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読売新聞│配信日:2018年5月14日│配信テーマ:その他  

[レビュー]坂東玉三郎公演 越路吹雪への敬意 随所に


 ◇4月12日、東京・NHKホール 
 舞台最上段に現れた彼は、息をのむような美しさだった。気品ある立ち姿、きらびやかな衣装。登場一つで、破格の夢舞台を期待させる坂東玉三郎は、実に類いまれな表現者だ。
 歌舞伎界の至宝はこの1年、三十七回忌追悼公演出演やカバーアルバム発売など、10代後半から敬慕する越路吹雪の歌と向き合ってきた。「越路吹雪を歌う『愛の讃歌』」と題されたコンサートはその集大成。先人への敬意と、自らのプライドをかけて臨んだことが随所にうかがえた。
 真琴つばさを始めとする宝塚歌劇団元トップスターの共演者がそろってまとうのは、彼が伊フィレンツェで発注した生地から仕立てたドレス。高級ジュエリーのブルガリからも自らの縁で提供を受けた。このこだわりは、彼が越路のリサイタルを見て、衣装の重要性を学んだことが背景にある。
 もちろん皆、歌唱にしろ風格にしろ存在感は抜群。それぞれのソロ歌唱だけでも華やかで聴き応え十分なのに、ミュージカルやシャンソンのメドレーでは重唱も楽しませた。共演者が歌う背後で、笑顔で体を揺らす玉三郎の姿もほほ笑ましかった。玉三郎のソロでは、優雅に空気を揺らすような「私の心はヴァイオリン」が絶品。思いのままのテンポで歌う彼に、ピッタリ寄り添うバンドの対応力も素晴らしかった。
 終盤、「愛の讃歌」を歌い終えた玉三郎は、大きな荷物を下ろしたような表情に。まとっていたオーラが消え、越路に憧れる一ファンに戻っていたように見えた。終演後、その印象を伝えると「そうかもしれないね。自分の全てを出しきらないと出来ない公演だったから」と話してくれた。(文化部 清川仁)

読売新聞2018年5月 2日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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