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毎日新聞│配信日:2018年9月10日│配信テーマ:クラシック  

<Topics>バイロイト音楽祭 絶賛を浴びるティーレマン 行きすぎた「読み直し」揺り戻す


 作曲家、リヒャルト・ワーグナーの意図を開示する音楽祭として、ワーグナーの楽劇(オペラ)だけを上演するドイツ伝統の「バイロイト音楽祭」。毎夏、ひとつの演目が装いを変え、その新演出が大きな注目を浴びる。バイロイトでの新演出が世界のオペラに「読み直し」の方向性を与えてきたからだ。

 「読み直し」とは、社会学、心理学、哲学、美学、時代のモードなど、現代の先端のさまざまな視点から作品をとらえ直すもの。それによって過去の作品も、「今」の問題として活性化される。バイロイトはその過激なまでの拠点である。

 しかし今夏の音楽祭(7月25日〜8月29日)は珍しく演出より音楽(演奏)に話題が集まった。今回のプレミエ作品は《ローエングリン》。シャロンによる新演出は、救う者としてのローエングリンと救われる者としてのエルザの価値観を逆転させるなど(8月18日付本紙朝刊「新・コンサートを読む」参照)、「読み直し」に満ちていたのだが、青を基調にした舞台が見た目におとなしかったせいもあり、多くの聴衆には「落ち着いた」印象を与えたようだ。バイロイトの付き物になっている公演後のブーイングも、珍しく少なかった。なにしろ前回までの《ローエングリン》は、登場人物がネズミとして舞台上を駆け回るなど超過激な演出だったのだ。今回は、行きすぎた「読み直し」の揺り戻しととらえることもできる。

 また、ティーレマンの指揮が、誰もが絶賛する素晴らしい出来であったことも、音楽優先の受け取られ方をした一つの理由であろう。ティーレマンはオーケストラの各声部、楽器の色を繊細に分けた上で、旋律を息長く溶け合わせながらワーグナーのやわらかな美を浮かび上がらせた。

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 歌手陣も久しぶりにバイロイトに登場したマイヤー(オルトルート役)が風格の存在感を発揮したのをはじめ、甘い声で題名役・ローエングリンを演じた新進テノールのベチャラ、悲しみを含んだ響きでエルザの魅力を倍加させたソプラノのハルテロス、国王役のツェッペンフェルトの堂々たる威厳に満ちた声などが、カーテンコールで絶賛のブラボーを浴びていた。

 演出に関して、「三月革命前のような素晴らしい出来」(ヴェルト新聞)、「ワーグナー自らが演出したよう」(オンライン新聞)、一方「ワーグナー知らず」(ベルリン新聞)、「美と無軌道の混交」(フランクフルト・アルゲマイネ新聞)と激しい賛否両論が巻き起こった批評も、ティーレマンの指揮に関しては各紙、絶賛を重ねていた。

 もうひとつ音楽的に話題になったのが、テノールとして一世を風靡(ふうび)したドミンゴが指揮者としてバイロイトに登場、《ワルキューレ》を指揮したことだ。歌手だけあって、オーケストラを抑えて歌を際立たせ、歌の旋律を浮き彫りにしたが、ワーグナーの緻密、重厚な管弦楽にはやはり経験が足りず、平面的な演奏になりがちで、カーテンコールではブーイングも出ていた。【梅津時比古】

毎日新聞2018年9月 3日東京夕刊(2版)掲載 執筆記者:梅津時比古

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