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読売新聞│配信日:2018年1月1日│配信テーマ:Jポップ  

[評]ZAZEN BOYS公演 吉田のベースの存在感


 ベーシストの吉田一郎が年内いっぱいで脱退することが発表された。ZAZEN BOYSといえば、ボーカルの向井秀徳が「くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動」などとお経のように繰り返す歌と、4人の一糸乱れぬアスリート的な演奏が特徴のバンド。10年にわたり屋台骨を支えた吉田の役割は大きかっただけに、今のうちにとライブ会場に向かった。
 ロックの基本はエイトビート、という固定観念はこのバンドにはない。変拍子に次ぐ変拍子。突然演奏がやみ、生まれる空白。「ハッ」というかけ声をスイッチに、爆音が空間を切り裂く。手拍子なんてできない。
 「HIMITSU GIRL’S TOP SECRET」は、とりわけリズムもフレーズも難解な楽曲。数えきれぬほどリハーサルを重ねたのだろう。完璧な間合いで、筋肉質な演奏を繰り広げる。向井が「本能寺で待ってる…」と繰り返す「Honnoji」は、聴き手を恍惚(こうこつ)の世界に引き込む。
 息をのむような緊張感漂うステージにおいて、吉田のベースはまさにリズムの要。重低音と金属音が入り混じる、戦車のような存在感。無音の空間に手拍子を入れ、叫び、浮遊する4人をつなぎ合わせる。なんと頼もしいベーシストか。
 終盤、向井は吉田に一言、「ようやった」と語りかけた。ホームページでは、脱退理由を「その持てるエネルギーを使い果たしました」と説明するが、この特異なバンドの土台を担うのは、大変な重圧だっただろう。向井の一言になぜかこちらまで安堵(あんど)した。今後の吉田とバンドの活躍に期待したい。(鶴田裕介)
 ——12月13日、東京・豊洲PIT。

読売新聞2017年12月21日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:鶴田裕介

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