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読売新聞│配信日:2019年8月26日│配信テーマ:その他  

7年ぶり昭和の名曲カバー集 柴田淳 自分の曲として歌う


 シンガー・ソングライターの柴田淳が、昭和の名曲を歌ったカバー集「おはこ」(ビクター)を出した。7年前の「COVER 70’s」がその完成度から“名盤”扱いされており、高いハードルに自ら挑んだ形だ。歌声からは、女の情念ともいうべきものが伝わってくる。(鶴田裕介)
 タイトル通り「十八番(おはこ)」がテーマ。「ただ、前作で思いのほか十八番を歌ってしまい、日頃からいいなって思っている曲を急きょ持ってきたというのも半分くらい。まだ理解しきれていないところもちょっとある」と話すが、謙遜だろう。
 前作と違って選曲に年代の縛りは付けていないが、結果として1950〜80年代の「昭和」中心になった。「なんか好きみたいですね。昔の曲が」。この時代の歌は、男らしさ、女らしさが求められる中での葛藤を歌うものが多い、と感じている。自らの作風にも通じるものがあるのか、「50〜60年代に生まれて、70年代に活躍すればよかったのにってよく言われます」と苦笑いする。
 1曲目のイントロからその迫力に度肝を抜かれる。ジュディ・オングが歌った「魅せられて」だ。そして、抑制を利かせながらも、情感を込めた歌唱。「カバーをやると、なぜヒットしたのかがわかる。ああ、かなわないと思う」
 松山千春の「恋」には、嫉妬を覚えるほどの思い入れがあったそう。「男性が女性目線で歌っているが、それが悔しい。私は女なのに、私が書けない女の気持ちを、男が書いているっていうのが。シンガー・ソングライターの私じゃなくて、女の私が傷つく」
 自作曲では、実体験に即したリアルな女性の心情を歌に落とし込む作風。一方、他人の曲をカバーする時は、自分の歌だと感じられるほどに歌い込む。「まず、原曲をすごく研究する。あ、ここから裏声にするのか、とか。その上で、どこを参考にし、どこは捨て、自分のものを新たに追加して、と消化していく。(録音時は)自分の曲として歌っています」。伴奏はあまり変えない。「私はこうやって歌わせてもらう」という自己主張だ。
 自身にとってのカバーの位置付けを尋ねると、「遊び」という答えが返ってきた。「オリジナル作はすごく神経質になるけれど、今回はサウンドは人に任せてノータッチ。普段は自分で船を組み立てて目的地に到達するけれど、カバーは(自分が)お客さんにさせてもらうというところが、気持ち的にはある。歌だけに集中できるというのは、楽しいですよね」

読売新聞2019年8月15日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:鶴田裕介

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