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読売新聞│配信日:2019年3月4日│配信テーマ:

[イマ推しっ!]ポセイドン・石川 モノマネを超えた本格派


 シンガー・ソングライター、山下達郎さん風の歌い方のみならず、オシャレで緻密(ちみつ)なアレンジまで模倣して話題沸騰中のポセイドン・石川さん。モノマネ芸の域を超えた実力がうかがえるだけに、そもそもどういう人なのか気になる。メジャーデビューアルバム「ポセイドン・タイム」の発売を機に、本人を直撃した。(清川仁)
 いきものがかりの「ありがとう」、童謡の「あんたがたどこさ」。石川さんが達郎さんをマネる題材に選ぶのは、「ご本人が絶対にカバーしないであろう曲」。とはいえ、ユーチューブの動画再生回数が60万回以上となっているDA PUMP「U.S.A.」などは驚くほど分厚く芳醇(ほうじゅん)なコーラスワークを披露している。「低音から高音までの4声、各パートを4回ずつ歌って重ねています。追いかけるパートもあるので、50トラック以上になりましたね」。微妙に変化する歌声を重ねることによって、重厚で豊かなハーモニーになるというわけだ。
 アルバムに収録したX JAPANの「紅」も、原曲は達郎さんの音楽性にはほど遠いのに、石川さんが巧みに料理することによって、達郎さんの曲のように聞こえてしまうから不思議。「達郎さんの曲はメロディーにも特徴があるが、やはりアレンジが大きい。特に9th(ナインス)のコードを多用していますね」と分析する。
 石川さんの高度な音楽性は、ジャズ・ピアニストとしての経験を積んできたことによる。その一端を示すのが、アルバム収録の「4」。フュージョン風のインストゥルメンタル曲で、超絶技巧をいかんなく発揮している。
 ピアノは、中学生の終わり頃に独学で始めたという。大好きなビートルズやカーペンターズをピアノで再現していくことで耳が鍛えられ、ジャズのメソッドも学んでいった。とはいえ、本当に志していたのは高校から学んでいた美術の道だった。
 大学で日本画を学び、2005年には日展に入選。ところが、06年、通っていたジャズスクールの発表会のトリで、チャーリー・パーカーの名曲にして難曲「ドナ・リー」を披露すると、見に来た絵の恩師が絶賛しつつ、ひとこと。「画壇ではなく音楽の世界で生きた方がいい」。「うれしいような、見放されたような」。画家の夢は諦めた。
 オスカー・ピーターソンに憧れてジャズピアノトリオを組んだこともあったが、次第に弾き語りのネタ曲も織り交ぜるように。その一つが、「ホラージャズ」と称するもの。不協和音すれすれの、おどろおどろしい雰囲気で歌うシュールな作風のせいか、「飛び入りで参加したライブハウスで、数十人いた観客が全員帰ってしまった」。
 そんなありがたくない伝説も築きながら、「尊敬してやまない」という達郎さん風のシティー・ポップを模索していった。原型は2010年頃に遡るという。「当時は歌声まではまねていなかった。最近、ようやくコツがつかめてきた、というぐらい」。神髄は、声まねではなく、アレンジ力にあったのだ。
 アルバムにはほかに、「握手会Generation」などの達郎さん風味のオリジナルの歌も収録。CD購入特典の握手会をテーマにした切なさ漂う詞は、達郎さんは絶対に歌わないけど、サウンドはまさにそのもの。
 「アルバムには8曲中、3曲のオリジナルを入れられたことがうれしい。ポセイドン・石川としての音楽、持ち味を少しずつ出していければ」

読売新聞2019年2月27日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