生物多様性の保全

生物多様性の保護・保全

自然環境の悪化に伴い、生物の多様性が加速度的に失われつつあります。ヤマハグループは、アコースティック楽器や各種製品の原材料として木材を使用するなど、天然資源およびそれらを生み出す多様な生物が関わりあう生態系からの恵みに支えられて事業活動を行っています。こうした森林や生物多様性の保護、保全に取り組むことは、木材使用企業としての責任であると捉え、それらに基づいた適切な事業活動、適正な木材活用や環境保全活動を推進しています。

木材資源への取り組み

ヤマハグループが生産しているピアノや弦打楽器、木管楽器などの多くは、主に木材でつくられています。また、音響性能や機能性、デザイン性、質感の良さなどから、電子楽器やスピーカー、防音室などにも木材を多く使用しています。

このように、事業活動において多種多様な木材を使用していることを踏まえ、生物多様性や生態系を損ねることなく、貴重な木材資源を持続的に活用していけるよう、ヤマハグループでは「ヤマハグループ木材調達方針」を定めるとともに、「ヤマハサプライヤーCSR行動基準」で木材資源の伐採および取引に際して調達先に順守を要請する事項を明確にしています。これらの方針や行動基準のもと、ヤマハグループでは持続可能な木材調達の実現とともに、再生可能な優れた資源である木材を無駄なく最大限に生かすことを目指しています。

ヤマハグループが使用する木材資源の原産地比率(2023年3月期)

木材購入量原産エリア別比率

[グラフ] 木材購入量原産エリア別比率

※ ヤマハブランドではない製品およびOEM/ODM製品を除く

体積の数値については、ESGデータのページに掲載しています。

木材デューディリジェンスの推進

木材を持続可能な形で利用し続けるには、森林保全や木材資源量への配慮と、サプライチェーンが経済的にも持続可能であるよう、雇用創出やインフラ整備といったコミュニティーの発展に資することが必要です。ヤマハグループでは、違法に伐採された木材を調達してしまうことがないよう、デューディリジェンスの仕組みを構築し、調達先への書類調査や訪問調査を通じて、伐採時合法性の厳格な確認を進めています。また、環境面に加え、地域コミュニティーの発展など社会・経済面でも持続可能な森林から産出される、認証木材の利用拡大を進めています。

購入した木材については、全ての取引先を対象に、原産地や伐採の合法性、資源の持続可能性に関する書類調査を実施し、その結果、リスクが高いと判断された木材については、現地訪問を含む追加調査および木材調達部門やサステナビリティ部門で構成する審査会での審議を通じて、より厳格な合法性の確認を行っています。2023年3月期に購入した木材については、99.6%(体積比率)が低リスクであることを確認しました。この調査はサプライヤーの協力のもと毎年行い、低リスク判定100%を目指していきます。また、認証木材の採用も積極的に進めており、2023年3月期の認証木材採用率は53.2%(うち新規採用5.6%、いずれも体積比率)となりました。2022年4月に発表した中期経営計画では、2025年3月期までに持続可能性に配慮した木材使用率を75%にする目標を掲げており、認証木材以外の木材に対しても持続可能性に配慮した木材であることを評価するための自社基準の策定を進めています。今後は、認証木材を含め、この自社基準に適合する持続可能性に配慮した木材の利用拡大を進めていきます。

[写真] 合法性審査会

合法性審査会

[写真] 訪問調査の様子

訪問調査の様子

原産地コミュニティーと連携した良質材の育成(おとの森活動)

楽器をはじめとする当社製品には多種多様な木材が使用されていますが、近年資源量の減少や品質の低下から、それらの持続性が懸念されています。ヤマハでは、高品質で楽器に適した木材を持続的に調達するために、地域社会と一体となって循環型の森林づくりを実現する活動をおとの森活動と名付け、行政や学術機関と連携し国内外で展開しています。

①タンザニアでの取り組み(アフリカン・ブラックウッド)

木管楽器の重要な材料である「アフリカン・ブラックウッド」は、IUCNレッドリストでNear Threatened(準絶滅危惧)に分類されるなど、近年その資源量が減少傾向にあると言われています。ヤマハは2015年より、原産地であるタンザニア連合共和国で同種の分布、生育、天然更新などの生態や森林の管理状態の調査を開始。同樹種を楽器素材として持続的に利用できるビジネスモデルの実現に向け、森林保全と楽器生産、地域コミュニティー開発の観点から、植林技術の導入や土地利用の改善、材料利用技術の開発などを進めています。これらの活動は、国際協力機構(JICA)のBOPビジネス連携事業(2016年~2019年)や林野庁補助事業(2015年、2021年)など、外部機関の事業への採択を受けながら、各研究機関やNGOなどのさまざまな団体と協業しています。

