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非登録ライター│配信日:2017年2月23日│配信テーマ:クラシック  その他  

日本クラシック界の巨匠3人が奏でるブラームスに唸る!



(取材・文/渡辺謙太郎)


 日本クラシック界を長年リードする3人の巨匠、ヴァイオリンの徳永二男、チェロの堤剛、ピアノの練木繁夫。彼らは少年時代に桐朋学園の音楽教室で学んだバックグラウンドをもち、1998年にはじめてトリオを組んで以来、約20年にわたってアンサンブルに磨きをかけてきた。

 この日の公演は、銀座のヤマハホールにおける人気シリーズの第3回。プログラムには、モーツァルトの「ピアノ三重奏曲第7番」、ラヴェルの「ピアノ三重奏曲」、ブラームスの「ピアノ三重奏曲第1番」という、時代も様式も異なる3つの傑作が選ばれた。

 前半冒頭に置かれたのは、モーツァルトの最後のピアノ三重奏曲にあたる第7番。ピアノが主体のシンプルな構成で書かれた作品だが、第1楽章はピアノと2本の弦がやや距離感をもって幕を開けた。その後、ニ短調の幻想的な展開部に入ると、3つの楽器が次第に親密に寄り添い、6つの変奏からなる第2楽章、シチリアーノ風の主題で編まれた第3楽章と、音楽が進むにつれてテンポは自在かつ流麗になり、音色にも張りと艶が増していった。

 これに続いて演奏されたのが、ラヴェルの三重奏曲。第1次世界大戦が勃発した1914年、トラック運転手として従軍していたラヴェルが、死と隣合わせの戦地で書き上げた傑作で、4つの楽章には生まれ故郷バスク地方の民族的色彩やオリエンタリズムが横溢する。

 バスク地方の舞曲ソルツィーコのリズムを基にした第1楽章は、冒頭から前曲のモーツァルトと世界観が一変。3つの楽器が、まるで水晶のように研ぎ澄まされた音色で巧みな掛け合いを展開した。続く第2楽章は、パントゥーム(マレー人の詩人が歌う遊戯)と題したスケルツォ。その精巧で躍動感にあふれた音楽を、3人は芯の通った骨太な表現で織り上げ、荘重な第3楽章のパッサカイユへと繋げてみせる。冒頭のピアノが奏でるモノローグは、はらわたに沁み入るような重低音が圧巻。その後は力強いクライマックスへと達し、最後は夜の帳(とばり)のような静寂へと収束した。そして、自由なロンド形式で描かれた最終楽章のアニメ。この日の解説にもあった通り、「変則的リズムの中で、三者がオーケストラにも匹敵する色彩感豊かな音楽を繰り広げる」光景を、満場の聴衆は恍惚として聴き入った。

 そして休憩を挟んでトリを飾ったのが、ブラームスの三重奏曲第1番。1854年、当時20代のブラームスが残した若書きの傑作だが、約半世紀後の91年に作曲者自身による改訂版が出版された。そのため、瑞々しさと円熟味が奇跡のように同居しているのが魅力だ。

 この日の3人は、第1楽章のロマンティックな第1主題を実にゆったりとしたテンポで朗々と奏でて開始。練木の精緻な組み立てによるピアノと、徳永&堤の歌謡性豊かな弦が絶妙にマッチしていた。これはその後の第2楽章のスケルツォ、第3楽章のアダージョ、第4楽章のアレグロでも継続。音楽はますます巨大な城郭のようになり、輝きを放ちながら作品の核心へと深く入り込んでいった。これまで筆者が耳にしたことがないような品質を随所に滲ませた、凄い、いや恐ろしいと言った方がふさわしい演奏だったと思う。

 万雷の拍手に応えてのアンコールは、前半に弾いたラヴェルの三重奏曲の第2楽章を再び。練木の説明によると、「先ほどの演奏で、私が音をひとつ外してしまったので(笑)」ということで、より精緻で情熱的な演奏が繰り広げられた。

 また、この演奏の前に徳永から、次回のヤマハホールでの公演が決定したことも告知された。開催は2018年2月2日。シューベルトが最晩年に書いた傑作の「ピアノ三重奏曲第1番」を中心に、ベートーヴェンの「ピアノ三重唱曲第4番《街の歌》」、ドヴォルザークの「ピアノ三重唱曲第4番《ドゥムキー》」を並べた豪華プログラムを奏でるそうなので、これは聴き逃せない!



「珠玉のリサイタル&室内楽
徳永二男、堤剛、練木繁夫による珠玉のピアノトリオ・コンサートVol.3」

日時:2017年1月27日
会場:東京・ヤマハホール

2017年3月22日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載

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