新聞記事
小椋作品で同日アルバム 「もういいかい」と林部智史「まあだだよ」
77歳のシンガー・ソングライター・小椋佳と、32歳の歌手・林部智史。45歳離れた2人が同じ日に、アルバムを発表した。小椋は初アルバム発売から50年の節目の作品となる「もういいかい」(ユニバーサル)。林部は小椋の書き下ろし曲で構成した「まあだだよ」(エイベックス)。ユニークな試みについて、2人に聞いた。(清川仁)
「声質が魅力的。高い声を張らず、そーっと空に広がっていくような透明感があってね。少しハスキーなところもいい。今、こういうふうに歌えたらなあ」。小椋は、林部の歌声にほれ込んでいる様子だ。林部は「メロディーに、心に引っかかるフックがあって、知らず知らずのうちに口ずさむことが多い。不思議な魅力があるんですよね」と、小椋作品の味わい深さに感嘆する。
小椋は銀行勤務の傍ら、自身で歌った「さらば青春」のほか、布施明の「シクラメンのかほり」、美空ひばりの「愛燦燦(さんさん)」などのヒット曲を生み出した。一方、林部は涙を誘うバラード「あいたい」で2016年にデビュー。評判を呼んだ同曲からの流れで、叙情的な小椋の作品を積極的にカバーしてきた。18年の音楽イベントでの共演を経て、今回の共同企画にたどりついた。
小椋は「もういいかい」を「ラストアルバム」だと語る。「タイトルも、くたびれた気持ちで『もういいかい』。やめていいだろって」と冗談めかすが、実は黒沢明監督の遺作「まあだだよ」にちなむ。「(黒沢の)ものづくりの緻密(ちみつ)さ、妥協のなさ、探究心がすごいと思っていた」
歌詞は自身の歌人生を振り返った、締めくくりのメッセージのような内容が多い。「(アルバムは)遺書のようなもの。こんな年になってまで歌を作れて、本当に恵まれた人生だなと思います。若い人にはつらい時代だけど、生き抜いてほしい」
林部はアルバム「まあだだよ」の制作に関して「小椋さんのデモ音源を聴けるのが幸せでした。思いを音でやりとりすることができた」と振り返る。小椋が「僕は楽器が何もできないんだ」と、声だけを使って作曲していることを明かすと、「だからセオリーとは違うメロディーが出てくる。そこがお気に入りになってしまう」と、“小椋マジック”に納得していた。
特に林部が気に入っているという「ラピスラズリの涙」(双方のアルバムに収録)について、小椋は「芥川龍之介の自死から着想を得た。なんで男が自殺したか分からない女性側の悲しみを歌った曲」と解説。続けて遠藤周作の人生観を語る小椋を見て、「こういう時間が幸せ」と林部。インタビュー中、林部が「歌詞はノートに書いているのですか」などと小椋に問いかけることも多かった。2人で過ごす時間をかみしめ、全てを吸収しようとしているようにみえた。
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