あらゆる音楽活動を、
地球環境にやさしいものに。
〈後編〉

Mauricio Lizarazo Prada/音楽プロデューサー、イベントオーガナイザー

「サステナブル」が当たり前の世界に。

音楽業界は、地球環境への配慮を欠いている──。危機感を覚えたMauricio Lizarazo Prada氏は、サステナブルな音楽活動を支えるツールの開発へと向かいます。「サステナブルな音楽活動を実現させることは、私たちの世代のミッション」と言い切る氏の思いとは。

音楽活動それ自体が、環境に大きな負荷をかけている。

音楽プロデューサーとして活動するなかで見えてきたのは、サステナビリティへの配慮を大きく欠いた音楽業界の実態です。ライブやCD生産は膨大なエネルギーを消費し、たくさんの廃棄物を生み出しています。音楽活動それ自体が環境に悪影響を与えているわけです。そうだとしたら私たちもポジティブな気持ちで音楽に関わり続けることができません。この業界の抱える問題を正しく認識し、改善に向けたアクションを起こさなければならない。そんな思いから「サステナブルミュージック(持続可能な音楽)」の実現に向けた取り組みを始めました。

まずは音楽ビジネスにおいて「どのプロセスが、どのくらい環境に負荷をかけているのか」をリサーチし、「Sustainable Music C•A•R•E•S」という活動方針としてまとめました。

Sustainable Music C•A•R•E•S

環境課題についての認知の拡大や、二酸化炭素排出量の削減といった、サステナブルな音楽ビジネスが目指すべきゴールも掲げています。これは2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」、なかでも12番目の目標である「つくる責任つかう責任」にも適合します。2016年の「ワールドミュージックカンファレンス」や、2017年の「TED×Talk」では発表の場にも恵まれました。「Sustainable Music C•A•R•E•S」の社会的な認知度は、少しずつではありますが、確実に高まってきています。

2017年「TED×Talk」、2019年「スイスのフリブール大学」での公演の様子。

サステナブルな音楽活動を支えるツールを作りたい。

こうした成果に手応えを感じる一方で、もどかしさを覚える機会も増えました。サステナブルミュージックのコンセプトには共感できるけれど、具体的に何をすればいいのかわからない。そういった声が少なからず聞こえてくるようになったからです。そこで次なる展開として、ライブの企画やプロデュースに携わる人を対象としたアプリの開発に乗り出しました。具体的には、会場選びや機材の手配といった、音楽プロデュースにまつわる業務をサステナビリティの観点からサポートするアプリです。再生可能エネルギーを使用して炭素の発生を抑えている会場はどこか。森林保全に取り組んでいる楽器メーカーはどこか。ビーガンフードを手配できるケータリングはどこにあるか。こういった情報を一覧できるアプリが普及すれば、音楽イベントによる環境への負荷は格段に減らせます。どれだけ炭素の発生を抑制できたかを数値化する機能も持たせられるといいですね。

普及を加速させるために、より割安な会場やサービスなどがサジェストされる機能も盛り込みます。経済的なメリットも得られるアプリであれば、環境問題に関心の低い人でも使いたくなるはずだからです。開発には時間もお金もかかりますが、音楽業界を変えていくために必ず完成させようと思います。

ベルリンにある自宅オフィスにて。

愛娘たちが思い切り音楽を楽しめる未来を。

もちろん、これまで同様に音楽ライブのプロデュース活動についても、手を緩めるつもりはありません。優れたライブには、人々の意識と行動を変える力があります。私自身がポールから多大な影響を受けたように、アーティストの抱く思想は確実にオーディエンスへと届くものです。高い志を持ったアーティストとのコラボレーションによって、世界にポジティブな変化を起こし続けていきたいですね。

環境問題に取り組むことは、私たちの世代に課せられた使命です。私にはふたりの娘がいて、彼女たちも音楽が大好き。将来はもしかしたら音楽に携わりたいと言い出す可能性だってあります。彼女たちの世代が、思い切り音楽を楽しめるようにするためにも、音楽業界はサステナビリティを意識していかなければなりません。いずれは、誰もが意識せずとも「サステナブル」に行動できればと思います。音楽に限った話ではなく、あらゆる場面で環境を意識しながら行動することが当たり前の世界に。そんな未来の実現に向けて、これからも音楽に携わっていきたいと思います。

コロンビアのボゴタで開催された「Rock al Parque 2014」でEl Sie7eと共演。

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Mauricio Lizarazo Prada音楽プロデューサー、イベントオーガナイザー
コロンビア出身。ベルリンを拠点に、バンドやイベントのプロデュースを手がける。環境問題に強い関心を持つ。「サステナブルミュージック(持続可能な音楽)」の実現のために精力的に活動し続けている。

取材日:

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