「人工知能演奏システム」で「人間と機械の共演」に挑戦
当日の演奏を一部動画で公開

ヤマハ株式会社は、5月19日（木）に東京藝術大学奏楽堂で開催されたコンサート「音舞の調べ～超越する時間と空間～」（主催:東京藝術大学、東京藝術大学COI拠点）に技術協力を行い、「人間と機械の共演」の実現に取り組みました。当社が開発した「人工知能演奏システム」を用いて、20世紀のピアノの巨匠、故スヴャトスラフ・リヒテル（以下、リヒテル）の往年の演奏を当社の自動演奏ピアノ「Disklavier™」（ディスクラビア）で忠実に再現するだけでなく、世界的名演奏家集団であるベルリンフィル・シャルーンアンサンブルの演奏に合わせてその演奏を柔軟に変化させ、息のあったアンサンブルとして披露することに挑戦しました。

「ピアノの巨匠が蘇り、現代の名演奏家と共演したとすれば、果たしてそれはどんな演奏になるのだろうか。」そんな想いを現実のものにするために、当社は今回、人間の演奏を理解し、その演奏に合わせて自動演奏を行うことができる「人工知能演奏システム」を開発しました。

このシステムは、マイクとカメラを用いて共演者の演奏音や演奏時の動きを検出・分析し、次の瞬間に行うべき演奏を逐次予測しながら、自動演奏ピアノ「Disklavier™」に演奏をリアルタイムに指示することで、人間とアンサンブルを奏でることが出来るようになっています。さらに、リヒテルの往年の演奏を忠実に再現した特別なデータを用いて、彼のタッチも加味したピアノ演奏を行うことが出来ます。また、自らのピアノ演奏を表現する映像をリアルタイムに生成してプロジェクターで投影することで、共演者と協調を図る機能も備えています。

つまり、単純に自動演奏ピアノで音源を再生するのではなく、共演者の演奏に合わせてそのピアノ演奏を柔軟に変化させ、さらに自らの演奏の息遣いを共演者に伝えることで、息のあったアンサンブルを実現することができる仕組みとなっています。

今回このシステムと共演したのは、現代の名演奏家集団であるベルリンフィル・シャルーンアンサンブル（バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス）のメンバー。ベルリンや国内で彼らと何度もリハーサルを行い、本番直前まで人工知能演奏システムの改良を行いました。あたかも人間と同じように、演奏会本番までに何度も練習し、互いの演奏を確認し合って共演の精度を向上させたと言えます。

また、現代の名演奏家のパフォーマンスに応えるために使用した自動演奏ピアノは、現在の最高峰コンサートグランドピアノである「CFX」に自動演奏機能を持たせた特注の「Disklavier™」です。「CFX」は、リヒテルが円熟期に愛用した当社ピアノ「CF」の後継機種にあたり、まさにリヒテルの往年の演奏を再現するのに最適の一台と言えるものです。

披露した曲目は、シューベルト ピアノ五重奏曲イ長調 D667 《鱒》の第4、第5楽章。演奏を聴いた観客からは大きな拍手が沸き起こり、シャルーンアンサンブルのメンバーからは笑みがこぼれました。

当社は昨年より、文部科学省と科学技術振興機構の事業「革新的イノベーション創出プログラム（COI STREAM）の拠点の一つ「東京藝術大学COI拠点」に参画しています。今回の協力はその活動の一環として行ったもので、未来の楽器のあり方を追求するための着実な一歩となったと考えています。