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新聞記事

毎日新聞│配信日:2019年3月4日│配信テーマ:

<Interview>柴田淳 12枚目のオリジナルアルバム サウンドに重心、貫き


 シンガー・ソングライターの柴田淳が、12枚目のオリジナルアルバム「ブライニクル」(ビクター)を発表。都市ツアーを開催中である。

 柴田は2002年のアルバム「オールトの雲」以降、カバーやベストも含めると17作という人気者である。が、誰もが知るポピュラリティーを持っているわけではない。いわば通好みのアーティストである。

 アルバムタイトルも「女性の心象風景」や「恋愛意識」などが透けて見える言葉遣いは少なく、今作の「ブライニクル」は、極海の海中に発生するつらら状の凍結。美しいが触れたものを死に至らしめるとされる。どこか示唆的であり、アルバムに、若い女性の心情を代弁するラブソングがずらりと並ぶことは少ない。ある面「変わり種」と言えるだろう。

 「実は、誰もが喜ぶような曲を作りたいんですが」と苦笑しながら「今回は時間をかけて全曲シングルヒットを狙うようなクオリティーを目指して、好きな曲を書いた。テレビの『火サス』のテーマ曲みたいな歌」と、大衆性への意欲をあらわにする。

 シンガー・ソングライターは、作品が内に向かいすぎれば一般聴衆は遠ざかり、大衆を意識し過ぎてもファンが離れるというジレンマに常に向かい合う。柴田は「質の高い大衆性」という新たな音楽性を提案したと言えよう。中島みゆき、松任谷由実らも、1970〜80年代に同様な試みを行ったが、サウンドや言葉の選択、聴衆の受容度など時代の成熟が全く異なると考えていい。

 「ただ、私の声が一番きれいに響く音質は、絶対譲れないところ。まだまだ先に進まなければ」とこだわりを語る。語るべきメッセージより聴くべきサウンドに重心を置く姿勢が柴田を際立たせている。“美しい「火サス」”というテーマは新鮮である。

 27日、東京・NHKホールでコンサート。【川崎浩】

毎日新聞2019年2月26日東京夕刊(2版)掲載 執筆記者:川崎浩