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読売新聞│配信日:2019年12月30日│配信テーマ:

[回顧2019]音楽 ポピュラー 新時代突入 「嵐」巻き起こる


 ◆サブスク拡大で大物解禁、新人躍進 
 令和という新たな時代を迎えた2019年、ポピュラー音楽界も新時代突入を感じさせる1年となった。年明け早々、アイドルグループ・嵐の活動休止発表が大きく報じられた。定額制・聴き放題サービスが広がりをみせ、Official髭男dism、King Gnuといった新鋭がスターへの階段を一気に駆け上がった。(清川仁、鶴田裕介)
 国民的人気グループが、まさに嵐を巻き起こした1年と言っていいだろう。嵐は、1月に2020年末での活動休止を表明。6月にベスト盤「5×20 All the BEST!! 1999—2019」を出し、200万枚以上を売り上げた。
 所属するジャニーズ事務所にも大きな変化があった。50年以上事務所を率いてきたジャニー喜多川氏が7月に死去し、藤島ジュリー景子社長、滝沢秀明副社長らによる新体制が始まった。SixTONES、Snow Manの2グループが、2020年の同じ日にそろってデビューするという前例のない試みも発表された。
 さらに嵐は11月、新たな施策を打ち出した。新曲を含むシングル65曲を、聴き放題の定額制音楽配信サービス、サブスクリプション(サブスク)で聴けるようにした。星野源、スピッツ、BUMP OF CHICKENといった大物が相次ぎ“サブスク解禁”する中、決定打といえる動きだった。
 サブスクでは、話題になった楽曲が急速に広まる。いくら聴いても料金は変わらないため、「試しに聴く」ことが可能だからだ。サブスクの実績が反映されたビルボードジャパンの年間ストリーミング・ソング・チャートでは、Official髭男dismの楽曲が2、6、7位と3曲ランクインし、King Gnuの「白日」は3位に入った。両者ともに今年、メジャー初アルバムを出したばかり。大物の解禁と、新人の躍進。今年は「真のサブスク元年」と位置づけられるかもしれない。
 ■米津強し
 一方、インターネットの動画再生数やラジオでの放送回数などの要素も加味したビルボードジャパン年間総合ソング・チャートでは、シンガー・ソングライター米津玄師の「Lemon」が同チャート初の2年連続のトップとなった。昨年末のNHK紅白歌合戦でのパフォーマンスが話題となり、年をまたいで支持され続けた。同じく、あいみょんが紅白で歌った「マリーゴールド」も年間総合2位と勢いを保持した。1990年代以降、毎週ヒットチャートの顔ぶれがガラリと入れ替わる傾向が強くなり、国民的なヒット曲が少なくなったが、ここに来てロングヒットの時代が再び訪れた感がある。
 ■まりやの存在感
 ロングヒットといえば、星野源が昨年12月に出した「POP VIRUS」がオリコンアルバムランキングで4週連続首位を記録した。ヒットチャートで目立ったアーティストはほかに、今年改名してデビューした日向坂46や、ベテランの竹内まりや、矢沢永吉らが挙げられる。竹内と矢沢は9月、同日発売のアルバムが、同ランキングで激しい首位争いを繰り広げた。竹内は、過去の曲がシティポップブームで海外から注目され、紅白出演も発表された。
 ■音楽配信伸びる
 日本レコード協会の2月の発表によると、18年はCDと音楽ビデオなどを含めた「音楽ソフト」の生産額と「音楽配信売り上げ」の合計額が、3年ぶりの前年比増となった。19年は、音楽ソフトの生産額が10月末までで約1880億円と前年同期比4%減。一方、音楽配信売り上げは9月までで520億と同9%増。合計額は、年間で昨年並みの数字を残せそう。配信売り上げの7割弱をストリーミングが占め、増加分でソフトの生産額減少を補っている。
 ■悲報 
 「シェルブールの雨傘」などの美しい映画音楽を残したフランスの作曲家・ミシェル・ルグラン、ボサノバの巨匠・ブラジルのジョアン・ジルベルト、米歌手のドリス・デイなど海外の大物たちが世を去った。国内では森山加代子、内田裕也、萩原健一、遠藤ミチロウらが亡くなった。
 
 【記者が選ぶ年間ベスト】 
 ◆「伝説」になる前にぜひ
 シティポップブームと言われる中、音楽的センスと演奏力のある5人が集結した都会派バンド、CRCK/LCKSが10月にフルアルバムを発表したことが喜ばしい。小西遼、小田朋美、井上銘、越智俊介、石若駿という面々は全員、作曲ができ、多方面で引く手あまた。それゆえ、音楽フェスへの出演が困難という悩みもある。わずか2か月後の今月18日に出した「Temporary vol.2 」は最終曲「Rise」が胸を打つ美しさ。雰囲気と歌詞の内容が示唆的で、「一時的な、はかない」というアルバムタイトルが象徴するように、最後の作品では?と不安になる。「伝説」になってしまう前に、ぜひ手に取ってほしい。彼らの人脈をたどると、King Gnuにもつながる。Tendre、君島大空、長谷川白紙など、バンド周辺は恐るべき才能の宝庫だ。(仁)
 ◆大衆性とマニアック両立
 昨年末に出た星野源の「POP VIRUS」を今年は最も聴いた。「恋」のような突き抜けた大衆性とマニアックな作り込みが両立する、全方位に響く作品だった。洋楽ではビリー・アイリッシュの「ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?」。超低音が効果的に使われ、文字通り震える。「Jポップのガラパゴス化」と言われる中、日本の音楽制作に与えた影響は少なからずあった。ライブは中村佳穂。親しみやすい旋律とアドリブと客との会話が一体となったパフォーマンスは、ステージだけの特別な体験だった。来年は彼女がどかんと来ると予言しておく。ミュージックビデオはウラニーノの「中年花火」。泣いてたまるか!と思っても抵抗しきれない。ユーチューブで見られる。(鶴)
 ◆元気な女性たち目立つ
 洋楽では元気な女性たちが目立った。グラミー賞に輝いたケイシー・マスグレイヴスをはじめ、フィービー・ブリジャーズ、コートニー・バーネット、ステラ・ドネリー……。様々な問題について軽やかに自身の思いを伝える彼女たちは「時代の顔」と言え、来日時に話が聞けラッキーだった。世界的に高評価を得たラナ・デル・レイやブリタニー・ハワードの作品も言葉が重要で、深く知ろうとすると歌詞サイトなどを参照する手間がかかり、「ネットで大量に聴く」時代に日本の音楽市場に浸透するのは難しいのかも。ベテランでは、フジロックのキュアーや3Dライブのクラフトワークが独自の美意識を貫いており、さすがの出来だった。本格的にライブに復帰した山口美央子のステージが邦楽ではベスト。あんなふうに心地よい声はほかにない。民族音楽とジャズが融合したようなユニークな音楽、そして珍しい海外の料理も楽しめた仲野麻紀の公演も強く印象に残った。(桜)
 
 【ビルボードジャパン年間チャート】
 ■総合ソング・チャート
 1 Lemon      米津玄師
 2 マリーゴールド    あいみょん
 3 Pretender  Official髭男dism
 4 白日         King Gnu
 5 馬と鹿        米津玄師
 ■総合アルバム・チャート
 1 5×20 All the BEST!! 1999—2019  嵐
 2 POP VIRUS                      星野源
 3 Eye of the Storm               ONE OK ROCK
 4 MAGIC                          back number
 5 King & Prince                  King & Prince
 (集計期間=2018年11月26日〜19年11月24日) 

読売新聞2019年12月19日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