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読売新聞│配信日:2019年3月4日│配信テーマ:その他  

[ALL ABOUT]城田優 in ピピン 衝撃の舞台へ さあ


 ◇Pop Style vol.637
 ブロードウェーミュージカルの名作「ピピン」の日本語版が6月10日から、東京で上演される。主演は、圧倒的な存在感を誇る大器、城田優さん。華麗な音楽やパフォーマンスに彩られ、哲学的な思索も内包する物語は、芸能生活20周年という城田さんにとっても記念碑的な作品になるだろう。次々にあふれ出る彼の言葉を聞くだけで心が躍る。開幕が待ちきれない!
 ◆ブロードウェー名作 
 「サーカスやアクロバットなど見て楽しめる要素がちりばめられ、華やかでゴージャス。シルク・ドゥ・ソレイユを見ているようだった。その上、しっかりした音楽の構築と物語の進行もあった。お客さんの熱気がすごくて、ショーストップ(拍手喝采がやまず、ショーが中断すること)が度々起きた」
 約5年前、米・ブロードウェーでたまたま見た「ピピン」の公演を、昨日のことのように振り返る。「自分探しの旅という物語も、皆さんにあてはまるはず。自分は何のために生きているのか、何を目指したらいいんだろうかと、誰もが考えると思う」
 当時は、自身が後に主演することになるなんて想像もしなかったという。一観客として純粋に楽しんだだけに、その興奮も生々しく記憶しているのかもしれない。
 開幕は6月で、稽古もまだ先の話。「漠然としているだけに不安もある」と語りつつ、準備も着々と進んでいる。昨年10月発売したソロアルバム「a singer」には既に、ピピンの幕開けを飾る歌「コーナー・オブ・ザ・スカイ」が収録されているのだ。伸びやかな歌い回しで、繊細さも精妙に表現。フィナーレの裏声のロングトーンは実に美しく、聴き手を大空へといざなうよう。仕上がっているではないか! 「いやいや、CDに収録したクオリティーを毎公演出すことは難しい。でも、ピピンの心情が全て吐露される曲なので、臨場感と高揚感、上を向いていく気持ちを、しっかりと表現できるように歌いたい」
 ◆主演 挑戦と決意 
 公演タイトル「ピピン」は、物語の主人公の名で、中世のヨーロッパを支配したカール大帝の息子がモデル。作中では自身の存在意義に悩みつつ、成長していく役どころだ。1972年、ブロードウェーでの「ピピン」初演は、ボブ・フォッシーによる演出と振り付け、中世風のセットと妖麗な衣装で、トニー賞5冠に輝いた。2013年の新演出版は、「フォッシースタイル」のダンスを踏襲しつつ、シルク・ドゥ・ソレイユ出身のアーティストが手がけたサーカスアクロバットを取り入れた大胆な作風に進化し、トニー賞最優秀リバイバル賞を受賞。現地のスタッフがそのまま、日本語版を演出する。
 ダンスのワークショップを約1週間体験した城田さんは「ムチャクチャ難しい。特殊、独特」と、“お手上げ”の表情。とはいえ、城田さんには壁を乗り越えた経験がある。1年前のミュージカル「ブロードウェイと銃弾」で、タップダンスを1か月でものにしていたのだ。「最初は、頭が沸騰して湯気がプーッて出続けているような感じでした。でも、結局どれだけ時間をかけるかなんです。全て」
 
 「ちょっとケイちゃん、ミュージカルやらね?」
 狂言回しに当たる重要な役どころ「リーディングプレイヤー」を演じるのは、歌手のクリスタル・ケイさん。プライベートで親しい城田さんによる直々の出演依頼は、ミュージカル初挑戦の彼女に大役を勧めるにしては、随分と軽い口調だった。だが、その陰には、並々ならぬ決意が。「日本のミュージカル界に新しい可能性を求めたかった。いつも同じ人が出るのでは面白くない。リスクがあってもメリット、化学反応にかけたい」
 奇遇にも、ケイさんも城田さんが鑑賞したのと同じキャストの公演を見ており、同様の興奮を味わっていたという。「縁って必ずあると思う。誰かのことを思ってたら、その方から電話があるとか、ね」。ケイさんも今年、デビュー20周年。新たなステップに踏み出す好機だった。「繊細な部分も、力強いパッションも持っている」と、自身と同じく二つの国にルーツがあるケイさんに共感する城田さん。スタッフの中から彼女の名が挙がった時、運命の歯車は回っていたのかもしれない。
 もちろん、城田さんにとっても、過去の出演作とは全く雰囲気や表現が異なる新たなる挑戦となる。「ニューヨークで見た衝撃を超えるものをやらなきゃいけない。お客様がいい意味で期待を裏切られて帰るようなものを作らなきゃいけない」。気合は十分だ。
 ◆ミュージカル「ピピン」日本語版 6月10〜30日 
 ブロードウェイミュージカル「ピピン」日本語版は、6月10日から30日まで、東京・渋谷の東急シアターオーブで上演。共演は、今井清隆、霧矢大夢、宮澤エマ、岡田亮輔、ダブルキャストの中尾ミエ、前田美波里ら。
 演出家、ダイアン・パウルスさんのコメント
 「様々な分野で活躍されている城田優さんやクリスタル・ケイさん率いる日本語版キャストと一緒に舞台を作るのが楽しみでなりません。日本の皆様に、ブロードウェーを代表する作品を体験してもらえることにも喜びを感じています。スティーブン・シュワルツによる素晴らしい楽曲がサーカスやアクロバットと融合し、魔法のようなミュージカルとしてお楽しみいただけます」
 チケット一般発売は3月2日午前10時から。問い合わせは、キョードー東京((電)0570・550・799)。
 