2015年に開始したアフリカン・ブラックウッドの定期的な植林活動には、現在3つのコミュニティーが活動に参画。2023年3月期には約3,500本の苗木を植栽、6年間で累計約15,000本(植林地総面積約8.5 ha)の植栽規模となりました。これら植栽個体の成長や立地環境データから、良質材育成に向けた基礎的知見を構築するとともに、現地NGOや地域住民との協働による苗木育成・植林活動を含めた森林管理の定着・拡大を進めています。2021年には、コミュニティーの農地にセンダン科の早生樹の導入試験を開始。15年程度で木材利用できる可能性のある早生樹は、中期的な木材生産による便益のほか、地域の土地利用の改善をもたらすことで、アフリカン・ブラックウッドなどの希少資源の保全への相乗効果を期待できます。

また、楽器用材の製材のために原産地では多くのアフリカン・ブラックウッドが、割れや節などの欠点を持つ材料として未利用のまま残っています。ヤマハでは、このような未利用資源の利用効率向上のための要素技術開発を進め、未利用資源にも付加価値をつけることによって、森林保全のインセンティブ向上を目指しています。

[写真] 植栽試験地での苗木成長

植栽試験地での苗木成長(中央左)

[写真] 早生樹の導入試験

早生樹の導入試験

②北海道での取り組み(アカエゾマツ)

ピアノの響板を製造している北海道の北見木材(株)(以下、北見木材)は、循環型の森林づくりとアカエゾマツ人工林材の需要拡大に協力すべく、2016年にオホーツク総合振興局、北海道紋別郡遠軽町との三者協定に調印しました(「オホーツク おとの森」設置に関する協定)。

2021年にはヤマハ(株)が北海道との包括連携協定を締結し、北海道全域へのおとの森活動の展開を進めています。北海道に自生するアカエゾマツは、かつてはヤマハのピアノ響板に使われ、有用種として植林も続けられてきました。

これらの協定では、ピアノ響板に使用できる高品質なアカエゾマツの安定供給を再び北海道で実現し、「木の文化」を次世代につないでいくことを目指しています。

2022年10月、北見木材の近くにある遠軽町有林では通算3回目となる植樹祭が開催され、北見木材従業員とその家族、ヤマハの関係者等など約70名が参加して600本のアカエゾマツ苗木を植えました。また、2023年1月には、札幌で開催された「木育フェスタ2022」での木育ひろば in チ・カ・ホに出展して一般向けに活動発信したほか、アカエゾマツの間伐材やイタヤカエデの工程未利用材などを活用した手作りカスタネットのワークショップを開催しました。おとの森活動の「木育」の一環として、子どもたちに楽器づくりと木を身近に感じてもらえるように企画された本ワークショップは、2023年3月にヤマハ銀座店でも開催し、合計4日間で53名の参加者にカスタネットづくりを体験していただきました。

この他、大学や研究機関と進めているアカエゾマツ人工林材の成長と材質に関わる共同研究、道有林や民有林での森林調査など、現存の人工林や新たな造林地からアカエゾマツ材を楽器用材として育てていくための基礎研究を進めています。

[写真] 「オホーツクおとの森」設置に関する協定 植樹祭

「オホーツクおとの森」設置に関する協定 植樹祭(2022年10月)

[写真] ヤマハ銀座店での手作りカスタネットワークショップ

ヤマハ銀座店での手作りカスタネットワークショップ(右下は完成品)

③インドでの取り組み(インドローズウッド)

インドローズウッド(Dalbergia latifolia)はギターの側板や裏板に使われる重要な楽器用材であると同時に、インド南部を代表する有用木材種の一つです。ヤマハは、2022年よりインド南部のカルナータカ州、ケラーラ州を中心に森林から原木・楽器用材へとつながる現地のサプライチェーン、および森林における同種の生育、更新を対象とした調査を開始しました。インドでは、天然林に自生する個体の他、コーヒー農園に日陰樹として植えられて成長したものが原木として流通しています。しかし、いずれの場合でも森林内での天然更新が進んでおらず、持続的な資源保全の観点での課題が見られました。今後は、現地の民間企業やNGO、研究機関と連携して、良質材育成のためのビジネスモデル構築と実証を進めていく予定です。

[写真] カルナータカ州に自生するインドローズウッド成木

カルナータカ州に自生するインドローズウッド成木

[写真] 官営の貯木場に集められたローズウッド丸太と断面

官営の貯木場に集められたローズウッド丸太と断面(右下)

木材資源に対する製品の環境配慮

ヤマハグループでは、再生可能な優れた資源である木材を持続的に活用していくために、森林や生態系を損なうことのないよう適正に管理された認証木材や、計画的に植林された産業用途の木材を積極的に導入しています。一方、楽器に適した希少樹種の優れた機能を再現した代替素材の開発にも注力しています。

