音楽ライター記事
放映が終わっても音楽は鳴り響く。老若男女あらゆる世代に届く「あまちゃん」の音楽(前編)
今年の夏から秋にかけて、「最近、早起きなんです」という音楽業界の人の声をあちこちで聞いた。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」をリアルタイムで観たいがために、というのがその理由だった。取材現場の雑談からライブでのMCまで、「あまちゃん」の話題が登場するケースが多々あった。音楽関係者限定で「あまちゃん」視聴率を調査出来たら、おそらく相当高い数字になっていただろう。脚本を書いているのがグループ魂に所属し、ミュージシャンとしても活動している宮藤官九郎であり、音楽ネタがたくさん盛り込まれた音楽ドラマであったことも大きかった。大友良英による劇伴の素晴らしさも大きな要因のひとつ。「あまちゃん」放映終了後、“あまロス”(あまちゃんロス症候群)なる言葉まで流行っているが、『「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック』(以下『1』)『「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック 2 』(以下『2』)という2枚のサントラ盤、さらに『あまちゃん 歌のアルバム』など、ドラマ関連の音楽作品もいくつかリリースされて、「あまちゃん」の音楽をいつでもどこでも楽しめる環境が整っている。ここではその音楽の魅力について考察してみたい。
サウンドトラックで特徴的なのは弦、管から打楽器まで、一線で活躍するミュージシャンたちが一堂に会しての生演奏の収録が基本となっていたことだ。『1』の21曲目の「あまちゃんクレッツマー」、35曲目の「灯台」などを始め、セッションから生まれるその瞬間にしかない熱、スリル、エモーションまでもが封じ込められた楽曲がたくさんある。映像と音楽との相乗効果も見事だった。演奏する人間の気配までもが伝わってくる表情豊かな楽器の調べがドラマの世界へのみずみずしい橋渡しとなっていた。
もともと大友は即興演奏による前衛音楽を中心として活動している音楽家だ。即興、前衛と書くと、マニアックで難解な音楽を連想するかもしれない。が、彼はむしろ真逆な音楽を展開している。音楽に課せられてきた枠組みや制約を取り払うことで、老若男女、あらゆる世代に届く柔軟な音楽を作っている。象徴的なのは歌謡曲、スカ、チャンチキなど、多様な音楽が一体となっている「オープニング・テーマ」。融合しているのはジャンルだけではない。クレイジーキャッツに代表される60年代の歌謡曲の持っていた朗らかさや80年代の歌謡曲の持っていた華やかさ、昔から脈々と続いているチャンチキの無邪気さ、自由奔放さなどなど、様々な年代の音楽の持っているバイタリティーが渾然一体となっている。インストでありながら着うたランキング1位を記録したり、高校野球の甲子園の応援曲として使用されたりと、幅広い層にに支持されているのはこの曲の中に過去から現在まで蓄積されてきた大衆音楽のDNAがたっぷり詰まっているからだろう。多彩な音楽の要素を駆使しながら、誰もが気軽に入っていって楽しめる間口の広さを持っているところにも「あまちゃん」の音楽の魅力がある。(以下後編に続く)
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