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読売新聞│配信日:2018年8月27日│配信テーマ:その他  

[ALL ABOUT]ナイツ・テイル 両雄の冒険心 劇とリンク


◇Pop Style Vol.610
 演劇の殿堂・帝国劇場(東京・有楽町)で公演中のミュージカル「ナイツ・テイル—騎士物語—」。堂本光一さん、井上芳雄さんという同世代のトップスターが共演を望んで実現した夢の舞台は、一体どういうものなのか。主要キャストのインタビューと公演レビューを通して、冒険心にあふれた舞台の魅力を明らかにしよう。
 ◆最小限のセット「人の力」前面 
  シェークスピア原作となる騎士物語をスター同士が初めて同じ舞台で演じる。となれば、2人が存分に輝く破格のミュージカルになると期待するだろう。だが、舞台は装飾をそぎ落とし、人の力で心を動かそうとする挑戦的な試みだった。
 いとこ同士の騎士、アーサイト(堂本光一さん)とパラモン(井上芳雄さん)。序盤から華麗に並び立つも、間もなく戦いに敗れ、地をはいつくばる。獄舎から見た敵国の姫君に同時に一目ぼれすると、長年の友情はどこへやら。早口のセリフで単純さや幼稚さをむき出しにし、滑稽なまでにいがみ合う。
 セットは、帝国劇場としては異例なほど簡素。蜘蛛(くも)の巣のような扇形の枠組みが舞台を囲み、そこに、テーブル、ベッド、花といった小道具が加わるだけ。だが、役者の表現力や照明の妙で、血が噴き出す戦場にも、静かな森にもなる。
 この最小限のしつらえは、光一さん自身の希望。彼が18年間続けている「SHOCK」シリーズは、フライング、階段落ち、和太鼓演奏と、多様なエンターテインメント要素を盛り込んだ舞台で、彼の万能ぶりが強調される。だが、他の作品も演じてみたいという10年越しの願いを実現させるにあたり、光一さんは純然たる演劇らしさを求めた。
 アイドルの枠を超える挑戦だが、光一さんは堂々たるミュージカル俳優ぶりを見せつけた。芳雄さんとの歌のハーモニーの相性は予想外の収穫。ユニゾンでは埋もれてしまう感もあったが、貪欲に吸収しているのだろう、公演が進むにつれ声量は確実に増している。
 経験豊富な役者陣は風格ある演技を披露。上白石萌音さんは初々しくも情感豊かに歌い上げ、役柄とピッタリ重なった。音楽は技巧的かつ一度聴いただけで心躍らせる。和楽器の生かし方や歌詞の押韻も巧み。同じ曲が場面によって友情や敵対、悲嘆や愛情と色を変える。
 悲劇をハッピーエンドに改変した筋書きは、物語の展開としてはややご都合主義的にも映る。だが、根強く残る日本の男性社会に対するジョン・ケアードさん流の問題提起であり、プライドや旧弊から自由になれば、誰もが平和に手と手を取り合えるという示唆に富む。
 それに気付いた時、舞台には大団円を迎えた役者たちの実に幸せな笑顔があった。交わるはずのなかったトップ同士が友情を育み、様々な壁を越えて実現させたこの舞台が既に奇跡。その意味では、「ショウ・マスト・ゴー・オン」精神で公演を続ける「SHOCK」と似ている。作品が現実の役者の行動や思いを体現しているが故に、感動が深まるのだ。「ナイツ・テイル」は両雄のための作品のようでいて、全キャストが輝く。ミュージカルを愛する2人の意をくんで、ジョンさんがかけた魔法。大きなぬくもりに包まれた感覚が、終演後もずっと続いた。
 ◆第一線に飛び込め幸せ 堂本光一さん 空気感が心地いい 井上芳雄さん
 ——新作舞台の感触は?
 光一 ミュージカル界の第一線で走っている人たちの中に飛び込むことができて、毎日が幸せ。不安なところも実はあったんですが、喜劇だけど涙が溢(あふ)れてくる、愛情溢れる人間讃歌(さんか)だという感想をいただいて、ジョンが描いていたことに本番で気付かされています。
 ——しかも、飛び込んだのが装飾を極力排した舞台。
 光一 それが目的でもあり、演劇的だという感想もいただいた。稽古場での一番最後の稽古で、出演者が輪になって座って、セリフと歌だけで周りの仲間たちに物語を伝えるということをやった。驚いたが、お客さんにセリフや歌の一言一言をしっかりと伝えていくという稽古だったと思う。
 芳雄 自由にやっていいと言うから、僕、ふざけちゃって。人の歌のところを歌っちゃったり、つっこみ入れちゃったりしたら、ジョンが初めて怒った。「真剣にやってくれ!」
 光一 ハハハ。でも、あれでみんなノリ始めた。仲間たちに360度見られて、縮こまっちゃうからね。
 ——稽古場で動じないという2人の態度に大きな評判が。
 光一 そんなことない。ずっとぶつくさ言ってます(笑)。芳雄君はどういう状況でも、とりあえずやってみようと表現で示すからすごい。
 芳雄 確認するのが照れくさいだけ。内心、はあ?って思っているんだよ。でも、みんなぶつくさ言いながらも、この作品をなんとかお客さんに楽しんでもらえるものにしようというベクトルは一緒だったと思う。
 ——舞台上での2人の相性が抜群にいい。
 光一 迷惑をかけちゃいけない気持ちもあるけれど、それ以上に芳雄君がすごく懐を開けてくれている感覚があるから、この人と楽しもうとか、一緒にやれば大丈夫だと思える。
 芳雄 そう言ってもらって本当にうれしい。一緒にやっていて違和感がなく、空気感が心地いい。
 ——終盤は女性陣の愛が輝き、みんなに光が当たる舞台に。
 光一 主役だろうが物語の一つのピース。自分の役をしっかり生きていれば、全員が立ってくる場面が生まれるのもジョンの手腕なのかもしれない。2人ってどうしても比べられるけれど、この作品に関してはその必要性もない。
 芳雄 光一君はいくらでも威張ることができる立場だけど、そのつもりは全くないし、すごく引いているわけでもなく、絶妙なバランスで真ん中にいる。僕もそうありたいなと思う。
 ——作品に込めたジョンさんのメッセージの印象は。
 芳雄 愚かで自分でも気付かないような男のこだわりが、他者の愛の力によって気付かされる。「見えなかった」という歌詞は、ジョンの別の作品でも出てくる。
 光一 ある意味、アーサイトとパラモンはすごく人間らしい。ジョンは「ナイツ・テイル」の5人目の作家として、最後まで書き上げたと僕は思っている。
 