木材資源に配慮した製品

天然林の保護

製品・サービス 概要 外観
エレキギター『RGX-A2』 天然木に代えて植林材を使用 [写真] エレキギター『RGX-A2』

希少樹種木材の代替

製品・サービス 概要 外観
ガラス強化繊維プラスチック
『アクースタロン™』
マリンバの音板における希少木材の代替 [写真] ガラス強化繊維プラスチック『アクースタロン™』
黒檀調天然木 ピアノ黒鍵における黒檀の代替 [写真] 黒檀調天然木
カーボン弓 フェルナンブコ材など希少木材の代替 [写真] カーボン弓

化学物質の使用抑制(A.R.E.による木材改質)

製品・サービス 概要 外観
アコースティックバイオリン『YVN500S』アコースティックギター『L』シリーズなど ボディ材をA.R.E.処理することで化学薬品を使用することなく音響特性を改質 [写真] アコースティックバイオリン『YVN500S』、アコースティックギター『L』シリーズなど
ヤマハ銀座ビル内ヤマハホール ステージ床材をA.R.E.処理することで化学薬品を使用することなく音響特性を改質 [写真] ヤマハ銀座ビル内ヤマハホール

※ A.R.E.: Acoustic Resonance Enhancement

木材の経年変化と同様の変化を短時間に促進することで音響特性を改質するヤマハ独自開発の技術。温度、湿度、気圧を高精度にコントロールする専用の装置で処理することで、新しい木材をまるで長年使い込まれた楽器のような深みのある音が出る木材へと変化させます。従来の木材改質技術は化学薬品を用いた化学処理的改質方法によるものが多かったのに対し、A.R.E.は、その処理過程で薬剤などを一切使用しない、環境面への負荷が低い技術です

環境・生物多様性保全の取り組み

森林・自然環境の保全

ヤマハグループでは、地域特性に合った天然林の再生、生物多様性の回復などのため、国内外で植林活動などを行い、森林・自然環境の保全に努めています。

インドネシア「ヤマハの森」活動

2005年から2016年には、拠点を置くインドネシアで現地法人などとともに、植林を通じて地域社会へ貢献していく「ヤマハの森」活動を実施し、学術的調査に基づいて選定した樹種の植栽を合計176.7ha、約17万本行いました。衛星写真による森林の育成状況の確認と森林が吸収したCO2量の推計を実施したところ、合わせて約42,000tのCO2が吸収されたと見込まれています。

遠州灘海岸林の再生支援活動

2007年には、静岡県および浜松市と「しずおか未来の森サポーター」協定を締結。以来、浜松市の市有地である遠州灘海岸林の再生支援活動に取り組んでいます。これは、松くい虫被害の深刻な海岸林に、継続的に苗木を植える活動で、これまでにヤマモモやウメバヤシ、マサキ、エノキなど合計3,000本以上の植樹をしてきました。近年は、松くい虫被害に強いとされている抵抗性クロマツに特化して植樹を継続したところ、植林した樹木は順調に育っています。

なお、この活動に対し、「しずおか未来の森サポーター」事務局である静岡県くらし・環境部環境局環境ふれあい課より、認定ラベル(smileラベル)が付与されています。これは本活動が、労力による貢献(smile1)、資金による貢献(smile2)、地域との連携(smile3)の全てを満たしていることが認められたものです。

[写真] 植樹の様子(2022年)

植樹の様子(2022年)

[写真] 成長した松の木

成長した松の木

[画像] Smile1:労力による貢献

Smile1:
労力による貢献

[画像] Smile2:資金による貢献

Smile2:
資金による貢献

[画像] Smile3:地域との連携

Smile3:
地域との連携

化学物質の対策

ヤマハグループでは、化学物質による環境や生態系への影響を抑止するため、化学物質管理の強化および使用量削減、漏えい対策に取り組んでいます。

水質保全

事業所からの排水が公共水域や土壌、地下水を汚染し悪い影響を与えないよう、処理施設の整備およびモニタリング、監査を行っています。

管楽器の生産を行う(株)ヤマハミュージックマニュファクチュアリング(ヤマハ(株)豊岡工場構内)では、生産工程から出た化学物質を含む排水を無毒化処理して河川に放流しています。そこで、定期的に工場排水の生態系影響評価を実施して、工場排水の影響を、生物応答を利用した「WET手法」を用いて評価し、生態系への影響がほとんどないことを確認しています。

  • WET手法:Whole Effluent Toxicity (全排水毒性試験)。希釈した排水の中で、藻類・ミジンコ類・魚類の水生生物の生存、成長、生殖に与える影響を測定し、工場・事業場からの排水全体が生態系に対して有毒かどうかを評価する排水管理手法