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読売新聞│配信日:2018年6月4日│配信テーマ:Jポップ  

[評]椎名林檎 公演 異才 神々しく深化


 ファンがライブに求めるものとは何だろう。超一流の歌、演奏。ヒット曲を生で聴くこと。手を振り、踊って、お祭り気分。これらの欲求を全て満たすかのようなライブだった。
 この日は昨年のセルフカバー作「逆輸入〜航空局〜」の曲を中心に、デビュー直後から最近の曲まで、バランスよく選曲。鋭い歌声を極端なほどのノイズで覆う「弁解ドビュッシー」。ジャズ風の曲調で、英語、日本語まじりに歌い上げる「丸ノ内サディスティック」。「NIPPON」でギターをかき鳴らす立ち姿は、神々しくすら見えた。
 彼女の歌は時に優しく、時に狂気を帯びる。めまぐるしく変わる衣装。時にひざをつき、舞台に倒れる。色っぽいしぐさ。むき出しにした感情さえも計算されているかのようで、パフォーマンスの自在さは、役者という言葉がしっくりくる。
 背景に映し出される映像も凝っていた。テレビのノイズが折り重なるような、無機質なコラージュ。赤い球がリズムに合わせ、ステージの左右を行ったり来たり。演者と一体になり、映画のように見えた。
 最後は、柴咲コウに提供した「野性の同盟」を自演。激しい終奏が鳴り響く中、椎名は舞台後方に消えてゆく。背景に映る、手を振る彼女のシルエットは、映像か、幻か。やがて激しい照明の点滅と煙幕が舞台を覆う。鳴り続ける轟音(ごうおん)。しかし煙幕が霧消すると、舞台上には誰もおらず、音だけが残されていた。
 5月27日、デビューシングル「幸福論」の発売から20年がたった。拡声機で叫ぶパフォーマンスで世に出た異才は、今や総合エンターテイナーとも言える存在に。才能の深化を見せつけるステージだった。(鶴田裕介)
 ——16日、渋谷・NHKホール。

読売新聞2018年5月31日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:鶴田裕介

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