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読売新聞│配信日:2019年2月11日│配信テーマ:Jポップ  

[ALL ABOUT]岡崎体育 笑撃の発想力 席巻中


 ◇Pop Style Vol.634
 鬼才、いや喜才というべきか。3年前のメジャーデビュー以来、音楽界を皮肉る爆笑の歌やミュージックビデオ(MV)で波風を立たせ続けている岡崎体育さん。反面、才能の無駄遣いと称されるクールなサウンドで、6月にはさいたまスーパーアリーナという巨大会場を揺るがしにかかる。その作品が生み出されるのは、京都府にある実家の6畳間というのだから驚きだ。
 ★学習机発「盆地テクノ」 
 「盆地テクノという架空の名前をつけて、京都から音楽を全国に発信するテーマでやってきた。あの環境のまま本当に『さいたま』でワンマンできんのか、という自分の研究テーマでもありますね」。不敵に語る。
 「あの環境」とは、京都府宇治市で幼少時から暮らす実家の自室(6畳間)のこと。小学生の時から使っている学習机の上に置いたパソコンと小さなキーボードから、様々な質の高い楽曲を送り出すのだ。レコーディングのマイクの息よけを、母親のストッキングで代用するなど、売れない時代の涙ぐましい工夫をいまだに引きずっている。
 岡崎さんが2016年、ネット上に公開した「MUSIC VIDEO」という題名のミュージックビデオ(MV)は、MVにありがちな手法をこれでもかと詰め込んだ。誰もが笑ってうなずいてしまう皮肉たっぷりな歌詞に加え、圧倒的にキャッチーな曲、ふくよかな体形で憎めないキャラクター、時に格好良くさえ見えてしまう歌唱力と演技力——。名刺代わりとしては有り余るほどの情報量で、知名度が一気に広まった。
 その後も、独創的な楽曲を次々に繰り出して、底なしの才能を見せつけた。と同時に、その独特な生活環境、制作スタイルも話題を呼んできた。生活能力が極端に低いため宇治市の実家を離れられないとか、多くのヒットを飛ばしているのにスーパーのバイトを先月やめたばかりなどなど、プライベートの話題でも世間を度々ざわつかせる。人生が全てネタのようなアーティストだ。
 でも、庶民的な面や癒やしを与える風貌(ふうぼう)に気を許してはいけない。相当な切れ者の策士であり、野心家なのである。「今のスタイルを続けるのはとりあえず、『さいたま』までです。自宅を離れないで、あの環境はやめないでというファンもいるけれど、それはまた別の話。あそこから一人で、『さいたま』に1万6000人を集めたという称号が欲しいだけなんです」とほくそ笑む。
 ★再生回数100回 
 ロックの聖地と言われる東京・日本武道館。さいたまスーパーアリーナは、その2倍以上の観客を収容するため、ライブを開くのはより高い人気が求められる。無謀とも思える高い目標を掲げたのは、大学生の時。アマチュアらが集う「ニコニコ動画」関連イベントを目の当たりにしたのがきっかけだ。岡崎さんは当時、ボーカロイドの「初音ミク」を使って楽曲を投稿していたが、「再生回数は100回か200回ぐらいだった」。そんな自分の一方、大会場で脚光を浴びる人々を目の当たりにして悔しさが募った。以来、ことあるごとに「さいたま」公演を宣言してきた。大学卒業後、半年間は就職したが、音楽の夢を捨てきれずに、親に相談すると「4年でデビューできなかったら諦めろ」だった。
 「どうやったら評価されるのか、自己分析を徹底的にしましたね」。数多くのバンドが出るライブハウスでは、とにかく目立ってナンボ。楽曲にアイデアを注ぎ込み、自分は徹底的に動いてパフォーマンスをし、一人でも観客を沸かせるスタイルにたどり着いた。4年以内でデビューという約束を果たし、2016年に「BASIN TECHNO」を発売。その時、レコード会社に要請したのは「プロデューサーを付けずに自由にやらせてほしいということだった」。
 我が道を行き、有言実行。よほど屈強な意志を持っているのか。「逆なんです。意志が弱いので、誰かを巻き込んだり、自分を追い込まないとやらない。とにかく言わないと伝わらないから」
 ★ネタ曲封印 夢は「大河」 
 昨年10月、NHKのラジオの生放送でついに、さいたまスーパーアリーナで公演が決まったことを発表。ツイッターには、7万件もの「いいね!」がついた。「5年前にはライブに1人か2人しかいなかった時もあったのに、すごいな」。高揚、充実、不安、責任、疲労——。心の中を巡る様々な感情が去来した。その夜にできたのが、先月出した新作アルバム「SAITAMA」に収録した「龍」という曲。ピアノのシンプルな伴奏で心穏やかになる曲。寂しさも見え隠れする曲は、ここまでの歩みが走馬灯のようによみがえるようにも聞こえる。
 同曲を始めとして、新作はメジャー3作目にして初めて、ネタ曲を一つも入れないという勝負に出た。「自分はネタだけじゃなく、楽曲でもやっていけるのか実験してみたかった」と語る。
 いや、ネタ曲こそ、楽曲のクオリティーの高さと、他の誰もできない独自性を両立させる離れ業だと思うのだが——。「いや、今回は『さいたま』のためにネタ曲を入れないと決めただけで、これからはまたやるかもしれないです」。ちょっと安心。今は持てる力を総動員して、さいたま公演の成功にかける。まずはチケットを完売させ、たった一人で1万6000人を沸かせるのだ。
 その後の音楽家としての目標は? 「もともと、作曲家、裏方になりたかったんですよ。大河ドラマのテーマとかやってみたいですね」。野望はでかい。
  
