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読売新聞│配信日:2020年9月28日│配信テーマ:Jポップ  

[ALL ABOUT]YOASOBI 小説を音楽に 世界観の昇華


 ◇Pop Style vol.715
 「小説を音楽にする」という発想で、今年春頃から音楽チャートを席巻しているのが、2人組音楽ユニット、YOASOBIだ。第1弾の楽曲「夜に駆ける」は、YouTubeに公開した楽曲動画が8500万回再生を突破、ビルボードチャートでは約4か月間もトップ5以内を維持し続ける。小説のストーリーや世界観を、J—POPの楽曲に昇華させるプロジェクトはいかにして生まれ、爆発的な話題を呼んだのか。これが、2020年を代表する音楽の全容だ!!
 ■物語とリンク 
 〽沈むように溶けてゆくように 二人だけの空が広がる夜に——
 滑らかに揺らぎ、どこか哀感を帯びた声で始まる「夜に駆ける」。続いて疾走感のあるリズムが刻まれると、アニメーションではスカートをはいた女性が真っ逆さまに転落していく。
 YOASOBIが歌い、藍にいなさんがアニメを手がけたこのミュージックビデオ(MV)は、2019年11月からYouTubeなどで公開された。その最大の特徴が、「タナトスの誘惑」(作・星野舞夜さん)という小説を基にした楽曲を作っていること。マンションから飛び降り自殺を図ろうとする女の子と、彼女に魅了された「僕」を巡る物語。あっという間に読めてしまう短編だが、楽曲を聴けば、その世界が押し広げられるような、物語にさらに没入するような不思議な感覚を得られるだろう。
 「物語の展開や空気感をリンクさせることにウェートを置き、小説でゾクッとする感覚を音で表現するように心がけました」と、作詞作曲を手がけるAyaseさん。楽曲を聴いてから小説を読めばパズルのピースが埋まったように答え合わせができ、また小説と楽曲を行き来することで行間や伏線、歌詞、リズム、転調に込められた感情やヒントが新たに浮かび上がってくる。
 「小説の主人公として歌うことに徹して、自分の癖はなくすように意識しています」と話すのは、ボーカルのikuraさんだ。Ayaseさんは「透明感があって、いい意味でみんながフラットに聴ける声」と評する。
 「夜に駆ける」のMVは、約1か月で再生回数100万回を記録した。注目度は、今年春先から加速度的に上昇。4月に1000万回を超え、現在は8000万回を突破している。YOASOBIの2人は、100万回の時点で予想外の事態に驚いていたという。それがよもや、2020年を代表する1曲になってしまうとは——。
 ■才能の発掘 
 「見つけた!」
 2019年5月、ソニーの屋代陽平さんは、一緒にプロジェクトを進める同僚の山本秀哉さんに、ニコニコ動画のリンクを張った1通のメールを送った。ボーカロイドの初音ミクが歌う「ラストリゾート」という曲だった。ボカロシーンを黎明(れいめい)期から見ていた屋代さんは、他の投稿者と一線を画すメロディーセンスを持つ新星の発見に胸を躍らせた。それが、Ayaseさんだった。9年間にわたってバンド活動した後、畑違いのボカロシーンでも瞬く間に注目されたのだ。そんな器用さを持った才能に、屋代さんは異なる場所でも活躍が期待できる輝きを確信した。
 屋代さんと山本さんは、ソニーが運営する小説投稿サイト「monogatary.com」に携わる。設定したお題に対する投稿、コンテストなどを通して作品を募集し、コミック化や映像化を目指すサイトだ。楽曲を作る試みも単発で行われてはいたが、2人は一歩進めて楽曲を専門に手がけるユニットの結成を企図していた。ボーカルのikuraさんは、インスタグラムでJ—POPのカバー動画をアップしており、それに目を付けたAyaseさんから声をかけられた。
 2020年1月の第2弾楽曲「あの夢をなぞって」も同様に、「monogatary.com」に投稿された小説を原作に作られた。
 「人が書いた物語の世界を、自分のフィルターを通して広げることができるプロジェクト。自分にはない発想、言葉選び、展開ができ、毎回、面白い化学反応を感じます」と、やりがいを語るAyaseさん。「あの夢をなぞって」の公開からまもなく、今度は「夜遊びコンテストvol.1」の募集が開始された。大賞に輝いた作品はYOASOBIが楽曲化するという公約通り、しなのさんが著した「たぶん」が今年7月、同名の楽曲となった。若い才能は連鎖的に世に放たれていく。
 ■新たな輝き 
 2020年5月、「THE HOME TAKE」というYouTubeコンテンツで、ikuraさん本人が「夜に駆ける」の別アレンジを歌う動画が公開された時、ネット上はちょっとした騒ぎになった。YOASOBIのこれまでのMVでは、小説の世界をより広げるアニメーションが採用され、本人たちは露出する機会がなかったからだ。
 「THE HOME TAKE」は、演出を排除した白いスタジオで、歌手がシンプルなアレンジで歌うだけの構成。ゆえに、ikuraさんが手ぶりをつけながら感情むき出しで歌う様子がさらされると、純粋な歌の力が浮き彫りになる。「夜に駆ける」が新たな輝きを帯びた瞬間だった。
 ボカロ文化に親和性のある最近のアーティストは、顔を出さずに活動する場合も多い。だが、山本さんは「僕らが接していても人間的にも魅力がある2人だったので、隠すことはないなと思っていた」と話す。
 ikuraさんは従来、本名の「幾田りら」でシンガー・ソングライターとして活動していた。自身ではYOASOBIでも楽曲を出していることは明らかにしてきたが、多くの人にとっては突如、謎のシンガーikuraさんが正体を現したと映ったに違いない。
 「時間的にはYOASOBIとしての活動が多いですが、意識的にはソロが主軸にあるので頑張りたい」と語るikuraさん。体に優しくしみこんでくる声で、牧歌的なフォークソングを歌うソロ活動も魅力的だ。Ayaseさんもまた、ボーカロイドプロデューサーというだけでなく、歌唱力もあり、ソロとしての確固たる軸を持っている。2人にとっては“課外活動”として組んだのが「YOASOBI(夜遊び)」だったのだ。
 YOASOBIは、小説を音楽にするという発想が注目されるが、Ayaseさんが作る楽曲を単体で取り上げても大いに評価されるべきものだ。例えば、セオリーより半音上下するような意表をつく旋律や、メロディーをより飛躍させる語感の選択。「メロディーの動きは意図しているわけではなく、自分が一番かっこいいと思っている。aikoさんやスキマスイッチさんを小学生の頃よく聴いていたし、クラシックピアノをやっていた影響かもしれない」「楽曲で一番気を付けているのが語感。歌詞のはまり方一つで良いメロディーも悪く聴こえてしまう。音に歌詞を最も気持ち良く入れているバンドは、マキシマム ザ ホルモンだと思う」と、音楽性の背景を明らかにする。
 YOASOBIをきっかけに注目されたAyaseさんとikuraさん。一過性にとどまらず、これをステップに、まだまだ才能を開花させていくに違いない。
 
