インストゥルメンツデザイン
グループ マネージャー
中島 一仁
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スポーツ用品で学んだ道具と人の関係

ずっとサッカーをやっていて、スポーツが身近だったので、入ってすぐにスポーツ用品を希望しました。当時ヤマハはスキーもアーチェリーもテニスもやっていたので、一通り経験しとても勉強になりました。スポーツ用品におけるデザインで重要なのはアスリートやプレイヤーの気持ちを鼓舞する、ドライブすることなんです。スポーツは勝ち負けがはっきりしていますから、道具と人間の関係のありようが楽器とは違い非常にシビアでした。その後「騙されたと思って楽器やってみろ」と言われて、そこからずっと楽器です(笑)。ギター、ドラム、ピアノなど主にアコースティック楽器をやってきました。

ヤマハの本質を示したサイレントギター

楽器のデザインは長く携わっていますが、特に印象的だったのはサイレントギターですね。これはアコースティックとデジタルがハイブリットされた新しいギターで、音とデザインにこだわってエンジニアと毎日論議しながら作りました。ギターってひょっとしていちばん世の中に普及している楽器かもしれないのですが、デザインはピンきり、種類も無数に存在する中デザインでも存在感を出すことが課題でした。音響的メリットからクラシックギターを下敷きにして全く新しい楽器を作る気持ちで、さまざまなモックアップ(形状試作)をたくさん作って抱きごこちを確かめながらどんなデザインが相応しいか相当考え抜きました。それはアコースティックとデジタルを融合させることで今までのギターには無かった新しい楽しみ方を提案し、従来のギターの演奏性はそのままに、斬新なデザインを簡潔に表現することが出来ました。おかげでサイレントギターは大ヒットし、この成功よって「ヤマハが何を強みとするか」が明快になったと思います。これは他の会社には真似ができないことです。また一方でパイプオルガンに関わることができたことも印象深いですね。パイプオルガンはピアノとはまた違った意味で楽器の最高峰で、とにかくあの音が好きなんです。自分が担当したのは小型パイプオルガンで今は生産終了してしまいましたがこのときの経験も自分の財産だと思っています。

プレイヤーのための“道具”として

現在の主な業務はインストゥルメンツグループのマネージメントです。「インストゥルメンツ」とはプレイヤーが使う“道具”ということで、楽器からゴルフ用品までジャンルを横断して担当しています。ヤマハデザイン研のグループは元来製品ジャンルごとにアコースティック楽器、電子楽器、ゴルフと分かれていたんですが、昨今のボーダーレス化でデザインも分けて考える意味が希薄になってきた。顕著な例では一般のお客様が電子ピアノを『ピアノ』と呼ぶことからも分かるように、すでに最高級のアコースティックピアノから普及品のデジタルピアノまでトータルピアノという考え方でボーダーレスにつながっていて、ターゲットに対するアプリケーションの仕方に違いがあるだけで、個々の製品に対し『ピアノ』の本質的な価値をヤマハらしく表現することが私たちデザイナーの役割と言えます。ギターやドラムでも同様のことが起っているし、ストリングスにおけるサイレントバイオリンをはじめとする一連のシリーズはヤマハの独自性が明確に表現された成功例に挙げられます。ですからそれぞれの垣根を取り払ってアコースティック、電子楽器、そしてゴルフまでを含めてInstrumentsとして統一し、これらを「道具」としいう観点で考えることにしました。楽器かゴルフクラブというジャンルではなくより高い「道具」という観点かで捉えることで、その解釈は自然と本質を追求することになります。インストゥルメンツとは端的に言えばUseするのではなくPlayするもの。私たちが目指しているのは「プレイヤーにとって必要な本質を目指してデザインする」ということ。プレイヤーから情熱を引き出したり、気持ちを鼓舞するもの。「やるぞ!」という気持ちを引き出せるもの。一方でとことん夢中になって楽しむものでもある。しかも単に美しいとかカッコイイということではなく、プレイヤーが何を必要としているかを熟知したデザイン。そうでなければPlayはできないと思います。料理人の包丁のように、握った途端に体の中に入っていくものかもしれませんね。自分との境界がなくなるというか。しかも音楽からゴルフまで様々な分野でのインストゥルメンツの製品群に横串を通してヤマハのデザインアイデンティをあぶりだして磨き上げる、それがいまの僕たちのミッションだと思っています。