[ 画像 ] 今週の音楽記事から 音楽ジャーナリストの眼 毎週月曜更新

新聞記事

読売新聞│配信日:2018年5月14日│配信テーマ:その他  

[ALL ABOUT]ノーム・ルイス with 柿澤勇人


 ◇Pop Style Vol.595
 ◆続けろ イエスと言われるまで 
 ミュージカルの本場、米ニューヨークのブロードウェーで活躍するノーム・ルイスさん。4月に初のソロ公演のため来日し、包容力ある歌声だけでなく、気さくな人柄でも観客を魅了した。見逃した方、ご安心を。早くも6月にコンサート「ミュージカル・ミーツ・シンフォニー2018」で再来日するのだ。今回、共演する柿澤勇人さんとの対談は、初対面とは思えない打ち解けた雰囲気で進んだ。
 
 ノーム(以下・ノ) 君はハンサムでスマートだし、何かがビリビリと伝わってくる。早く歌声を聴きたいよ。
 柿澤(以下・柿) サンキュー。憧れの人がこんなに近くに! おちゃめでチャーミングですね。歌は小さい頃から?
 ノ 教会で歌っていたね。高校生でミュージカルに興味を持ったけど、大学では経済を学び、卒業後は新聞社で広告の仕事を5年間した。でも、バーで歌ったりコンテストに出たり音楽は続け、そのうち、クルーズ船で歌うことになり、その関係者にニューヨークに行くことを勧められたんだ。
 柿 僕はサッカー一筋だった高校生の時、劇団四季の「ライオンキング」を見て、初めての衝撃を受けたんです。
 ノ 私も9歳から18歳までテニスをやっていたよ。一時はプロを目指した。
 柿 僕もです。200人もいる強豪チームにいて、競争が激しくて。当時の努力は、今の活動の下地になっています。
 ノ スポーツで心身を鍛錬することは大切。演劇もチームプレーで互いに上を目指して支え合う点は同じだ。
 柿 スタッフさんや共演者と長期間の稽古をするのは、パスを回してゴールへ向かっていくみたい。舞台上で足を切ってしまい、降板した経験がある。だから、みんなで公演期間の最後までたどり着けて、お客さまからいい反応をもらえた時が何よりうれしい。
 ノ 私も「ミス・サイゴン」で、共演者の後頭部が鼻を強打し、流血、骨折したことがある。代役が入って病院に行くほどだったけど、そのシーンは何とか歌い切った。「ショー・マスト・ゴー・オン」だからね。
 ■恐れることなく前進
 ノ 自分はプロ活動を始めたのは26、27歳と遅かったけど、それが足かせになったとは思わない。前進あるのみ。恐れることなく、どんなオーディションにも臨んだ。金髪の人を求められてもね。無知だからできた。でも、若い役者によく言うんだ。「他人にノーと言われても、自分でノーとは言うな。イエスと言われるまで続けろ」とね。
 柿 勇気づけられます。自分が四季に入所した時は、周りはバレエなどのコンクール優勝経験者だらけ。がむしゃらにやるしかない自分は、ある意味怖いものなしでした。早い時期に初舞台や主演を経験させてもらったのは貴重でしたが、勉強不足も痛感していました。まだ、役者って何なんだろうと思っていた時期。心が追いつかなかったこともあり、劇団をやめました。
 ノ 若くして良い経験と教訓を得たね。その後、また芝居を続けていったことが素晴らしい。拍手を送ります。
 柿 劇団をやめた後、初めてブロードウェーに行きました。エキサイティングで、ビザが切れるまでの滞在を繰り返した。3年前、蜷川幸雄さんの芝居で初のニューヨーク公演を経験した時は、一つの夢がかなった思いでした。お客さんは一瞬一瞬を食い入るように見てくれました。
 ノ ブロードウェーの観客は厳しく、好みに合わないと途中退席する人もいる。自信と恐怖心を持って舞台に上がっているよ。
 ■アフリカ系米国人初
 柿 ノームさんが演じるファントム(「オペラ座の怪人」)は本当に素晴らしい。劇場を突き抜けるようなパワフルな歌声の一方、クリスティーヌに芝居で語りかける時の包まれるような声の魅力は、人柄の温かさがあってこそ。お会いして分かった気がする。
 ノ お金をあげなきゃね(と、ポケットをまさぐる)。(作曲者の)アンドリュー・ロイド・ウェバーは大好きで、ファントム役は20年間切望していた。音域や技術的な難しさ以上に、お客さんの特別な期待感が精神的、肉体的、声の面でもプレッシャーだ。私はアフリカ系米国人としてブロードウェー初のファントム役となったが、実はマイケル・ジャクソンがやりたがっていたというから危なかった(笑)。ロイド・ウェバーから聞いた実話だよ。
 柿 すごい。ロイド・ウェバーは僕も大好き。「ジーザス・クライスト=スーパースター」が初舞台の思い出と重なって勇気をもらえます。一方、スティーブン・ソンドハイム作品では「スウィーニー・トッド」などを演じさせてもらっていますが、拍子が変わるし、コードもいきなり変わるし難しい。アアアーっとなりながら何回も何回も練習した。でも、クセになる。
 ノ この音、合っているのかなと思うこともあるけど、オーケストラと合わせるとしっくりくるんだよね。ソンドハイムは芸術家肌。ロイド・ウェバーは、お客さんが劇場を出て鼻歌を歌ってしまう親しみやすさが魅力だね。
 ■デュエット楽しみ
 柿 「ミュージカル・ミーツ・シンフォニー」では、ノームさんと「シティ・オブ・エンジェルズ」の曲をデュエットするのが楽しみ。僕は秋に、このミュージカルで山田孝之くんと歌うはずなんですけどね。
 ノ コンサートでは男性デュエットの定番。演技の場面もあり楽しめるよ。
 柿 コンサートでオーケストラをバックに歌うことはほぼ経験がない。ミュージカルで歌う時とは違いますか。
 ノ コンサートでも役を演じるように歌う。お客さんとつながる瞬間もある。共演するジョン・オーウェン・ジョーンズは長年の親友。とても美しい声の持ち主です。
 柿 ノームさん、ジョンさんの歌を日本で聞けるのは本当に貴重な機会。僕も一緒に出ていながら泣いてしまうかも。
 ノ そんなこと言って。笑っちゃうよ!
 