 ◆最新曲「群青」 
 9月1日に配信を開始したYOASOBIの第5弾は、ブルボン「アルフォートミニチョコレート」のテレビCMタイアップ曲。美大受験をテーマにした漫画「ブルーピリオド」(作・山口つばさ、「月刊アフタヌーン」連載)の世界観をベースに、好きなことに没頭することを肯定した応援歌に仕上がった。賛歌のような合唱パートには、ikuraさんが所属するユニット「ぷらそにか」のメンバーが参加。
 Ayaseさんは、「まだ何者でもない青の時代を、もがきながら、必死に生きる人の背中を押せたらいいな、と思いながら作りました。聴きどころは合唱です」と話す。ikuraさんは楽曲についての印象を、「最初に聴いた時、渋谷の朝の青い世界や主人公の感情から溢(あふ)れる青さが、すぐにイメージできて、色と音のイメージがしっかりと重なっていることに感動しました」と述べる。歌唱で気を配った点については、「歌詞にある『虚(むな)しい』『悔しい』といった感情表現や、フレーズ頭に何度か登場する『嗚呼(ああ)』という音に、主人公の感情が乗るように意識しました。そして楽曲全体を通して、夢を追いかける人の葛藤や苦しみに寄り添えるようにと思って歌いました」と語っている。
  
 ◆「夜に駆ける YOASOBI小説集」 双葉社から9月18日に刊行。
 YOASOBIの楽曲「夜に駆ける」「あの夢をなぞって」「たぶん」の原作となった小説および関連小説に加え、YOASOBIによる楽曲制作が進められている「世界の終わりと、さよならのうた」(水上下波著)を収録。1350円(税別)。
 YOASOBIとして初の原作小説集。このほか、「あの夢をなぞって」の原作小説がコミック化され、「たぶん」がこの秋に映画化されるなど、多角的なメディアミックスが展開されている。
 
 ◆チャートを駆ける! YOASOBI記録集
 ★「夜に駆ける」YouTube公式ミュージックビデオ再生回数8500万回突破
 ★「夜に駆ける」THE HOME TAKE 再生回数5000万回突破
 ★5月に公開された「ハルジオン」は、2日で100万回再生を記録
 ★ビルボード最新チャート(9月21日付)で既発表の全5曲がトップ100入り
 夜に駆ける     1位
 群青        8位
 ハルジオン    25位
 たぶん      33位
 あの夢をなぞって 73位
 
 ◇Ayase
 1994年4月4日生まれ。山口県出身。
 5歳からピアノを始め、国際コンクールの出場経験も持つ。好きなピアノ曲は、ショパン「革命のエチュード」。小学6年生のころにEXILEに憧れて歌手への思いを募らせ、マキシマム ザ ホルモンの影響で高校1年生の時にバンドを始め、ボーカルを務める。ボーカロイド曲の投稿は2018年12月から。「幽霊東京」は自身の歌唱版も。
 初めて買ったCDはORANGE RANGE「musiQ」。作詞作曲で影響を受けたアーティストは、aiko、いきものがかり、スキマスイッチ。影響を受けた歌い手は、EXILE、UVERworld、久保田利伸。
  
 ◇ikura(本名・幾田りら)
 2000年9月25日生まれ。東京都出身。
 生後まもなくシカゴに移住し、3歳まで住む。幼少時から兄弟と一緒に「ディズニー・チャンネル」を見て、「ハイスクール・ミュージカル」「ハンナ・モンタナ」などの番組を通して、海外の音楽に親しんだ。
 初めて買ったCDは「ハイスクール・ミュージカル」サウンドトラック。小学6年生で作詞作曲を始め、中学校3年生からシンガー・ソングライターとして活動する。最新作は昨年11月発表のセカンドミニアルバム「Jukebox」。影響を受けたアーティストは、SEKAI NO OWARI、RADWIMPS、YUI。

   
 ◇文・清川仁 
 
 ◎次回の「ALL ABOUT」二宮和也&浅田政志 家族写真家を映画に 主演と本人が語り合う
  
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読売新聞2020年9月23日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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