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音楽ライター記事

ライター:山崎│配信日:2017年1月26日│配信テーマ:洋楽  その他  

『グリーンルーム』はスリラーでありハードコア・パンク映画・アメリカン・カルチャー映画である


2017年2月11日(土)、映画『グリーンルーム』が日本公開される。

新生『スター・トレック』シリーズでチェコフを演じたアントン・イェルチンが主演するこの作品。2016年6月19日に27歳の若さで亡くなった彼の最後の作品のひとつということで話題を呼んでいるが、実は音楽ファンにとってもきわめて興味深い作品である。

本作でアントンが演じているのは、ハードコア・パンク・バンド“エイント・ライツ”のベーシストだ。ライヴを行った後、楽屋で殺人を目撃してしまう。そしてライヴハウスのオーナーであるネオナチ集団と殺し合いになる...というストーリーだ。

エイント・ライツはワシントンDC出身のバンド。ワシントンDCといえばバッド・ブレインズやマイナー・スレット、フガジなどを輩出してきた豊潤なハードコア・シーンがあり、アントンも本作でマイナー・スレットのTシャツを着ている。ただエイント・ライツは活動がパッとせず、おんぼろのバンでガソリンを盗んだりしながらツアーしている。

目的地に着いたら主催者の都合でライヴが中止になったため、仕方なく付近のライヴハウスで振り替え公演を行うことになったが、そこはホワイト・パワー(白人至上主義)/ネオナチ御用達のクラブだった。生活のためにはライヴをやるしかない、しかしネオナチ思想には共鳴できない...ということで、彼らが演奏するのはデッド・ケネディーズの「ナチ・パンクス・ファック・オフ」。全員白人の観衆はバンドに対して敵意を丸出しにして、中指を突きつけたり物を投げつけたりする。

ライヴ後に楽屋に戻ると、バンドを迎えたのは頭から血を流す死体だった。見てはいけないものを見てしまった彼らはネオナチ集団(リーダーはやはり『スター・トレック』シリーズでおなじみのパトリック・スチュワート)に命を狙われ、楽屋に閉じこもった後、逆襲に転じるのだった。

バンドとネオナチが次々と殺し合う、暴力描写の多い作品ゆえ、音楽もバイオレンス溢れるものだ。ナパーム・デス、スレイヤー、オビチュアリー、バッド・ブレインズ、ポイズン・アイディア、フィアー、ミッドナイトなどアンダーグラウンドのハードコア/メタルの楽曲が使われている。

ちなみに本物のホワイト・パワー系バンドの楽曲が使われていないのは意図的で、ビジネス上の関わりを持ちたくなかったからだそうだ。

さらに日本ではなかなか知ることが出来ないアメリカのホワイト・パワー/ネオナチ・カルチャーやライヴハウスの模様もヴィヴィッドに描写されており、ハードコア・カルチャーについてより深く知ることも可能だ。

監督・脚本のジェレミー・ソルニエは『ブルー・リベンジ』(2013)で注目を浴びた映像作家だが、ワシントンDCとポトマック川を隔てたヴァージニア州アレクサンドリアに育ったことで、スケボー少年だった頃からハードコア・シーンに親しんできた。バンドも組んでいた彼は、ライヴハウスの外で何者かが刺されて血の池が出来ているのを目撃したこともあったという。そんな当事者ゆえの描写はヒリヒリするほどリアルだ。

ところで海外メディアに掲載されたソルニエ監督の談話で興味深かったのは、危険視されているネオナチが、実際には暴力を振るわれる被害者側であることが少なくないということだ。“普通の”パンクスの中では“ネオナチ=悪”という図式が出来上がっているので、鉤十字や南軍旗、ホワイト・パワー系バンドのパッチを縫い付けているだけで、ボコボコに袋叩きにされることも珍しくないそうである。

スリラー映画であり、ハードコア・パンク映画であり、アメリカン・カルチャー映画でもある『グリーンルーム』は、1枚のチケットで3回オイシイ作品なのだ。本作を見て、アントン・イェルチンに追悼を捧げたい。



<映画情報>
『グリーンルーム』
2017年2月11日(土)より、新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー
公式ウェブサイト:http://www.transformer.co.jp/m/greenroom/

2017年1月26日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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