 ◆20周年 「初心に戻り戦う」 秋には主演兼演出 
 恵まれた体格で、活力に満ちあふれた印象のある城田さん。実は、「ネガティブ思考で、常に緊張しているし何かに追われている」と打ち明ける。
 体が弱く、すぐに泣いてしまう子供だった。ぜんそくに悩まされ、深夜に息が苦しくても寝ている家族を起こすわけにはいかず一人耐え忍んだ日々も。「忍耐強さともろさがあいまった性格に育った」
 長期にわたり、板の上に連日立つ舞台人の宿命として、気持ちが落ち込んだ時と本番が重なることもある。「責任感もあるので、どれだけ苦しくても出られませんとは言えない。でも、その状態で舞台に立つことは怖い。そんな思いを、この十何年か繰り返している」
 中でも「非常にストレスであり、恐怖だった」というのが、数々の賞を受賞したミュージカル「エリザベート」のトート役という。同役は、オーストリア皇妃を死に導く黄泉(よみ)の帝王。「誰もがあらがえない死の象徴である役は、圧倒的でなければいけない。つまずいたり、くしゃみしたりしたらアウト。舞台に出た瞬間からグワッと『オレは死だ』という状態で、全ての空間を支配するエネルギーを出さなきゃいけない」。破格のトート像を作り上げた陰には、そんな葛藤があったのだ。
 城田さんにとって役者も「もの作り」の一つ。だが、興味の方向は演出に傾いている。既に、2016年に初演出作を手がけている。「全てに目を配らなくてはならず、仕事は10倍に増えるがメチャクチャ楽しい」
 インタビュー後に発表となった大きなニュースが、今年秋に「ファントム」で演出を務めること。ファンに人気の大作で、しかも初めて出演と兼ねる(主演・加藤和樹さんとダブルキャスト)。
 「芸能生活20年の今年、初心に戻って戦っている。経験を積んだ今、『何でもいいからこの世界で生きたい』と思っていた当時のピュアな気持ちを持って臨んだらどうなるだろう」とほほ笑んだ。 
 
 ◆育三郎さん・松也さんとユニット「IMY(アイマイ)」 「世界へ」照準くっきり
 公私ともに親交の深い山崎育三郎さん、尾上松也さん、そして城田優さんの3人。名前の頭文字と「曖昧」をかけて名付けたユニットが今春、始動する。
 「5年ぐらい温めていた構想で、ほぼ同い年の3人の特技を持ち寄って面白いことをしようというもの。夜な夜なマクドナルドやスターバックスで、あれこれ打ち合わせをしました。4月に行うオーチャードホール公演は、キックオフパーティーみたいなもので、とにかく笑っていただく。目標は、日本発世界。ブロードウェーが面白いと言って、向こうで上演するぐらいのミュージカルを作りたい」
 城田さんが特に苦しんだという2015年の「エリザベート」では、山崎さんと尾上さんは狂言回しのルキーニ役をダブルキャストで演じている。「あのときは2人に救われました。育三郎と松也がいなかったら、僕はミュージカルの世界に、いやこの世にいなかったかもしれない」
 
 ◆来月にトークショー
 ◇トークショー「音故知新 世界に羽ばたけ、ミュージカル界の若手エース 城田優」開催
 音楽評論家の安倍寧さんがホストを務めるシリーズに、城田さんが登場。1972年の「ピピン」初演版も鑑賞している安倍さんとの深いトークが見もの。3月28日午後6時半から東京・大手町の読売新聞ビル3F「新聞教室」で。4320円(税込み)。申し込みは、よみうりカルチャーのサイト(https://www.ync.ne.jp/)から。定員100人、先着順。
 
 ◇しろた・ゆう 1985年12月26日生まれ、東京都出身。身長1メートル90。父は日本人、母はスペイン人。2003年にミュージカル「美少女戦士セーラームーン」で本格的に俳優デビュー。「ROOKIES」「天地人」などドラマや映画、舞台と幅広く活躍。出演するドラマ「私のおじさん〜WATAOJI〜」が放送中。4月24日に国立新美術館で開幕する展覧会「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」では音声ガイドナレーターを務める。

 ◇文・清川仁

読売新聞2019年2月27日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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