アドバンスドデザイン
グループ マネージャー
勝又 良宏
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WX5で志向し、EZ-EGで実現したハイテクとクラフトの融合

最初の頃に担当したのはリズムマシンのRY20などデジタル楽器でした。自分がデザインした楽器を初めて店頭で見た時、「ああ、ついに送り手の側になった」と実感したことを覚えています。2年目に担当したのがサイレントブラス。トランペットなどの金管楽器をヘッドフォンで聴きながら家で練習できる一種のミュートなんですが、これは今までに世の中に存在しなかったイノベーティブな製品で、とてもやりがいのある仕事でした。発表後トランペットをやっている後輩に知らせたら買って使ってくれて、とても喜んでくれました。身近な人からそんな声がきけたのは初めてだったので本当に嬉しかったです。その後、ウィンドMIDIコントローラーWX7の後継機WX5を担当しました。WX7は「音を奏でる棒」と言っていいぐらい、ミニマルな表現を極めた機器的なデザインでしたが、WX5はこれにあえて木製のボディを与えるというアイデアを採りました。実際には木ではなくてプラスチックで表現しましたが、ハイテクとクラフト的な暖かみの融合を自分なりに志向したものでした。ミニマルに表現された電子デバイスの部分とクラフトを象徴する木製のボディを対比させるというコンセプトは、その後担当した「光るギター」EZ-EGにおいて、より理想的な形で実現できたと思っています。

SB-7 / 1995
WX5 / 1998
EZ-EG / 2002

ロンドンで学んだネットワークづくり、そしてケンブルのピアノ

その後2005年11月から3年間イギリスへ行きました。ヤマハデザイン研究所には「今後デザインがその力を有効に発揮するには、様々な分野からの才能を集めてプロジェクトをまとめていく役割が求められるだろう」という認識があり、そのための人的ネットワークを構築するのが僕のミッションでした。
それでロンドンに着任後、いろんな人を訪ね、挨拶して回ったんですが、なかなか具体的な動きに繋がりませんでした。ちょっと焦りを感じていた頃、たまたま"PechaKuchaNight"というイベントに誘われました。これはスライドを20枚使って自由なテーマで6分間しゃべるというイベントで、ロンドンのアートシーンの錚々たる面々が参加していました。僕はそこで何かキッカケが掴めるかもしれないと考え、あえて個人的に参加しているデザイナーの集まり「カタチ研」での活動を紹介をしたんです。そしたらいろんな人から「面白いことをしてるね」って声をかけられて。そこからロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)でワークショップに繋がる人脈と出会えたり、後にコラボレーションをお願いすることになる著名なデザイナーと知り合えたり、どんどんコネクションが広がっていきました。その時痛感したのはネットワークを構築するには、ドアを叩くだけでなく自分自身が発信していなければならない、ということでした。
もう一つロンドンで思い出に残っているのは、当時ヤマハと関連が深かったイギリスのピアノメーカーであるケンブルとの仕事で「Radius」という欧州仕向けのピアノをデザインしたこと。ピアノの本場であるヨーロッパ文化圏で、伝統的な家具や建築の装飾美術を日常の暮らしのなかで学びその成果を存分に活かしながら、ピアノの伝統的な作り方を変えることなく、それでいて全く新しい表現を提案することができました。また開発から発表後に至るまでケンブルのスタッフの皆さんと喜怒哀楽を共有することができ、大変思い出深い、充実感のある経験でした。

Radius / 2007

デザインの視点から新しいビジョンを提示する

現在の仕事はアドバンストデザイングループのマネージメントです。アドバンストデザイングループのミッションのひとつは、まだ製品化を前提としていない段階の基礎的な技術や製品について、研究開発グループとともに協業しデザインの視点でビジョンを描き出すこと。ほとんどがまだ開発段階なのでオープンにできませんが、一つだけ例を挙げると、ヤマハが開発した「スピーチプライバシー」という技術があります。これは人が話している声を最先端の音響技術でスクランブルし、周囲に内容が漏れないようにマスキングする独自技術なのですが、この技術を活かしてどんな製品ができるのか、そしてその製品はどこで使われてどんな形をしているのか。その仮説をリサーチを通して形成し、実際にスケッチを起こして開発チームとともに研究することで、製品企画へとつなげています。全く新しい技術内容を理解すること。様々な立場からの意見をよく聞き、真の問題点を見いだすこと。そこにアイディアを与え、より魅力のあるビジョンを描くこと。アドバンストグループにおける全てのプロセスにおいてイギリスでの経験、デザイナーとしての経験が活きている、と実感しています。
またもうひとつのミッションとして、デザイン研究所が主導となって、デザインの力で新たな価値を創造する、というものがあります。こちらでもイギリスで経験した「発信する」ことの大切さを活かし、必要に応じて公開することを通してその価値を検証する、というスタンスで取り組みたいと考えています。