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読売新聞│配信日:2019年7月22日│配信テーマ:Jポップ  

[STORY]ロックバンド サカナクション(2)歌詞磨く 文学のために


 ◇週刊エンタメ 
 「ひとことで言うと、僕の歌詞が書けなくて。書けないというか、妥協できなくてですね……」。サカナクションのボーカル・ギター、山口一郎は3月末、ラジオ番組の中で、翌月に予定していた6年ぶりの新作「834.194」の発売を、2か月延期すると発表した。
 後日、延期の経緯を尋ねると「純粋に、書けなかったんですよ」とシンプルな答え。「不思議なもので、歌詞って僕の中ではひとつの文が完成したなと思ったら完成。作家が最初の1行が書けたらどんどん書き進められるという感覚に似ている」
 最後まで思い悩んだのは、新作の1曲目「忘れられないの」。できたと思ったのは「素晴らしい日々よ 噛(か)み続けてたガムを 夜になって吐き捨てた」という一節が浮かんだ瞬間。「美しい郷愁の景色を懐かしむだけじゃなくて、苦い部分がある。そのピースが埋まった時、完成と言っていいと思えた」。ここに至るまでに、180パターンもの歌詞を書いていた。
 歌詞に並々ならぬ執着を抱く。それは「文学を伝えるために、音楽を利用している」というそもそもの立場による。
 小学生の頃、父親に本を「読まされ続けていた」のが原点だ。近所に酒屋と古本屋が一緒になった店があり、量り売りで本を買った。社会学の本も、医学書も小説も現代詩もあった。内容を全て理解できたわけではないが、好きなものは分かった。「美しい言葉を見つけてぐっと感動したり。こんなふうに言葉を扱えたらいいなと思った」
 文学に目覚めた早熟な小学生の身に起こった“事件”は、国語の授業でのこと。「朗読の時間、クラスのやつらが下手くそで。つまるし。暗記もできていない。話にならない」。見下すように同級生を眺めていた。
 ところが休み時間、その同級生が光GENJIの曲を歌詞も見ずに歌い始めたことに衝撃を受けた。「文学に興味がない人も、音楽になった瞬間に言葉を覚え、愛している。ずるい、と思った」。音楽なら、美しいと思ってもらえる。家には父のギター。初めてコピーしたのはイルカの「なごり雪」。自分の歌を作り始めた。
 山口の歌詞は全てを説明しない。聴き手に想像の余地を持たせ、リズムに溶けていく。例えば「マッチとピーナッツ」という曲の歌詞に、湯呑(の)みが登場する。「身近だけれど、物としての湯呑みと、湯呑みという言葉の響きが釣り合ってない気がする。『You know me』っていう英語にも感じるし」。突き詰めていくと、言葉のリズムが意味を上回っていく。「意味なんてどうでもよくなる瞬間。それを探し続けている気はしますけどね」(文・鶴田裕介)

読売新聞2019年7月13日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:鶴田裕介

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