 ◆爆笑楽曲&MV傑作選 
 ●MUSIC VIDEO (動画再生回数・3470万回超)
 「カメラ目線で歩きながら歌う」「急に横からメンバーでてくる」などバンドがよく使いがちな手法「ミュージックビデオあるある」をまとめた。一躍名を売る契機になった作品。
 ●FRIENDS (同・630万回超)
 手に付けたペンギンの布人形「てっくん」と掛け合いで歌う見事な一人芝居。ほのぼのとしたサウンドで一人の寂しさや友情とは何かを問いかけるが、途中から「利益が4分割になる」バンドに対し、「ザマーミロ」と腹黒さをあらわにして曲調も凶悪に。
 ●感情のピクセル (同・1150万回超)
 攻撃的なラウドロックでいつになく格好良く決めるが、サビになると「どうぶつさんたちだいしゅうごうだわいわい おいでよブタさん」などと、不釣り合いな歌詞で歌い、聴き手を腰砕けにさせる。歌詞と曲調のミスマッチを示して音楽の構成要素を解析する一方、「これしきの楽曲、余裕で作れるぞ」という自己顕示欲も見え隠れする。
 ●Explain
 「ここからサビ」などと、曲の流れをいちいち説明しながら歌う曲。「メジャーで活躍するバンドがやりがちなアイデア」などと、ちょくちょく揶揄(やゆ)が入る。「実は口パクだったことをカミングアウト」と説明する2番になると、ライブではあからさまに水を飲んだりと、暇を持て余すように振る舞う。「いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ絶対」と宣言も。
 ●Voice Of Heart
 タイトルと1番の曲調から、オシャレな愛の歌と思いきや、2番は奇想天外なパフォーマンスパートとなる。2016年に初出演したテレビ朝日系音楽番組「ミュージックステーション」では、歌詞を忘れて焦りまくる表情がクローズアップされ、「やばい、2番の歌詞全然出てこおへん」「おいMステやぞ」という「心の声」が流れた。こちらも最初から口パクだったのだ。
 
 ◆朝ドラ出演「またチョイ役で」 
  放送中のNHK連続テレビ小説「まんぷく」。岡崎さんは、昨年12月、進駐軍の監視役であるチャーリー・タナカを演じた。関西弁なまりの英語を話す役柄だが、実は英語がしゃべれるわけではない。ネット上で公開した「冷蔵庫に貼ってあったメモ書き」を英語風に読むネタと、それを発展させた楽曲「Natural Lips」を聴いたスタッフが、英語が得意と勘違いしてオファーしたという説もある。
 昨年1月には、「ポケモン竜王戦」にゲスト出場。カードゲーム対戦を行った。音楽以外の仕事を受けることについて尋ねると、「チャーリー・タナカ役が、米津(玄師)君に来たら、絶対断るじゃないですか。別に僕が出たところで誰もなんも思わない。何やっても変じゃないこういうキャラなんで、できる仕事はやらせてもらおうかなと思ってます」。もしかして、俳優業、本格進出? 「役者を本業でやるのはしんどいんやろうなと思ったので、ああいうチョロっとした役でいいなら、いつでも出させてください」
  
 ◆そうだ、合唱曲作ろう 
 岡崎さんの音楽性の幅広さを改めて知らしめる結果になったのが、テレビ東京系で放送中のアニメ「ポケットモンスター」のエンディング曲「心のノート」だ。これまで同番組の主題歌やエンディングテーマを歌ってきたが、今回は東京都日野市立七生緑小学校合唱団が歌う清らかな合唱曲だ。
 「全国大会で6年連続全国一に輝いて、以前からすごい好きだったんです。指導者の後藤朋子先生という方がすごい方なので、いつか対談をしてみたいなとも思っていた」と語る。
 同校の合唱を見初めたきっかけはネット上の動画だったそうだが、岡崎さん自身、中学校の時に合唱の指揮者を担当したこともある。
 多彩な音楽性を示すことについて「詳しくないからできるんじゃないですかね。メロディーがあって歌詞があったら、それは僕の中で音楽なので、アレンジは気にしない」
  
 ◇おかざき・たいいく 1989年7月3日生まれ。京都府宇治市在住。同志社大卒業。憧れは電気グルーヴの石野卓球で、「卓球」を超えたくて「体育」という名を付けた。2016年5月にメジャーデビュー。2作目のアルバム「XXL」は、オリコン週間チャートで2位を記録。6月9日に、さいたまスーパーアリーナでワンマンコンサート「BASIN TECHNO」を行う。一般発売は3月30日。
  
 ◇文・清川仁
  
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読売新聞2019年2月 6日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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