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毎日新聞│配信日:2018年5月14日│配信テーマ:その他  

<POPSこぼれっ話>ラジカセ復活とスピーカーイス


 流行の最先端を走るファッション業界やその関係者が集まる場所で、アナログプレーヤー、真空管アンプ、巨大スピーカーをそろえて、音楽を流す場面を数多く見かけるようになってきた。ジャズ喫茶ではなく、セレクトショップや普通のバーなどで、である。“いい音が、いい時間や空間を生み、新たな発想の創造につながる”のだとか。そんな店では、そのシステムに合った1960、70年代のジャズやロック、80年代の歌謡曲やニューミュージックが流される。エッジのきいた先端の人々の音楽嗜好(しこう)が、緩い、古めのジャンルに向かっているのが分かる。

 そんな状況の中でも、「カセットテープ」がかかるポータブル「ラジカセ」の新製品(TY−AK1)が東芝から発売されたのは驚いた。ミュージックカセットの専門店「ワルツ」が東京・中目黒に誕生したのは2015年夏。中年のマニアだけでなく、「個性的な音質」で若者にファン層を広げていたが、3年がかりでメーカーまで動かした形だ。ただ、そこは現代。カセット音源をUSBメモリーやSDカードにダビングできたりする。アナログ志向でもデジタル対応は欠かすわけにいかないのである。

 では、デジタル方向の動きはどうか。最近では「配信で音楽を買う」こと自体も古くなったらしい。CD音質のストリーミング(ダウンロードしながら再生を行う仕組み)配信が定額聴き放題で誕生し、もはやデジタル音楽環境は“垂れ流し”状態になってきたのである。

 残るはビジュアルとの融合である。ここに驚きの新製品が登場した。まるでSF映画に出てきそうなイス全体がスピーカーのオーディオハート社「VRS−1」。卵形のシェルの内側に14個のスピーカーが埋め込まれ、高級AVアンプなどで究極のサラウンド音場が生まれる。4KテレビやVR(仮想現実)ゲームと組み合わせれば驚異の体験ができるらしい。本体直径が約1メートルあり部屋に入るか、値段98万円が払えるかが最初の難関。このイスに座ってカセットを聴くのもかっこいいかも。(川崎浩・専門編集委員)

毎日新聞2018年5月 7日東京夕刊(2版)掲載 執筆記者:川崎浩

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