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毎日新聞│配信日:2020年1月27日│配信テーマ:Jポップ  

<大衆音楽月評>「紅白当確」初ソロアルバム=専門編集委員・川崎浩


 元SMAPの木村拓哉の初ソロアルバム「Go with the Flow」(ビクター)が、オリコン週間アルバムランキング(20日付)で初登場1位を獲得した。売り上げ推計は12・7万枚である。ちなみに、2位は三代目J SOUL BROTHERSのメンバーの登坂広臣の「Who Are You ?」(4・1万枚)、3位が中島みゆき「CONTRALTO」(1・8万枚)であった。木村の1位もさることながら、メガヒット時代を記憶している人がこの数字を見ると「今、アルバムはこれだけしか売れないのか」と驚いたであろう。これが今のCDビジネスの現実である。「Go with the Flow」は、木村がホストを務めるラジオ番組に出演したアーティストたちとのコラボ企画。稲葉浩志、水野良樹、Uru、森山直太朗ら、人気者が曲を提供している。2月には、国立代々木競技場第1体育館と大阪城ホールで、ソロ初の公演を行う。“紅白当確”である。

 昭和から平成に変わった時が、まさにメガヒット時代。世の中もバブル経済真っ最中で浮かれきっていた。一方で、「マルビ」や「ネクラ」「オタク」をからかう、社会の差別的二分化メンタリティーが蓄積していった。

 さて、令和はどうか。「第70回紅白歌合戦」のメッセージは、平等精神のもと、多様性を認め合う心豊かな理想をうたい上げた。紅組トリのMISIAの舞台に登場したレインボーフラッグやドラァグクイーンが象徴である。外見は、まさに寛容の気質にあふれた「反バブル精神」全開である。だが、本当だろうか。

 例えば映画「私をスキーに連れてって」「波の数だけ抱きしめて」の挿入歌などバブル期の象徴的ヒットを連発した松任谷由実による、まるでスキーにもサーフィンにも接点はないといった清廉な風情での「ノーサイド」の歌唱。例えばジャニーズ系アイドルや米津玄師に対する下にも置かぬ特別扱い。ところが、水森かおりはマジックショーのアシスタント、三山ひろしはけん玉ショーのBGM、天童よしみはなぜかタレントMattの伴奏。この全体像を、ある関係者に問うと「視聴者が望む適切な演出」と言い切った。が、これこそ、差別、いじめというものではないか。平成に生まれた二元化差別精神は、巧妙に凝縮され、令和紅白の演出ににじみ出てしまったのである。

 この10年で、紅白は巨大な局宣番組に変貌した。歌は、そのプロパガンダの彩りと正当化にしかすぎない。今年は、五輪を背景とした嵐と木村による壮大なジャニーズ祭りが繰り広げられるであろう。そんな演出進行につごうのいい“つなぎ役”としかみなされていない演歌歌手は、そろそろ紅白一斉卒業を考えてもいい頃ではないか。

毎日新聞2020年1月20日東京夕刊(1版)掲載 執筆記者:川崎浩

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