認知症の方や話せない方の中にも、音楽を耳にすると歌い始めたり、足を踏んでリズムをとりだしたりする人がいます。記憶を呼び覚ます力まであるなんて、すごいと思いませんか? 音楽には計り知れない力が秘められている。僕はそんな風に感じながら、これからも音楽とともに歩んでいきます。

音楽は、地球上に住む人間の共通言語。
まだまだ大きな力を秘めていると思うんだ。

前編を見る

Kevin Zakresky指揮者
カナダ、バンクーバー在住。地元では「プレイヤーズ・アンド・シンガース」のディレクターを担当。ゼルダシンフォニーの指揮者として世界中を駆けめぐるほか、北米全域でたくさんのオーケストラの指揮を行ってきた。2012年イエール大学で博士号を取得。