 ◆主要キャストのコメント 
 ◇2人の騎士に愛される大公の妹 エミーリア役 音月桂さん
 「光一さん、芳雄さんを信頼して同じ方向に進んでいるカンパニー。一員として舞台に立てる喜びをかみしめています。ポール・ゴードンが作る歌は耳に残り、自分以外の曲もつい口をついてしまう。ダンスでは、光一さんの提案で互いの体を反らして行うリフトがあり、宝塚の男役で持ち上げる立場だった者として、鍛え上げた筋力はさすがだなあと感心。でも呼吸が合えば、無重力を感じるような力のいらないリフトなんです」
 ◇パラモンを愛し、脱獄を手引き 牢番の娘役 上白石萌音(もね)さん
 「私は小さい時からミュージカルが一番好き。ずっと憧れてきた方々と一緒に同じ板を踏めるのが夢のようで、素晴らしい曲を世界で最初に役として歌う喜びも感じています。笑っていないことの方が多い役ですが、その時間でさえも幸せです。出来ないことに日々焦りを感じていますが、『帝劇には演劇の神様がいるから守ってくれるよ』と、芳雄さんがおっしゃった言葉にあやかり、心が折れそうになっても頑張ろうと思います」
 ◇2人の騎士を捕虜にするアテネの大公 シーシアス役 岸祐二さん
 「光一君から『日本のミュージカル作品や役者のすごさを色々な人に知らせたい』という信念を聞かされ、感動しました。彼のこの舞台に対する並々ならぬ思いを大切にして、最後まで演じていきたい。シーシアスは2人の騎士を倒す敵ですが、戦争をなくすためにどうすべきかと常に悩んでいる。妹の話を聞き入れたり、ヒポリタという存在が国の平和のために必要であると判断したり、広い考えを持った人でもあるんです」
 ◇森の楽団を率いるダンス指導者 ジェロルド役 大澄賢也さん
 「光一君と芳雄君は初共演で個性も違うのに、ギラギラしたライバル心もなく、舞台上でとても自然にフィットしている。その姿に感動すら覚えます。僕の役柄は平和と自然を愛する踊り手ですが、田舎くささや道化的なテイストも出しています。ステップを踏み踊るという意味だけでなく、役者の動きによってシーンに変化をもたらすことを含めたダンスミュージカル。全ての動きを直接指示するジョンの姿勢を尊敬します」
 ◇シーシアスに敗れたアマゾンの女王 ヒポリタ役 島田歌穂さん 
 「新作ミュージカルで初演というのは相当な覚悟が必要で、海外のチームがとても早い時期から演出、振り付け、衣装、美術、音楽の制作に取り組んできた。それを作っては壊す稽古場が少しピリピリした空気になっても、光一さんと芳雄さんは動じずにいてくれる。こんな穏やかな現場ってない。ジョンは試行錯誤しながら、役者から生まれるアイデアを大事にしてくれた。みんなで一緒に作ったという感覚が大きかったですね」
 
 正式タイトルは「ナイツ・テイル—騎士物語—」。原作は、シェークスピアとジョン・フレッチャーの共作「二人の貴公子」および、同作の原案となったボッカチオ「Teseida」とチョーサー「騎士の物語」。脚本・演出、ジョン・ケアードによる世界初演作。音楽・歌詞にポール・ゴードン、振り付けにデヴィッド・パーソンズと世界的なスタッフが結集。日本語脚本・訳詞は今井麻緒子。29日まで帝国劇場(当日券のみ)。9月18日〜10月15日、大阪・梅田芸術劇場。

 
 ◇文・清川仁

読売新聞2018年8月15日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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