 ◆舞台の必需品は? 
 ノーム 物はないね、自分の精神だね。楽屋では必ず瞑想(めいそう)をする。呼吸を整えて、自分の体の芯を一本につなげるんだ。それがちゃんと出来ていないと、ステージに出るのが怖い。
 柿澤 のれんを楽屋にかけています。代々、継いできている家の家紋付き。(清元の人間国宝だった)じいちゃん、ひいじいちゃんに、ケガをしてからお祈りするようになった。子供の頃は継ぐ気は全くなかったけれど、ルーツが大事だと今は思いますね。
 
 ◇ノーム・ルイス 1963年6月2日生まれ。米フロリダ州出身。新聞社勤務を経て、93年にブロードウェーデビュー。アフリカ系米国人として初めて、ブロードウェーの「オペラ座の怪人」でファントム(主人公)を務めたことで知られる。「ポーギーとベス」のポーギー役で、トニー賞にノミネート。代表作は「レ・ミゼラブル」のジャベール、「シカゴ」のビリー、「リトルマーメイド」のトリトン王など。
 
 ◇かきざわ・はやと 1987年10月12日生まれ、神奈川県出身。劇団四季研究所に2007年に入所し、「ライオンキング」「春のめざめ」などで主演を務めた。09年の退団後は舞台や映像作品で活躍。現在はミュージカル「メリー・ポピンズ」に出演中。9月には「シティ・オブ・エンジェルズ」の出演が決まっている。曽祖父は清元節太夫の人間国宝、清元志寿太夫、祖父も清元節三味線奏者の人間国宝、清元栄三郎。
 
 ◇「ミュージカル・ミーツ・シンフォニー2018」
 6月7、8日に、東京・渋谷のオーチャードホール、9日に大阪・中之島のフェスティバルホールで開催される。出演はノームさん、柿澤さん、ジョンさん、春野寿美礼さん、宮澤エマさんの5人。詳細は公式サイトへ。問い合わせは読売新聞東京本社文化事業部(03・3216・8500)。
 
 ◇文・清川仁

読売新聞2018年5月 2日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

その他   のテーマを含む関連記事