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読売新聞│配信日:2018年9月10日│配信テーマ:Jポップ  その他  

[ALL ABOUT]シャリア 気高き女王 慈愛のフラ


 ◇Pop Style Vol.613
 太陽が意地悪なほど照りつけた今年の夏。猛暑はもう勘弁だが、常夏の島からの女神たちなら大歓迎だ。東京・水道橋の東京ドームシティホールで15〜17日に開催される「フェスティバル ナ・ヒヴァヒヴァ・ハワイ2018」。本場のフラと音楽のトップアーティストたちが集うイベントの注目は、フラの女王「ミス・アロハ・フラ」のシャリアさん。彼女とクムフラ(フラの師匠)の話を中心に、フラとイベントの魅力を存分に紹介しよう。
 ◆力強く 柔らか 
 休日を過ごす家族連れでにぎわう、ハワイ・オアフ島のとあるビーチ。写真撮影用に、シャリアさんに踊ってほしいと頼んでみた。すると、クムフラのナプア・グレッグさんがラブソング「ナニ・ワレ・クウ・イケ」を歌い出した。美しい歌唱に引き寄せられるように、シャリアさんはゆったりと踊り始めた。
 先ほどまで緊張気味で、やや曇っていた表情が一変した。シャリアさんは、実に生き生きとした笑顔を見せながら、体全体を指先に至るまでしなやかに躍動させるのだ。腰の芯にしっかりと重心が乗り、力強さと柔らかさが両立する波打つような動き。彼女の周囲の空気が、たちまち愛の濃密なオーラに包まれていくような錯覚を覚えた。
 ビーチの雑音も気にすることなく、撮影用のデモンストレーションとは思えない女王の舞を披露してくれた、シャリアさん。「どんな時もどんな状況でも、その曲を表現すること。クムにそう教えられてきました」。慈愛に満ちたクムの歌声だから、なおさら気持ちがこもるのだろう。「その通りよ」
 ◆天性のリズム 
 ハワイ島のヒロで、毎年4月に開催される最高峰のフラの競技会「メリー・モナーク・フェスティバル」。今年はナプアさん率いるマウイ島のハーラウ(教室)、「ハーラウ・ナー・レイ・カウマカ・オ・ウカ」の独壇場だった。シャリアさんが18〜25歳の女性ソロ部門で優勝し、「ミス・アロハ・フラ」の称号を手にし、ワヒネ(女性)の団体も総合優勝を果たした。おまけに、ナプアさんはソロ歌手として出したCDなどが、ハワイのグラミー賞と称される音楽賞「ナ・ホク・ハノハノ・アワーズ」で9部門にノミネートされる大活躍。5月に行われた授賞式では、弟子たちの踊りをバックに歌唱を披露し、喝采を浴びた。
 同ハーラウは、2013年にもマナラニ・イングリッシュさんというミス・アロハ・フラを出した名門。シャリアさんは4歳で入門して以来、一貫してクム・ナプアの指導を受けてきた。「小さい頃から、全身のコントロールが巧みで、天性のリズム感、動きのタイミングをつかむセンスを持っていた」と、称賛するクム。「フラは幼い頃から大好き。いつしか私の青春になり、ライフスタイルになりました」。シャリアさんは、フラとの貴重な出会いに思いをはせ、ほほ笑む。「クムは当時も今も変わらず、ずっと怖い存在ですけどね」
 彼女に転機が訪れたのは、3年前のメリー・モナーク。大会を終えた夜、ビーフシチューで打ち上げのテーブルを囲んだ後、クムが向こう3年間の方針を明確に打ち出したのだ。「2018年の『ミス・アロハ・フラ』には、シャリアに挑戦してもらいます」。シャリアさんの双肩に大きな責任がのしかかったのは言うまでもない。
 さらに、シャリアさんはこの大会で、フラが抱える精神性の重みを痛感した。彼女たちの演目は、ハワイ島の聖地、マウナケア山の天体望遠鏡建設計画に対して、反対の意思を表明するものだったからだ。クムは弟子たちにそうした演目を踊らせた理由について、「フラは、競技でもパフォーマンスでもない。政治や文化、宗教に対する私たちの思いを具現化するもの」と断言した。
 ◆文化受け継ぐ 
 シャリアさんも今年のメリー・モナークについて、「競争ではなく、フラの文化を受け継いでいくという気持ちで臨みました」と語る。競技はカヒコ(古典フラ)とアウアナ(現代フラ)の2部門だが、カヒコの演目は王妃カピオラニのマウイ島の旅を描くものだった。「ハワイの歴史で重要な立場だったカピオラニをたたえることができるのは誇らしい」とシャリアさん。カピオラニは英語も堪能だったが、公式な場所ではハワイ語の使用を貫く意志を持った強い女王だったという。ダンスは、フラの中でも技術を要する座り姿勢中心のもの。カラアウという木の棒をさばき、得意のチャント(詠唱)を交えながら、動きが制限される中で驚くべき表現力を見せた。
 アウアナもカイウラニという王女の物語。同時にこの曲は、クム・ナプアが26年前に「ミス・アロハ・フラ」に挑んだ時のもので、クムのフラ人生の全てを受け継ぐ特別な踊りとなった。
 シャリアさんは「ナ・ヒヴァヒヴァ」への出演について、ほほ笑みながら意欲を語る。「私のフラを日本の皆さんと分かち合えるのがうれしい。皆さんを歌の世界にいざないながら、カピオラニとカイウラニの人生を伝えたいです。本当のハワイをもっと知っていただき、ハワイの文化と奥深くつながっていただければうれしいです」
 
 ◆各島から踊り手 
 今年の「ナ・ヒヴァヒヴァ」には、ハワイの中心部、オアフ島だけでなく、マウイ島やカウアイ島のハーラウも参加する。
 特に、「ハーラウ・カ・レイ・モキハナ・オ・レイナーアラ」は、カウアイ島から初の出演。フラの神殿がある同島は、空港にフラの写真パネルや楽器が展示されるなど、フラへの敬意が強い。同ハーラウはメリー・モナークでワヒネ2位。出場に際し、フラのメレ(詩)に詠まれた場所を3日間かけて巡って詩の世界を体感した。カヒコで使用する打楽器イプ・ヘケはそれぞれ手作りし、ペットのように大切に扱っている。
 カネ(男性)で1位に輝いたハーラウ「カ・レオ・オ・ラカ・イ・カ・ヒキナ・オ・カ・ラー」(オアフ島)は、カヒコ、アウアナともにハワイ人の航海術をたたえる曲を力強く披露する。率いるカレオ・トリニダッドさんは、20代でクムフラになった俊英で、以来華々しい成績を収めてきた。「メリー・モナークでの結果よりも、できるだけ多くのハワイアンを教えることが自分の望み。日本の人にもハワイ人の誇りを伝えたい」と目を輝かせた。
 カネ2位の「ハーラウ・ケクアオカラーアウアライリアヒ」(マウイ島)のクムフラ、イリアヒさんは、少年犯罪に取り組む検事が本業という変わり種。ハーラウにも10代が多く、公私ともに若者に道を説く。
 
 ◇「フェスティバル ナ・ヒヴァヒヴァ・ハワイ」
 メリー・モナークのミス・アロハ・フラと、男女団体3位までのハーラウ総勢約170人が来日する。「ナ・ホク・ハノハノ・アワーズ」からは、男女の最優秀ボーカリスト賞に輝いたアーティストが出演する。男性は、クムフラとしても知られるカマカ・クコナさん。女性はポップス歌手のキミエ・マイナーさん。
 東京・水道橋の東京ドームシティホールで15〜17日に昼夜公演。出演者や演目は公演ごとに異なる。問い合わせは、読売新聞文化事業部(03・3216・8500、平日午前11時〜午後6時)へ。公式サイトはhttp://nahiwa.com
 
 ◆おすすめスポット
 シャリアさんが、マウイで一番お気に入りのレストランを教えてくれた。2012年にオープンした「Kula Bistro(クラ・ビストロ)」は、本格的なイタリアンをリーズナブルな価格で提供する店。家族連れを中心ににぎわう。農家が多い地区で、新鮮な野菜のサラダやピザ、パスタなどが自慢。シャリアさんは特製ソースのシーフードのパスタが大好きという。
 記者が見つけたのは、フラの道具がズラリと並ぶ「J&L TRADING HOUSE」。ワイキキのようなしゃれた雰囲気とは無縁の倉庫を活用した店舗だが、多彩で格安のレイや楽器がズラリと並んでいた。
 この店は、夫妻が約15年前から経営。イプという打楽器をひょうたんから作る製造元であり、問屋でもあり、この店で小売りも行っている。カリフォルニアから取り寄せたひょうたんでイプを手作りするのはご主人。奥さんはレイなどのデザインを手掛ける。ワイキキから車で10分ほどの距離にあるが、わざわざ足を運んでみて損はない。 
 
 ◇シャリア 1996年5月30日生まれ、ハワイ・マウイ島出身。本名は、シャリア・カプアウイオナーラニ・キクヨ・カマカオカラニ。曽祖母が日本人。いとこが通っていたことを理由にハーラウを選び、「ケイキフラ(子供のフラ)」でも優秀な成績を収めてきた。現在はハワイ大学マノア校の学生で、卒業後は大学院へ進み、将来は教師を目指している。ハワイの大地を愛し、タロ芋畑の手入れに精を出す。
 
 
 ◇文・清川仁

読売新聞2018年9月 5日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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